【インタビュー】青山学院大学 山本寛名誉教授 | 就活に必要な力「エンプロイアビリティ」とは

本ページはプロモーションを含みます

青山学院大学山本寛教授

就活の教科書は、有料職業紹介許可番号:27-ユ-304518)の厚生労働大臣許可を受けている株式会社Synergy Careerが運営しています。

「就活の教科書」編集部野口

こんにちは!「就活の教科書」取材チームの野口です。
今回は、青山学院大学の山本寛名誉教授に、キャリア論や就職活動における「エンプロイアビリティ」についてお話を伺いました。

山本教授、本日はよろしくお願いします!

よろしくお願いいたします!

青山学院大学     山本寛名誉教授

Profile

青山学院大学経営学部山本寛教授

山本 寛(やまもと・ひろし)
青山学院大学 名誉教授

銀行及び市役所に勤務後、大学教員へ
青山学院大学経営学部教授を歴任

 

山本寛教授にインタビュー①持続可能なキャリアの力「エンプロイアビリティ」とは? 

学生におけるエンプロイアビリティとは:内定を得るための力

「就活の教科書」編集部野口

山本教授はエンプロイアビリティについて研究されていますよね。

エンプロイアビリティとは、どのような概念なのでしょうか。

エンプロイアビリティとは、働く人の「雇用される力」、つまり持続的に仕事に就くことのできる力を指します。

雇用する(employ)と能力(ability)を組み合わせており、直訳すると「雇用される能力」または「雇用可能性」となります。

学生の場合は、内定を得るための力と捉えるとわかりやすいでしょう。

青山学院大学     山本寛名誉教授

「就活の教科書」編集部野口

内定を得るための力ですか。

もう少し具体的に教えていただけますか。

「学生が卒業後、その適性・能力にふさわしく、持続可能で満足し得るような雇用を獲得するための能力を中心とした特性」と定義しています。

やや抽象的ですが、ポイントは持続可能であることです。

この考え方では、単に就職できることだけでなく、その仕事を継続できるか、自分に合った職場であるかどうかといった視点も含まれます。

さらに、スキルや知識といった目に見える能力だけでなく、人間性や性格、パーソナリティなど目に見えにくい要素も大切だと考えています。

つまり、エンプロイアビリティとは「何ができるか」だけでなく、「どういう人であるか」ということも問われるのです。

青山学院大学     山本寛名誉教授

 

エンプロイアビリティが高い人は就活に強い

「就活の教科書」編集部野口

「自分に合った仕事で、長く働き続けられる力」がエンプロイアビリティということですね。

エンプロイアビリティを高めると、就活にはどんな良い影響があるのでしょうか? 

エンプロイアビリティが高い場合、「自分は働ける力がある」「自分を活かせる場がある」と自信が持てるようになり、自分の将来をコントロールできるという感覚を持つことができます。  

将来の就職に無用な不安を抱くことが少なく、学生の本分である学業やサークル活動等に時間やエネルギーを注ぐことが可能になります。

青山学院大学     山本寛名誉教授

「就活の教科書」編集部野口

エンプロイアビリティが高いと、将来に自信を持って学生生活に時間やエネルギーを使えるのですね。

一方で、大学生の中には就職に対する不安を強く抱えている方が一定数いらっしゃいます。

こうした就職不安は、学生にとって大きなストレスの要因になる場合があります。

たとえば、「まわりはみんな内定を取っているのに、自分だけが決まらないのではないか」といった思いにとらわれてしまうと、場合によってはストレス症状や抑うつ的な状態に至ってしまうこともあるのです。

このような状況を防ぐためにも、エンプロイアビリティが高い方が良いと考えます。

青山学院大学     山本寛名誉教授

「就活の教科書」編集部野口

私も学生時代は将来に対する不安を強く感じていました。 そのとき自分の中に「働ける力がある」と思えていたら、もっと落ち着いて学生生活を送れたかもしれませんね。

 

