【インタビュー】奈良教育大学 小﨑誠二教授 | 生成AIに仕事は奪われる?これからの時代の教育とは

奈良教育大学 教職大学院 小﨑誠二先生 取材

「就活の教科書」編集部 野口

「就活の教科書」取材担当の野口です。
今回は、奈良教育大学 教職大学院の小﨑誠二教授にインタビューしました。
「ICT活用全国最下位」だった奈良県を教育DXの先進地へと導いた小﨑教授に、生成AI時代の「学びのあり方」や、これからのキャリアについて伺いました。
Profile

小﨑誠二先生 取材
小﨑 誠二(Seiji KOZAKI)
奈良教育大学大学院 教育学研究科 教授
奈良市 教育CIO補佐官
奈良市教育委員会 教育部 スクールDXプロジェクトマネージャー

奈良教育大学卒。高校教員(国語・情報)を20年間務めた後、奈良県教育委員会に17年間勤務。ICT環境の整備が遅れていた奈良県において、教育のデジタル化を推進。現在は奈良教育大学の教職大学院にて、AI・DXをベースにした探究的な学びの教育研究に従事。GoogleのAI活用事例でも取り組みが紹介されるなど、教育×言語×テクノロジーの第一人者として活躍。

 

奈良教育大学 小﨑誠二教授にインタビュー①:生成AIとの向き合い方とこれからのキャリア

生成AIを活用すると能力を拡張できるのか

── さっそくですが、生成AIとの向き合い方についてどうお考えですか。

小﨑先生:今は、大きく二つの流れになっているのではないかと思います。

一つは、自分の「やりたい」を加速させるための能力の拡張として使う人です。今までは環境に恵まれた人しかできなかった「起業」や「研究」や「高度なテクノロジーの活用」が、生成AIを相棒にすることで誰でも挑戦できるようになりました。

例えば、3Dプリンターで新しいものづくりをしたり、困っている人のためにウェブサイトを立ち上げたり。中には、小中学生で、生成AIを駆使して会社の会計を手伝い、「社長」のような働きをしている人もいます。このように、可能性を広げるポジティブな側面があります。「自分の能力を拡張する」という使い方であれば、どんどん生成AIを使えばいいのではないかと思います。

 

懸念:認知負債

小﨑先生:一方で、自分の頭で考えずに「生成AIに依存してしまう人」が増えてしまうことを懸念しています。生成AIに丸投げしてしまって、プロセスを理解しないままでその場しのぎをすることによって、知識がつながらず、後々物事を理解できなくなることを「認知負債」と呼びます。生成AIに任せすぎることで、人間本来の「思考する力」が衰えてしまうことがネガティブな側面です。

例えばプロスポーツの選手が、なぜそのトレーニングをするのかを理解せずに体を鍛えても、一流のアスリートにはなれません。なぜこのトレーニングをするのかを理解しているからいい筋肉がつく。それは「思考」も同じです。

 

負荷がかかるけれど、悩んで、自分で答えを出す。そのトレーニングを生成AIに丸投げしてしまったら、人は成長できないのではないでしょうか。「コンビニや電子レンジがないと生活できない」という依存と同じで、「生成AIがないと何も考えられない」状態になってしまうと怖いです。

 

生成AIに丸投げ=自分の存在価値を捨てている

── 生成AIに丸投げは良くないのですね。

小﨑先生:「誰がやっても同じ結果になること」はどんどん生成AIに任せればいいと思います。しかし、「その人だからこそ出せる味」を生成AIに丸投げしてしまうのは、自分の存在価値を捨てているのと同じではないでしょうか。生成AIの利用はあくまでも「手伝ってもらう」程度に留めるバランス感覚が重要になります。

例えば、カラオケの採点システムをイメージしてみてください。誰が歌っても、機械が出す点数の基準は一定です。ただ、実際のうまいとか下手とか声質の好き嫌いは、採点結果とは関係ありませんよね。

こうした客観的な評価や、定型的な処理は生成AIの得意分野。そこに人間が時間をかける必要はありません。生成AIに任せることで、人間はクリエイティブな仕事に時間を充てられます。

 

生成AIに奪われる仕事、新たに生まれる仕事

── 子供たちは、生成AIで仕事がなくなることが不安ではないのでしょうか。

小﨑先生:今の子供たちが生きていく時代は、生成AIがある世界が前提です。大人は、これまでの仕事のやり方を知っていて、成功体験があるからこそ、仕事がなくなる可能性に敏感になっているのです。確かに、誰がやっても同じ結果になる「形だけの企画書」や「定型的なWebサイトやイラストの作成」といった仕事は、どんどん生成AIに置き換わっていくでしょう。

そもそも、仕事の本質とは「誰かが困っていることを助け、その対価としてお金をもらうこと」です。

仕事が生まれるメカニズム
  • お腹が空いている → コンビニや飲食店が食べ物を提供する→御礼を対価(お金)で支払う
  • 寒さをしのぎたい → 服屋が衣服を提供する→御礼を対価(お金)で支払う
  • 遠くの人と話したい → 電機メーカーがスマートフォンを提供する→御礼を対価(お金)で支払う
  • 暑くてたまらない → アイスクリーム屋さんが涼しい環境を提供する→御礼を対価(お金)で支払う

