【インタビュー】大手前大学 吉川正剛先生 | 就活の不安は受け止め方で変わる!心理学に基づいた論理療法で引き出す“自分らしい選択”

大手前大学の吉川正剛先生インタビュー

「就活の教科書」編集部 野口

「就活の教科書」取材担当の野口です。
今回は、大手前大学でキャリア教育の専門教員として学生の支援に尽力されている吉川正剛先生に、カウンセリング心理学や教育学に基づいた現代の就活生への関わり方や、主体性を引き出すための授業・教材開発の工夫についてお話を伺いました。
Profile

大手前大学の吉川正剛

吉川 正剛(Yoshikawa Masatake)
大手前大学現代社会学部 助教 / キャリア教育専門教員
学習塾の職員として児童・生徒の学習指導や進路指導に携わった後、大学職員(教務課)を経てキャリア支援部門へ異動。就職活動の伴走やキャリア教育に従事する。その後、大学教員へと転身し、福島県の大学で2年間キャリア教育を担当したのち、大手前大学に着任。国家資格キャリアコンサルタント保有。

大手前大学の吉川正剛先生にインタビュー

塾講師からキャリア支援へ。「個」に向き合う情熱の原点

── さっそくですが、吉川先生のご経歴とキャリア教育の分野に進まれたきっかけについて教えてください。

吉川先生: 私は現在、大手前大学でキャリア教育専門の教員として着任して3年目になります。それ以前は福島県の大学で2年間、キャリア教育担当の教員を務めていました。

さらに遡ると、大学のキャリア支援部署で就職支援やキャリア教育をサポートする職員として働いており、キャリア関連の仕事には通算で14〜15年ほど携わっています。それ以外にも、学校の教員や学習塾の講師といった教育領域で社会人としてのキャリアを積んできました。

 

── 教育の現場から大学のキャリア支援へ移られた際、どのような思いがありましたか?

吉川先生: 元々は塾の講師として中学受験や高校受験を目指す子供たちをサポートしていました。その後、大学職員として教務課で履修や時間割の業務を担当し、人事異動でキャリア支援の部署へ配属されたのが始まりです。

実際にキャリア支援の現場に立ってみると、正面から就活生と向き合う感覚が学習塾時代とよく似ていることに気づきました。学生の支援を通じて内定が取れたら喜び合い、上手くいかなかった時は一緒になって悩み、次の手を考える。

元々塾の仕事に強いやりがいを感じていた私にとって、キャリア支援の仕事は自分にとても合っていると実感し、それ以来キャリアの分野で活動を続けています。

 

現代の就活生が抱える「漠然とした不安」と「失敗への慎重さ」

── 長年学生を見守ってきた中で、近年の就活生に見られる意識や悩みの変化を感じる部分はありますか?

吉川先生: 学生に対する意識調査などを見ても、低学年の頃から将来の就職や進路に対して不安を感じている割合は一貫して高い水準にあります。

一方で特徴的なのは、大学3年生になって講義やプログラムを受け、就職活動に向けた心構えや準備を整えた後でも「不安が解消されない」と話す学生が多い点です。

その不安の内容を詳しく聞いてみると、非常にぼんやりとしていて、自分自身が何に対して不安を感じているのかすら見えていないケースが増えています。背景には就職活動のスタート時期が早期化している影響もあり、焦りばかりが先行して「漠然とした不安」を抱え続けてしまう傾向が強まっている印象です。

 

── 昔の就活生と比較して、行動面や心理面で目立つ特徴はありますか?

吉川先生: 就職情報サイトなどのデータを見ても、1人の学生が応募する企業数や面接を受ける件数は以前に比べて減っています。できる限り受け手を絞り込み、少ない手数で効率よく内定を得ようとする慎重な動きが伺えます。

また、3年生の夏に行われるサマーインターンシップでも、近年は選考を伴うものが増えています。

そこで志望度の高い企業に応募して選考に落ちてしまった際、大きなショックを受けて心が折れてしまい、就職活動の大事な準備期間中に活動をストップさせてしまう学生が見受けられます。

 

── インターンシップの選考での不合格がそこまで大きなショックになってしまうのは、なぜでしょうか。

吉川先生: 背景には少子化による18歳人口の減少があります。現代の学生たちは、小・中・高・大学と進学してくる中で、「選考を受けて落とされる」という体験をほとんどせずに育ってきているケースが多いのです。

そのため、サマーインターンシップの選考で人生で初めて「落とされる」という体験をし、心理的なダメージを強く受けてしまうのではないかと考えています。

 

── 選考企業を絞り込み、情報を集めてから慎重に応募するスタイルについて、吉川先生はどう捉えていますか?

吉川先生: 明確な自分の軸を持って「ここを起点に挑戦しよう」と定まっているなら問題ありません。しかし、給与や勤務地といった「条件面」だけで無理に数を絞り込んでしまうのは好ましくないと考えています。

働くということは、周囲の人や社会の役に立ち、関わる人たちを楽にする心構えが必要です。自分の居場所を社会の中にどう作っていくかという視点を持たずに条件だけで選別してしまうと、視野が狭くなってしまいます。

授業でも「ビジネスの世界が今どうなっていて、自分はどの分野で貢献したいか」という問いかけを行い、初期の段階では選択肢を広く持っておくよう指導しています。自分らしさを発揮することと、社会の中で役割を果たすことのバランスを取ることが重要です。

 