内的・外的エンプロイアビリティの違い

エンプロイアビリティには大きく2つあります。

1つ目が、内的エンプロイアビリティです。

これは個人が自分の中に備えている能力のことです。

例えば、学生自身が持っている職業や仕事に関する知識やスキル、取得している資格などがこれにあたります。

また、最近ではネットを活用して仕事を探すことが一般的になってきていますが、そうした情報収集におけるリテラシーやスキルの高さも含まれます。

つまり、学生自身の能力的側面です。

青山学院大学     山本寛名誉教授

「就活の教科書」編集部野口

内的エンプロイアビリティとは、学生自身の能力のことなのですね。

内的エンプロイアビリティが中心なのですが、外的エンプロイアビリティもあります。

例えばその人が「どの大学」「どの学部」で学んでいるかといったことが該当します。

言ってしまえば、大学のブランドや偏差値、さらには学部の専門性が、労働市場における評価や就職機会に影響を与えるということです。

つまり、所属大学や自分の専門分野の労働市場での位置づけということになります。

青山学院大学     山本寛名誉教授

 

実践型授業(PBL)が社会人基礎力を育てる

「就活の教科書」編集部野口

大学の偏差値などの外的エンプロイアビリティも存在するのですね。

昔は自営業や農業を営む家庭が多く、親の働く姿を日常的に見ることで、自然と「仕事とは何か」という感覚が身についたわけです。

ところが現在では、ほとんどの人が勤め人となり、家庭に仕事を持ち込まなくなりました。

そうした背景から、今は学校教育の中で社会人基礎力を育てていく必要が出てきています。

青山学院大学     山本寛名誉教授

「就活の教科書」編集部野口

社会人基礎力もエンプロイアビリティの一種なのですね。

PBL(Problem Based Learning)と呼ばれる問題解決型の授業があります。

実際の企業が抱える課題に対し、学生が自ら調査・提案を行う実践型の授業で、社会人基礎力が身に付くと考えています。

例えば東京電機大学では、産学連携で課題解決に取り組む中で、特許取得につながった事例もあると聞いています。

青山学院大学     山本寛名誉教授

 

職務内容に合致する「専門性」が求められるジョブ型雇用

「就活の教科書」編集部野口

課題解決の実践型授業を通じて、社会人基礎力が身についていくのですね。

「どこでも通用する人材」になるために、学生が意識すべきことはありますか?

学生の皆さんにも、自分の専門性を高めるという意識を持っていただくことが重要になってきていると感じます。

近年、新卒採用においてもジョブ型雇用が少しずつ広がりを見せています

これは、企業側があらかじめ「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」を用意し、それに合致した人材を採用するという考え方です。

ジョブ型雇用では、応募者が職務内容に適合していなければ、極端な話、採用に至らないという可能性も出てきます。

青山学院大学     山本寛名誉教授

「就活の教科書」編集部野口

日本でもジョブ型雇用が少しずつ広がっているのですね。

最近はこうした背景を反映して、ジョブ型インターンシップも増えています

これは、職種別に具体的な業務を体験できるインターンシップで、深い学びが期待されます。

青山学院大学     山本寛名誉教授

「就活の教科書」編集部野口

やはり長期インターンシップで実際に仕事の経験をすると良いのですね。

もちろん、企業が求める「専門性の高い人材」というのは、企業の業種や職種によって異なります。

ですから一概には言えませんが、近年、特に重視されるようになっているのがAIやデジタル分野に関するスキルです。

新聞報道などを見ても、こうした分野での知識や技術を持った学生に対するニーズは高まっています。

私自身、経営学部のゼミを担当してきましたが、近年はIT系の企業に進む学生が明らかに増えてきていると感じています。

青山学院大学     山本寛名誉教授

 


山本寛教授にインタビュー②キャリアの強靭性「キャリアレジリエンス」とは?

