「就活の教科書」編集部野口
こんにちは!「就活の教科書」取材チームの野口です。
今回は、女性の労働問題に取り組まれている椙山女学園大学の小倉祥子教授にインタビューしました。
小倉先生、本日はよろしくお願いします!
よろしくお願いいたします。
小倉祥子教授
小倉 祥子(おぐら・しょうこ)
椙山女学園大学 人間関係学部 教授
高校の家庭科教諭として働いた後、興味のあったマスコミ業界へ転職。働き方の男女差に疑問を感じ、女性の労働環境について学び直すため大学院へ進学。現在、椙山女学園大学で教授を務める。女性の就業継続やジェンダー平等、女性のキャリア形成の地域差などを研究。
目次
椙山女学園大学 小倉祥子教授にインタビュー①:自身の経験から感じた“キャリアの課題”
2つの職場を経験し感じた「男女の働き方の差」
「就活の教科書」編集部野口
さっそくですが、小倉先生のキャリアについてお伺いしたいです。
当時は就職が厳しい時代だったこともあり、民間企業への就職活動は諦めて、教員採用試験合格を目指し、地元の高校で教員になりました。
2年ほど働く中で、「自分はやり残してることがあるんじゃないか」と思うようになり、思い切ってマスコミ業界に転職しました。実は学生時代に少し興味があった分野だったんです。
ただ、私が転職した先では男女の働き方に大きな差があって、とても違和感を覚えました。
小倉祥子教授
「就活の教科書」編集部野口
具体的には、どのような差があったのでしょうか?
私の転職先では、正社員の多くが男性で、女性は非正規という状況が当たり前になっていて、それがとてもショックだったんです。それまでの教員の世界では、非正規がどちらかの性別に偏っていることはありませんでした。
小倉祥子教授
「就活の教科書」編集部野口
当時のマスコミ業界は、多くの女性社員が非正規として働かれていたのですね…
異なる2つの職場の経験から、女性の労働問題へ取り組む
「この違和感は私の転職先であるマスコミ業界だけなのか、それとも日本全体に言えることなのか…」と疑問を抱くようになりました。
それをきっかけに、「労働や女性の働き方について、もう一度きちんと学びたい」と思い大学院に進みました。
教員とマスコミ、まったく異なる2つの職場を経験したからこそ、感じた疑問がありました。それを出発点に、今では大学で女性労働の問題について教えています。
現在、椙山女学園大学で教員になって19年目になります。
小倉祥子教授
「就活の教科書」編集部野口
異なる2つの職場の経験から、女性の労働問題について取り組まれているのですね!
椙山女学園大学 小倉祥子教授にインタビュー②:女性の労働問題の重要性
就業継続を可能にする「仕組みづくり」が男女格差の是正にもつながる
「就活の教科書」編集部野口
女性の労働問題と言っても様々だと思いますが、どのような点に着目して授業を行なっていますか?
今の日本社会は、女性が働いていないわけではなく、就業率自体は高いのです。
ただ、雇用されて働く女性の過半数以上が非正規雇用で勤務しています。非正規だと有期雇用であることが多く、また非正規の時給は正社員の給料を時給換算して比べると格差が大きく、不安定な働き方になります。
女性はライフイベントのたびにキャリアの選択を迫られることが多く、男性よりも分かれ道が多いと感じています。
だから私は、正規と非正規との格差の是正だけでなく「正社員としての就業を継続できる仕組みづくり」が大事だと考えており、そういった視点で授業を展開しています。
小倉祥子教授
「就活の教科書」編集部野口
ただ男女の格差をなくすだけではなく、女性が正社員として働くための仕組みづくりにも着目されているのですね。
個人の状況は本当に多様なので、「たまたま実家の支援があったから就業継続できた」ではなく、誰にとっても働き続けられる柔軟な企業内制度が整っていることが理想だと思っています。
海外の事例を見ても、男女の賃金格差が小さい国ほど出生率が高く、女性だけがキャリア上のペナルティを受けない仕組みがあるからこそ、安心して子どもを持てる。
そういう意味でも、女性が仕事を続けられる環境整備は、格差の是正にもつながる大事なテーマだと思っています。
小倉祥子教授
「就活の教科書」編集部野口
女性がキャリア上のペナルティを受けない仕組みがあってこそ、男女格差の是正につながるのですね。
女性が働ける社会の方が出生率は高い傾向に
「就活の教科書」編集部野口
女性が働くことが当たり前になってきた中で、出生率が下がっていることは関係があるのでしょうか?
