「就活の教科書」編集部野口
こんにちは!「就活の教科書」編集部の野口です。
本日は、組織開発について研究されている近畿大学短期大学部講師の多湖雅博先生にインタビューしました。
この記事を読めば、「対話型組織開発とは」「自己効力感を高める方法」などが分かります。
「キャリアに悩んだ時のアドバイス」などもお伝えしていきますよ!
「就活の教科書」編集部野口
多湖先生、本日はよろしくお願いします!
よろしくお願いいたします!
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
多湖 雅博 (たごお・まさひろ)
近畿大学 短期大学部 講師
看護の専門学校卒業後、看護師として勤務。マネジメントを勉強したいと考え、大阪府立大学院に進学。甲南大学にて博士(経営学)を取得。新潟医療福祉大学、京都文京大学などを経て、2025年から近畿大学短期大学部講師を担当。
多湖雅博先生にインタビュー①AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)とは
対話型組織開発とはグループで話し合い、共通の目標に向かって自発的に動き出すこと
「就活の教科書」編集部野口
さっそくですが、多湖先生は組織開発について研究されているのでしょうか?
対話型組織開発と言って、職場を活性化させることを目的として研究しています。
組織開発には診断型と対話型があります。
診断型組織開発は従来の問題解決型です。「何が悪くて、どうやって解決していこうか」を考えていく方法です。
一方、対話型組織開発は問題探しをせずに「何がうまくいっているか、どうすれば解決した状態になるのか」を論点にして、グループメンバーで話し合って、自分たちに必要なものは何かを考えて、そこに向かって自発的に行動していただくやり方です。
解決志向という考え方と非常に近いです。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
対話型組織開発とは問題探しをするのではなく、メンバーの主体性を大切にしているのですね。
AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)を実践すると社員間の連携が高まる
対話型組織開発の中でも私はAIをよく使っています。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
AIとは人工知能のことでしょうか?
AIとはアプリシエイティブ・インクワイアリーのことです。
Appreciation(認識する・価値を認める・感謝する)Inquiry(質問する・探究する)です。
良い日本語訳がないのでAIと呼んでいます。
グループワークを行いながら個人及び職場の強みや価値観を共有して共感していただいて、自分たちで目標に向かって頑張ってもらうアプローチのことで、自主的・自発的な動きというものを創発させるような仕組みや効果を検証しています。
アクションプランの例としては、「自分自身を毎日1つ褒める」などです。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
AIとはアプリシエイティブ・インクワイアリーの略なんですね。グループで共感することで、自主性を創発させる仕組みなのですね。
AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)を実践するとどのような効果があるのですか?
AIを実践すると離職率が低下したり、社員間の連携が高まるという効果があります。
加えて、AIに取り組んだ方が、発言や行動がポジティブに変わったという結果もあります。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
AIを実践すると離職率が低下したり、社員間の連携が高まるという効果が期待できるのですね。
どのような企業で実践されているのですか?
医療系出身なので、最初は医療機関で実践することが多かったです。
その中で結果が良かった職場からはリピートが出たり、紹介で広がっていきました。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
医療機関でAIを実践することが多いのですね。
最近は少し認知度が上がって、研修として企業からお声かけいただくこともあります。
我々が実践者として研修に呼ばれて、どういうテーマでやるかを話し合いながら組織開発を行っていく形になります。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
活き活きと働いている人はワークエンゲージメントが高い
「就活の教科書」編集部野口
今は医療機関だけでなく、企業研修でもAIを実践されているんですね。
多湖先生はワークエンゲージメントについても研究されているのですか?
活き活きと働いている人たちは、ワークエンゲージメントが高いという解釈をしています。
研究ということで定量的なデータを取って、分析しています。
そして、ワークエンゲージメントが高まってくると離職率の低下、コミットメントの向上などの効果があります。
最近は心理的安全がオーダーとして上がってくるので、活き活きと働ける職場を目指すために研究しています。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
ワークエンゲージメントとは、仕事に熱意ややりがいを感じることですよね。
知識不足なのですが、対話型組織開発(AI)とワークエンゲージメントの関係性を教えてください。
「AIは職場の資源、個人の自主性や人間関係を高めるであろうな」という仮説レベルの考えでした。
一方で、上司との良好な人間関係や個人の自己効力感が高まってくると、ワークエンゲージメントが高まることはすでに明らかになっていました。
それなら、AIがワークエンゲージメントを高めるための資源となり得るのではないかと思い、博士論文のテーマとして研究しました。
AIは人間関係の向上にも寄与し、ワークエンゲージメントは人間関係も含めた、資源によって高まるんです。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
少し難しいのですが、相乗効果のようなものでしょうか?