「折れない」より「しなやかに対応できる」強さ

「就活の教科書」編集部野口

自分の専門性をどう伸ばすかも、これからの就活ではますます重要になってきそうですね。

長期的な視点で言うと、「キャリアレジリエンス」というキャリアの強靭性を高めることが必要です。

「強靭性」と言うと、まるで鋼のように硬くて折れない、ドリルでも貫けないようなイメージを持たれるかもしれません。

しかし、キャリアにおけるレジリエンスは、「しなやかさ」の方が大切です。

例えば、社会の急激な変化、コロナ禍のような予期せぬ出来事に直面したとき、簡単に心が折れてしまうのではなく、うまくバランスを取りながら働き続けることが求められます

就活生の皆さんにも、ぜひキャリアレジリエンスについて考えていただきたいと思います。

青山学院大学     山本寛名誉教授

「就活の教科書」編集部野口

確かに社会の変化が激しい現代において、柔軟に対応できる力は重要ですね。

反対に、キャリアレジリエンスが高い状態は「脆弱性」と呼ばれ、強い不安やストレスに直面したときにパニックに陥ったり、メンタルを崩してしまうリスクが高まります

例えば「職場の人間関係」の問題です。

お互いに口もきかないような状況になってしまった場合、それは非常に大きなストレスになります。

青山学院大学     山本寛名誉教授

「就活の教科書」編集部野口

人間関係で離職してしまう場合もありますよね。

でも、レジリエンスの高い人は「これは一時的なもの」と捉えられるんです。

会社では数年に一度、人事異動があるので自分が異動するか、相手が異動するかで関係性はいつか変化します。

「今はこうだけれども、永遠に続くわけではない」と未来志向で考えることができれば、大きなストレスにも耐えることができます。

青山学院大学     山本寛名誉教授

 

ポイントは自信・環境への適応性・依存性の低さ・リスク対応

「就活の教科書」編集部野口

キャリアレジリエンスとは、単に困難に耐えるだけでなく、「前向きに、自分の人生をしなやかに生きる力」のようにも感じました。

キャリアレジリエンスを高めるためには、どのようなことが必要でしょうか。

まず1つ目は、自信(自己効力感)です。

もちろん、自信というのは簡単に持てるものではありません。仕事を通じて「やってみたらできた」「認めてもらえた」という経験を積むことで、少しずつ育っていくものです。

ですから、自分が褒められる場面を意識的に作ることも大切です。

青山学院大学     山本寛名誉教授

「就活の教科書」編集部野口

最近よく聞く「自己効力感」が必要なのですね。

2つ目は環境への適応性です。

特に人間関係の変化に柔軟に対応できることは、長いキャリアを支える上で欠かせません。

怒りを感じたときにまず6秒間こらえてみる。その短い間に感情のピークがやわらぎ、冷静さを取り戻せると言われています。

こうしたアンガーマネジメントも必要です。

青山学院大学     山本寛名誉教授

「就活の教科書」編集部野口

「6秒堪えると怒りのピークが過ぎる」とテレビでやってました。

アンガーマネジメントも社会に出て必要なのですね。

3つ目は、依存性の低さです。

近年は褒めて伸ばす教育が多く、その環境に慣れすぎると上司や同僚から褒められたり承認されたりしないと動けなくなるという問題です。

人間というのは、実際に受け取っている評価よりも2割増しで評価を求めてしまう傾向があると言われています。

つまり、どれだけ感謝されたり褒められたりしていても、常に「もっと認められたい」と感じてしまうのです。

他の人からの評価をあまりにも気にしすぎることは逆にマイナスになります。

青山学院大学     山本寛名誉教授

「就活の教科書」編集部野口

承認欲求が強い若者が多いと聞いたことがあります。

評価を気にしすぎない方が良いのですね。

最後は、リスク対応です。

社会に出ると、思いがけない困難や挑戦に直面します。

たとえば、営業拠点のない地域に一人で新しい拠点を立ち上げるといったケースもあるでしょう。

しかし、リスクを避けてばかりいては、長期的に豊かなキャリアを築くことは難しいとも言えます。

ときには、成果が出るか分からない中でも我慢強く続けることが必要です。

青山学院大学     山本寛名誉教授

 

山本寛教授にインタビュー③主体的なキャリア選択が求められる時代

キャリアアップ至上主義から、自分らしい働き方へ

「就活の教科書」編集部野口

確かに社会に出ると、挑戦の連続だと感じます。

山本教授は現在の就活生や若手社会人に、どのようなキャリア観の変化が起きていると感じられますか?

昇進や昇給のようなキャリアアップ至上主義は通用しなくなってきたと思います。

昇進すること自体が目的ではなくなってきていて、「自分らしい働き方」「自分が納得できるキャリア」を重視する人が増えているのが現実です。

例えば、「罰ゲーム化する管理職」という本をご存じですか?

管理職になると仕事の責任ばかりが重くなる一方で、給与の上昇はそれほどでもない。

そんな背景から管理職になりたくないという若手が増えているのです。

これは単なるわがままではなくて、キャリア観の多様化の表れだと考えています。

青山学院大学     山本寛名誉教授

 