小﨑先生:人間が生きている限り、「困りごと」がなくなることはありません。生成AIに奪われる仕事も多いと思いますが、逆に新しく解決すべきことや仕事がたくさん生まれると考えています。「仕事が奪われる」ことを心配するのではなく、生成AIという道具を使って、「目の前の人は何に困っているか? 自分はどう助けられるか?」を考えると良いと思います。その視点を持っていれば、どんどん新しい仕事が生まれるのではないでしょうか。

 

奈良教育大学 小﨑誠二教授にインタビュー②:教育DXと今後の教育

ICT活用全国最下位の危機感

── 奈良県の教育デジタル化を推進するきっかけについて教えてください。

小﨑先生:私が教育委員会に赴任した当時、奈良県はICT環境の整備や授業での活用状況が、全国のアンケートで小中高ともに最下位でした。テクノロジーが進化する中で、このままでは先生も子供たちも時代に取り残されてしまうのではないか、と考えている先生たちがたくさんいました。この危機感から、奈良県全体でデジタル化を推進するプロジェクトを考え始めました。

 

── 現場の先生方を巻き込むのは大変だったのではないでしょうか。

小﨑先生:そもそもの危機感は、私個人ではなく、先生たちの願いですから、巻き込む大変さはあまり感じませんでした。私は高校の教員でしたから、「高校でより良い教育、より良い経験をしてもらうためには、小学校・中学校から教育を底上げすれば良い」と気づきました。これは、学校の先生として20年働いていたからこそじわじわと見えてきた景色でした。

「より良い学校にしたい」「子供たちが勉強を楽しめるようにしたい」という学校の先生たちの思いを形にするためにどうしたらいいかを、先生たちと対話を重ねるうちに、少しずつ協力してくださる人が増えていきました。私は「奈良県全体で手を組みませんか?」という呼びかけをしただけ。教育にかかわるみなさんの皆さんの協力があったからこそ、プロジェクトを成功できたと感じています。

 

教育のデジタル化を推進する4つの柱

── すごいプロジェクトですね。具体的に、どのように取り組まれたのですか。

小﨑先生:私は、教育のデジタル化を4つの要素で整理しています。

教育デジタル化の4つの柱
  • 繋がり:学校や自治体や国全体で「一緒にやろう」という合意
  • まなび:児童・生徒たちのまなびの内容
  • 人材育成(人):教員がデジタル学習基盤を使いこなし、授業に活かせる研修
  • 環境(物):校内外のインフラ(通信環境、デバイス)の整備

小﨑先生:どれか一つでも欠けると、本当の意味でのデジタル化は進まないと思います。特に、公教育は「住んでいる場所や規模」によって多寡や損得があってはいけません。だからこそ、奈良県全体で一体となって取り組むことをプロジェクトの中心に据えました。

 

先生が「正解」を用意する時代の終わり

── テクノロジーの普及によって、教育はどう変わっていくのでしょうか。

小﨑先生:かつては、情報や知識を持つ先生が子供たちに「正解」を教えることが教育でした。しかし、インターネットや生成AIの登場で、子供たちはおとなを介しないで情報を得られるようになりました。

「先生が勉強してから教える」のでは、時代のスピードに間に合わないのです。実際に、先生よりも子供たちの方が先にニュースを知っていたり、新しいツールを使いこなしていたりします。分かりやすい例がゲームです。40年も自動車を運転してきている私が、ゲームセンターで運転席を模したカーレースゲームで小学生と対戦しても、勝てません。能力もスキルも子供のほうが圧倒的に上です。でも、実際の町中の運転となると、それは違いますよね。子供が今生きている世界で力を発揮させることが大事で、大人の世界に取り込んで子供は未熟だと言ってはダメだと思います。

 

ティーチングから、自発的に悩み挑戦できる「環境づくり」へ

── これからの教育に求められる役割は何だと思われますか?

小﨑先生:教育は「ティーチング(教え育てる)」ではなく、学びの環境を整え、本人のやりたいことを生かして伸ばす「学ばせ方」が大事になってくると考えています。大人が「こうあるべきだ」と型にはめるのではなく、安心安全を確保した上で、子供たちが自発的に悩み、挑戦できる場を作ること。これからの学校は、単なる知識の習得場所ではなく、「どうしていいかわからない」と遠慮なく言える、本気で悩める場所であるべきだと考えています。そう思うと、ある意味、正しく叱られることも大事なのかもしれません。

 

奈良教育大学 小﨑誠二教授から就活生へメッセージ「可愛がってもらえる人になる」

── 最後に、これから社会に出る就活生に向けてアドバイスをお願いします。

小﨑先生:自分一人で完結できる仕事は、それは、仕事ではなく作業にとどまっていることが多いのではないでしょうか。仕事は壁にぶつかって当然ですから、そんなとき、素直に「助けてください」と言える、周りから「可愛がってもらえる人」になれると良いですね。周りから可愛がってもらうことは、自分のやりたいことの可能性を広げる秘訣でもあります。

それは、媚びるということでありません。自分の思いや考えを持っていない人は信用されませんので。自分で考えて、自分も他者も尊重できる人になる、ということが大切だと思います。自分を磨いて、「自分のいる環境を、周りの人も含めてより良くしよう」という心がけを持って、チャレンジしていってください。

「就活の教科書」編集部 野口

生成AIは敵ではなく、自分を「拡張」してくれる素晴らしいツールなのだと再確認できました。
自分らしさを大切にしながら、生成AIとともにやりたいことを実現していきたいですね。
小﨑先生、貴重なお話をありがとうございました!