AIに限らず、組織開発は人間関係に影響を与えると言われてきましたが、これまで十分に検証されていませんでした。
そこで実際に調査を行った結果、やはり人間関係に良い効果があることが判明し、人間関係が良好であればワークエンゲージメントの向上にも繋がることが確認されました。
AIもエンゲージメントも「人間関係」という共通のハブがあると考えています。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
活き活きとした職場を目にしてAI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)の研究に没頭
「就活の教科書」編集部野口
AIとエンゲージメントは人間関係に影響しているんですね。
どうしてこの対話型の組織開発を研究しようと思ったんですか?
職場で役職がついて、「どうマネジメントしたら良いか」を勉強したくて経営学と組織開発を学びました。
「どうすれば自分の理想とするような職場に近づくんだろう」と考え、直接的に介入をすると変化が起こるというところが良くてAIに取り組みました。
実際に取り組みをしていくうちに、成功して現場の皆さんが活き活きとしてくる職場が出てきました。
元気な顔を見せてくれたので、より進めていこうと思い、対話型組織開発の研究にはまっていきました。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
多湖雅博先生にインタビュー②学生時代に自己効力感を高める方法
入社前に経営理念と価値観を確認
「就活の教科書」編集部野口
対話型組織開発についての理解が深まりました。
就活生がエンゲージメントの高い職場を見極めるのは難しいと思いますが、入社前に確認した方が良いポイントはございますか?
経営理念や経営戦略など、経営学的によく扱うことは必ず調べておいた方が良いです。
特に経営理念というのは、企業さんの考え方や価値観を表しているはずなので、そこがまず合う・合わないというところは、第1の基準にしてほしいです。
私も今、経営戦略などの授業を持っているので、授業の中でその話はよくします。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
経営理念や価値観をチェックした方が良いのですね。
ただ、現実的に今までの卒業生たちと話をしていると、「理念に書いてあることと異なる」というような話もあります。
人事の方のお話であったりとかで自分で調べるレベルのものは調べておく。
加えて、OBOGの先輩方の話を聞く機会があればいいと思います。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
実際に働いている方の話が1番信頼できそうですね。
若手社員の早期離職という問題に対して、どうお考えですか?
理想と現実のギャップですね。経営学的に言うと組織社会化という概念があります。
学生時代に理想を高く持っている学生は少なくなってきてるとは思いますが、少なくとも「こうなるはずだった」とショックを受ける学生は多いようですね。
いわゆる個人資源と言われるものの自己効力感が欲しいとよく思います。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
自己効力感を高めるために、ポジティブを習慣化
「就活の教科書」編集部野口
自己効力感ですか・・・?
自己効力感とは「自分にはできる」と前向きな感覚のことです。
最近、人間関係に敏感な学生さんが多い気がします。
怒られ慣れてないというか、怒られる=人格否定されているように捉えてしまう。
それは言い過ぎかもしれないですが、何か1つ指摘されるともう全てがダメと思ってしまうみたいな学生さんがいますね。
そうではないですし、強みを自分の中で整理して「長所をいかにアピールできるか」を考えるように学生さんにお伝えしています。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
先日「学校で怒られない」という記事を見ました。
最近の学生さんは怒られ慣れてないのですね。
心理学的な話になりますが、自信がない学生さんが多いです。
なぜかというと、失敗体験も少ないが、成功体験をあまりしてきてないからなんです。
そのため、たくさんの経験をして成功体験というものを積み重ねていくと、自己効力感という自信につながると思います。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
ポジティブに捉えたら良いということでしょうか?