OECDの先進国の調査で、1970年では「女性の就業率と出生率とに負の相関」が示されましたが、1985年になるとはその相関は見られなくなっています。2000年には正の相関へと転じて、むしろ、女性が働ける社会の方が出生率は高い傾向にあります。
つまり、女性が働くから子どもが産めないのではなくて、それは社会の仕組みの問題だということですね。
小倉祥子教授
「就活の教科書」編集部野口
女性が働くことで出生率が低くなっているのではなく、社会の仕組みが整ってないからなのですね…
椙山女学園大学 小倉祥子教授にインタビュー③:キャリア教育を通して「女性のキャリアの課題」
「女性の就業選択によって生涯賃金が大きく変わる」現実
「就活の教科書」編集部野口
現在、大学の授業ではどのようなことを行なっていますか?
担当している主な授業のひとつに「女性と職業生活」があります。
1986年の男女雇用機会均等法施行以降、女性の就業がどう変わってきたのか、あるいは変わっていないのかを、法律や実際のデータを用いて考える内容です。
ほかにも、「組織と人間」という授業では、労働組合を中心にワークルールをつくる仕組みについて扱っています。
小倉祥子教授
「就活の教科書」編集部野口
授業の中での学生のリアクションとしてどのようなものがありますか?
私の勤務している椙山女学園大学では、「人間論」という全学共通科目があり、その中で「トータルライフデザイン教育」を行っています。
私もその教科書の一部を執筆し、女性の就業選択によって生涯賃金が大きく変わる現実を学生に伝えています。
実際に正社員を続けるか、育休をどのくらい取得するのか、途中で非正規になるかなどで生涯賃金が大きく変わるという試算に、多くの学生が驚いています。
小倉祥子教授
「就活の教科書」編集部野口
実際に生涯賃金にどのくらい影響するのかを知っておくだけでも、キャリア選択においての考え方も変わってくるのでしょうか。
そういった情報を知った上で、パートナーや家族と相談しながらキャリアを選ぶのと、「こんなはずじゃなかった」と後悔するのとでは全く違います。
だからこそ、授業ではそうした事例も学生に示すようにしています。
小倉祥子教授
「就活の教科書」編集部野口
事前に知っておくことが、納得のいくキャリアにつながるのですね。
労働者が経営側と対立するためではなく、より良い職場づくりのための「労働者の組織化」
「組織と人間」という授業では、テーマが広いので「労働者の組織化」に焦点を絞っています。
特に学生にとって身近なブラックバイトの問題——「辞めたくても辞められない」「シフトに入れない」「契約と違う」などを入り口に、ワークルールの基本や、困ったときに相談できる窓口の存在を伝えています。
また、労働組合が法的に認められてきた歴史や、現代の学生が直面している課題についても扱い、「泣き寝入りしない力」を持つことの大切さを話しています。
小倉祥子教授
「就活の教科書」編集部野口
学生にとってのバイトという身近な問題であれば、当事者意識を持って取り組めますね。
労働組合によってつくられたワークルールというのは、どのようなものですか?
例えば、1991年に育児休業制度が成立しましたが、実はそのずっと前、1960年代には企業内制度として育休を導入していた会社もありました。
それは、企業内の労働組合と経営側が、既婚女性が出産で辞めずに働き続けられるよう話し合って作ってきたものなんです。こうした企業内制度が発展して、育児休業制度となりました。
こうした制度は、労働者が経営側と対立するためではなく、より良い職場づくりのために労使が協力して生まれてきたものです。
今の学生たちにも、自分たちの声で新しい働き方や制度を提案し、より生産性の高い働き方を実現していける――そんな存在になってほしいという思いを込めて、この授業を行っています。
小倉祥子教授
「就活の教科書」編集部野口
“労働者自らが労働環境を作っていく”というのはとても大切な考え方ですね!
依然として残る「性別に関する無意識の思い込み=アンコンシャスバイアス」
「就活の教科書」編集部野口
働き方が大きく変化している中で、今の学生はどういう働き方をしたいと思っているのでしょうか?