「キャリアの自律性」と「仕事の自律性」は別

「就活の教科書」編集部野口

自分のキャリアを自分で決めたいという意識の表れなんですね。

その「主体的なキャリア選択」について、学生はどのように考えればよいでしょうか。

まず大切なのは、「キャリアの自律性」と「仕事の自律性」を混同しないことです。

仕事の自律性というのは、「一人前になって、上司に言われなくても自分で仕事を回せるようになる」という意味です。

企業に入るとまずはこの部分を求められるんですが、それとは別に「キャリアの自律性」が必要です。

これは、「自分の人生をどう生きたいか」「どんな仕事をしていきたいか」といった、もっと大きな視点での自己決定です。

就活生の皆さんには、仕事のスキルを高めることと同時に、「自分のキャリアは自分で決める」という意識を持ってもらいたいです。

青山学院大学     山本寛名誉教授

「就活の教科書」編集部野口

「キャリアの自律性」と「仕事の自律性」は異なるのですね。

確かに、変化の時代においては、自分で意思決定する力が重要ですね。

職業生活設計についての考え方
  • 「(どちらかといえば、)自分で職業生活設計を考えていきたい」67.9%
  • 「(どちらかといえば、)会社で職業生活設計を提示してほしい」16.6%
  • 「わからない」13.3%

参照:厚生労働省 令和5年度能力開発基本調査

厚生労働省の「能力開発基本調査」では、「職業生活設計を自分で考えていきたい」と答えた人が67.9%にものぼりました。

つまり、自分でキャリアをデザインしていきたいという人が3分の2を超えています。

一方でキャリアを会社で提示してほしいという人はわずか16.6%でした。

青山学院大学     山本寛名誉教授

希望する職業人生実現に必要な職業能力を獲得する方法
  • 自発的な能力向上のための取組みを行うことが必要(50.0%
  • 通常の業務をこなしていくことで必要な能力が身につく(16.5%

参照:厚生労働省 平成24年度能力開発基本調査

また、「希望する職業人生を実現するために必要な能力をどう獲得するか」という問いに対しても、「自発的な能力開発を行うべき」と答えた人が50%、「通常の業務をこなすだけで良い」と答えた人はわずか16.5%でした。

キャリアは受け身ではなく能動的に築いていく時代になっているということが分かります。

eラーニングで勉強する、社会人向けの大学院に通うなど、自発的な能力向上のための取り組みを行うことが必要だと考えます。

青山学院大学     山本寛名誉教授

 


山本寛教授にインタビュー④就活生へのメッセージ

「積極的不確実性」を受け入れる

「就活の教科書」編集部野口

社会的にもキャリアの自律性が高まっているのですね。参考になります。

では、就活生がファーストキャリアを決めるとき、どのような心構えで臨めばよいと思われますか?

真面目な学生さんほど、自己分析や企業研究を丁寧にやりすぎて「ここに本当に決めていいのかな?」と迷ってしまうことが多いです。

現代社会は環境の変化が激しいです。コロナ禍もそうですけど、何が起こるかわからない。

だから、いくら自己分析や企業研究をして、「ここだ!」と思って就職しても、その判断が有効かどうかなんて、正直わからないんです。

将来の不確実性をありのままに受け入れて前向きに捉えることで、新たな意思決定を行っていく考え方のことを「積極的不確実性」と言います。

青山学院大学     山本寛名誉教授

 

今できることに真剣に向き合う姿勢が未来をつくる

「就活の教科書」編集部野口

最後に、就活生に伝えたいメッセージがあればお願いします。

最近では転職が当たり前になってきていますので、新卒時点での就職の重要性は低くなっていると思います。

実際、ゼミ生に 「今の大学生、転職考えてない人誰もいませんよ。」と言われたこともあります。

ただ、自己分析や会社の情報収集の手を抜いて良いわけではないと思います。

今できることには真剣に取り組んでほしいと思っています。

青山学院大学     山本寛名誉教授

「就活の教科書」編集部野口

就職活動は時期が決まっているので、後悔してほしくないですね。

いまだに「新卒カード」という言葉はなくなってはいませんし、完全に意味を失ったとも思っていません。

将来的に転職をすることになったとしても、最初の就職活動にしっかりと向き合っておくと、その経験が次のキャリア選択の場面でも必ず役に立ちます

ですので、今のうちに自分の適性を考えたり、興味のある会社についてよく調べたりしておくことは、将来に向けた大切な投資になると思います。

青山学院大学     山本寛名誉教授

「就活の教科書」編集部野口

山本教授、本日はありがとうございました!

エンプロイアビリティについて就活生に向けてわかりやすく解説いただきました。

大変勉強になりましたし、私もキャリアについて深く考えないといけないと思いました。

山本寛 研究室

『働く人と組織のための人的資源管理: 人的資本経営時代の基礎知識』