そうですね。
コップの水が半分あったら「もう半分しかない」という人もいれば「まだ半分もある」という人もいます。
例えば某芸能人の方のように、どんな言葉もほとんどの場合はポジティブに変換することができるんです。
普段から自分の中でポジティブを習慣化していくことは1つ手だろうなと思います。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
学生時代に多くの成功体験と失敗体験をしてほしい
「就活の教科書」編集部野口
ポジティブの習慣化ですね。日頃から気をつけようと思います。
自信がない学生さんがいらっしゃると伺いましたが、学生時代にやっておくと組織にフィットしやすくなる、アドバイスはございますか。
1つ目は、チームや集団活動です。
実際に社会に出ていくことを考えていくと、何かしら共同の経験はあった方がいいと思います。
部活、サークル、グループワーク、ゼミなど何でもいいと思います。個人ではできないことに取り組んでほしいですね。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
チームで活動する経験をしておいた方が良いのですね。
2つ目は、報告、連絡、相談の習慣とコミュニケーションです。
対面が難しければオンラインでもいいと思います。
SNSでもいいので何かしらの人とつながる手段。ごくごく当たり前のことですが、人に伝える力や聞く力がついてくると思います。
我々、大学の教員はおそらくどの先生も今言ったような内容を考えながら授業やゼミを構成していると思います。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
報連相ですね。
基本的なコミュニケーション能力は社会に出てから大事ですものね。
多湖雅博先生にインタビュー③就活生へのメッセージ
完璧な人間なんていないので最初は失敗して良い
「就活の教科書」編集部野口
働くことや社会に対しての不安を持っている学生がいると思いますが、社会に対して前向きになれる考え方があれば教えてください。
完璧・完全に正解を求める人が多いんですけど、完璧なんて基本できないです。
理系だと話が違うんですが、基本的には社会活動で完璧・完全はないと思うので、「完璧じゃなくていいんだよ」ということ。
働くことに特化するならば、「最初は失敗してもいいんだよ」と伝えていくべきかなと思います。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
最初は失敗しても良いんですね。
失敗が怖くて完璧にやらないと!と思ってました。
加えて、最近の学生は「こうあらねばならない」と正解を探す人が多いです。
本当の正解ならいいんですが、世の中に絶対的な正解はあまりないと思うので、「形だけにこだわらない方がいいよ」と普段言ってます。
いろんな方向、やり方でアプローチしたらいいと思うので、自分で納得できる考えを大事にしてほしいです。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
形だけにこだわらず、いろんな方法でアプローチして、自分で納得できたら良いんですね。
別に、働く場所はそこだけではないです。
かといって、新卒のカードをいきなり捨てるのはもったいないので安易にやめろっていうふうには思わないですけど。
世の中には他にもいろんな職場がある。
「仮に1社目が合わなかったら将来的に違うところに移ってもいいんじゃない?」と伝える必要もあると思います。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
ギャップを感じたらどこに違和感を感じたか言語化してほしい
「就活の教科書」編集部野口
「合わなかったら移って良い」と先生に言ってもらえると楽になる若手社員が多いと思います。
就職した後、「この職場ちょっと合わないな」と思ってしまった時に、前向きになれるアドバイスがあればいただきたいです。
余裕があれば「何が合わないの?」というところは整理してほしいと思います。
どうしてもそういう負の感情が出ている時は感情で動いて、ネガティブな方に行きがちです。
少し冷静になって、どこを違和感に感じているのかを整理できたら1番いいと思います。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
冷静になって、違和感を整理したら良いんですね。
加えて、1人で考えるのはやめて、誰かに話しましょう。
どうしてもそういう人がいないという場合は自分でやるしかないので、言語化する。
声に出す、紙に書く、パソコンで打つ。何でもいいので言語化して、 客観視できる状況を作ってほしいと思います。
それ以前に周りが気づいて話しかけてあげる。そういう雰囲気や社風を作れたらいいなと思っています。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
どんな経験も必ず将来の自分に役立つ
今までいろんな経験してきましたけど、結果としていい勉強になったなって今だったら思えるんですよ。
今この立場で、この年齢だから言えることですね。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
多湖先生のように考えることができる大人になりたいです。
将来的に何かにつながっていくっていう希望は捨てずにいてほしいです。
いい経験も悪い経験も必ず将来の自分に役立つ。
将来の希望がないと、なかなかポジティブになれないと思いますし、役立てるのは自分自身なので希望を持っておいてほしいと思います。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
良い経験も苦い経験も、将来のための勉強だと思ったら良いんですね。
あなたは1人じゃない
「就活の教科書」編集部野口
多湖先生、ありがとうございました。
最後に就活生に向けてメッセージをお願いします!
あなたは1人じゃないです。周りを頼ってください。
そうすることで客観的な視点ができたり、別の考えが出てきたりするので、ぜひ周りの人を頼ってください。
それは友達でもいいし、親や家族でもいいし、学校の関係者でもいいと思います。
いろんな人にいろんな話を聞いて、その中で自分が選べばいいと思います。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
1人で抱え込むのではなくて、周りの人と話す方が良いんですね。
職場に入ってみて「ちょっとしんどいな」や「これ合わへんな」と思ったらそういう時こそ自分というものを振り返る、いい機会にしてほしいです。
そういう機会でもないとなかなか自分を振り返ることはないんです。
会社で目標達成制度など形だけは振り返りますが、意外と振り返ってないですよね。
なので、自分を振り返るチャンスとして自分を知っていっていただければ、それが将来また自分の武器になると思います。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
辛い時こそ、自分を振り返るチャンスにすると良いんですね。
あとは、とりあえず楽しみましょう。
「もう辛い。もう続けられないです」という状況でも、自分で何かやることに対して楽しみを1つでも見つける。
仕事も含めていろんな人生を楽しみましょう。
近畿大学 短期大学部 多湖雅博先生
「就活の教科書」編集部野口
本日は多湖先生のお話を聞いて、多くの学びがありました。
多湖先生、ありがとうございました!