心理学と教育学に基づくキャリア教育と「ありのままを受け止める」アプローチ

── 学生の主体性ややる気を引き出すために、講義やカウンセリングで意識されているポイントを教えてください。

吉川先生: どの授業や面談でも、共通して学生に伝えているポイントが3つあります。

1つ目は「自分の進路は自分で選択する」ということです。他人から与えられたレールの上を歩いていると、上手くいかなかった時に「あの人が言ったからこうなった」と他人の責任にしてしまい、立ち直れなくなります。

自分で選んだ道であれば、仮に壁にぶつかっても納得感を持って向き合うことができます。私は『銀河英雄伝説』という作品に出てくる「運命なんかに自分の人生を左右されてたまるか」というセリフが好きで学生にも紹介するのですが、人生の主人公は自分であり、自分の決断に納得して進む姿勢こそが主体性の根幹です。

2つ目は「人生を楽しむ目的を持ち、逆境を生き抜くしなやかさを身につける」ことです。思い通りにいかないことが起きた時でも、柔軟に乗り越える心のしなやかさを育むことを重視しています。

そして3つ目が「ありのままの自分を受け止め、勇気を持って社会に打ち出していく」ことです。

 

── 「ありのままの自分を受け止める」ために、吉川先生は心理学の知見をどのように活用されているのでしょうか?

吉川先生: カウンセリング心理学における「論理療法(REBT)」の思想を取り入れています。論理療法には「ABC理論」という考え方があります。

ABC理論
  • A:Activating event:出来事
  • B:Belief:受け止め方・考え方の癖
  • C:Consequence:結果としての感情や行動

A(Activating event:出来事)があり、それによってC(Consequence:結果としての感情や行動)が生まれると思われがちですが、創始者のアルバート・エリスは「出来事そのものが感情を決めるのではなく、その出来事をどう受け止めたか(B:Belief:受け止め方・考え方の癖)が感情や行動を決める」と提唱しました。

 

── 具体的に、学生の事例で説明するとどうなるでしょうか。

吉川先生: 例えばコロナ禍の初期、対面活動が制限されて「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)でアピールできるネタがない」と悩む学生が増えました。

その際、「外出制限があるから何もできない」と受け止める人と、「制約がある中でオンラインを活用してイベントを集客してみよう」と受け止める人がいました。直面している「出来事(A)」は同じでも、「受け止め方(B)」の違いによって、その後の「行動や成果(C)」が大きく変わるのです。

学生には自身の「考え方の癖」に気づいてもらい、受け止め方を少し修正するワークを行っています。出来事そのものは変えられなくても、捉え方を工夫することで激しい落ち込みや不安を自分でコントロールできるようになります。

 

価値観と言語化を促す独自の授業プログラム・教材

── 学生の価値観を引き出すために、具体的にどのような授業プログラムや教材を活用されているのですか?

吉川先生: 心理学や教育学の知見を活かし、ストーリーを読んで学生同士で意見交換を行うワークを取り入れています。

例えば、小学校の道徳教材として長年使われてきた『手品師』というお話を使っています。売れない手品師が、寂しそうにしている男の子と出会い「明日も手品を見せてあげよう」と約束します。

しかしその夜、大劇場での出演オファーというキャリア上の大きなチャンスが舞い込んできます。大劇場に出れば夢が叶うかもしれないが、男の子との約束は破ることになる。この二者択一の状況を提示し、「あなたが手品師ならどちらを選ぶか」を学生同士で議論してもらうのです。

 

── 学生がその問いに向き合うことで、どのような変化が生まれますか?

吉川先生: 学生によって「約束を守るべき」「チャンスを掴んで後で男の子に恩返しすべき」など、意見が大きく分かれます。

重要なのは正解を出すことではなく、「自分は人生の分かれ道で何を大切にして選択するのか」という自身の価値観に気づくことです。また、自分とは異なる価値観を持つ他者の意見に触れることも、キャリア形成において貴重な学びになります。

他には、フローレンス・ナイチンゲールの生涯を題材にした授業も行っています。彼女が実際に現場の看護師として活動した期間はわずか数年程度でした。それにもかかわらず、なぜ現代まで語り継がれる存在となったのか。

それは、自ら志を持って現場に飛び込み、自分で道を選んで行動し続けたからです。単なる職業選択のテクニックではなく、自分の人生をどう生きるかという「根底の価値観」に光を当てるアプローチを行っています。

 

── 最後にメッセージをお聞かせください。

吉川先生: 本学では、キャリア教育の中で「Being(信念と志)」を育むことを重視しています。社会の中で何を成し遂げたいのかを自分自身に問いかけ、言語化し、行動に移していく教育姿勢です。大学のキャッチコピーである「ゆさぶる ささる 胸を打つ」の言葉通り、学生の心を動かす関わりを心がけています。

私自身はこれを「生きる勇気のキャリア」と呼んでいます。自分自身のありのままを受け止め、自分らしく社会で生きていくための土台を作ること。

就職活動というと「やりたいこと」や「適性」から探しがちですが、その前段階にある「信念や心の在り方」という土台を固めて初めて、自己分析や業界研究が意味を持ちます。今後も学生が自分自身の人生の主人公として、自信を持って社会へ飛び立っていけるよう支援を続けていきます。

「就活の教科書」編集部 野口

「受け止め方を変えること」の大切さを教えてくださった吉川先生。就職活動を「人生の主人公として歩む第一歩」と捉える視点は、漠然とした不安を抱える多くの就活生にとって深い導きとなるはずです。
吉川先生、本日は貴重なお話をありがとうございました!