赴任してから感じるのは、女子学生はこれまでの正社員男性のように「生活を犠牲にして働く」ことを全く望んでいないということです。
むしろ、「自分の時間を大切にしながら働きたい」という声がとても多いですね。
女子大という環境もあるかもしれませんが、そうした働き方のニーズは、前の世代とは確実に変わってきていると感じます。若い男性も同様ではないでしょうか。
小倉祥子教授
「就活の教科書」編集部野口
多くの企業が年間休日を120日以上設けているのを見ると、“働きやすさ”がより重視されてきていると感じますね。
「管理職に就きたい」と思う方が減っているとニュースになりますが、実際にはどうなんでしょうか?
「ジェンダー平等社会の実現」に向けてというテーマで言えば、均等法以降、男性並みに働く女性たちによって正社員内の格差はある程度縮まってきた面もあります。
ただ、シカゴ大学の山口一男さんの先行研究などを見ると、ホワイトカラー職場で管理職になった女性たちは多くの場合、同じ職場の男性以上に長時間働いてきたという実態があり、昇進にはそれだけの努力が求められていたんですね。
そういった働き方を、今の若い世代が望むかというと……やはり難しいのではないかと感じています。
小倉祥子教授
「就活の教科書」編集部野口
女性が男性と同じように活躍するにはそれなりの努力が求められると考えると確かに難しそうですね。
最近は男性の育休の取得率も少しずつ上がってきていますが、内閣府の令和4年度の調査を見ると、性別に関する無意識の思い込み、いわゆるアンコンシャスバイアスは依然として根強いと感じます。
特に、「男性は家計を支えるべき」「家庭より仕事を優先すべき」といった意識が、若い世代にも一定数見られます。
むしろ20〜30代の男性の方が、50代以上よりも「女性は男性をサポートすべき」と考える傾向が強かったりするんですね。
そうした無意識の偏見をなくすことは、まだまだ大きな課題だと感じています。
小倉祥子教授
「就活の教科書」編集部野口
若い世代の方がそういった意識が強かったりするんですね…
アンコンシャスバイアスを他にも感じられる場面はありますか?
地域の女性セミナーで、妊娠・出産後の優秀な女性社員をチームに迎えたいと思ったとき、どうしますか?と聞いたところ、「やれるかどうかは本人に確認します」という声が多くて、それは大切な視点だと感じました。
でも、同じ質問を「赤ちゃんが生まれたばかりの男性社員」に置き換えると、「特に聞かない」と答える人が多かったんです。
つまり、自覚はなくても「育児は母親がするもの」という意識がどこかに染みついている。
そうした無意識の性別役割って、まだまだ根深いんだなと感じましたね。
無意識の思い込みを見直していくことは、実は男性自身のライフキャリアの多様化にもつながると思っています。
だからこそ、男性側からもジェンダー平等を進めていくことが大切だと感じています。
小倉祥子教授
「就活の教科書」編集部野口
私自身も、無意識に思い込みをしてしまっている部分も多いので、気をつけていきたいです。
椙山女学園大学 小倉祥子教授から学生へのメッセージ:「自分たちで働き方をつくる主体になってほしい」
「就活の教科書」編集部野口
女性のキャリアについての貴重なお話をありがとうございました。
最後に、学生へのメッセージをお願いします!
働くって大変なことも多いけれど、それを越える喜びもあるので、やってみたい仕事や企業にはぜひチャレンジしてほしいと思っています。
前の世代の働き方をそのまま受け継ぐ必要はなくて、自分たちにとって心地よい働き方を見つけていくことが大事です。
合わないならやめるのも一つの選択ですが、「こうすればもっと働きやすくなる」と声をあげたり、組織の文化を変えていく力を若い世代は持っていると思います。
だからこそ、自分に合った働き方を創造し、提案し、実際にそれをつくっていく主体になってほしいと思っています。
たとえばコロナ禍で、ある企業では管理職への昇進に必要な研修が泊まりからリモートに変わったことで、今まで手を挙げられなかった女性たちが参加できるようになり、結果として女性管理職の比率が増えたという例がありました。
それまでの研修スタイルは一部の人には合わなかったけれど、形を変えることで新たな人材が活躍できるようになる。
そういった柔軟な働き方の見直しは、企業にとっても大きなメリットです。
だからこそ、これからの働き方は、時代や自分たちに合ったスタイルを提案し、つくっていくことが大事です。
そうした声が、やがて社会全体のルールを変える力になるかもしれません。
小倉祥子教授
「就活の教科書」編集部野口
先生のお話で、私自身もキャリアについて見直すきっかけになりました。
小倉先生、本日は本当にありがとうございました!
⇨小倉 祥子 | 椙山女学園大学 | Sugiyama Jogakuen University