【インタビュー】埼玉大学キャリアセンター長 石阪督規教授 | 学生の強みを伸ばす「Extend Your Strengths」

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「就活の教科書」編集部野口

こんにちは!「就活の教科書」取材チームの野口です。
今回は、埼玉大学キャリアセンター長の石阪督規教授にキャリアセンターの取り組みについてお話を伺いました。

石阪教授、本日はよろしくお願いします。

よろしくお願いします。

埼玉大学石阪督規教授

Profile

石阪 督規(いしざか・とくのり)
埼玉大学キャリアセンター長
埼玉大学基盤教育研究センター教授

2000年、広島大学院社会科学研究科国際社会論専攻博士後期単位取得満期退学。その後、三重大学人文学部准教授、東京未来大学モチベーション行動科学部教授を経て、2016年に埼玉大学基盤教育研究センター教授に就任。2020年より埼玉大学キャリアセンター長に就任。

埼玉大学キャリアセンターの特徴①「弱点克服」より「強みを伸ばす」

「就活の教科書」編集部野口

さっそくですが、埼玉大学のキャリアセンターの特徴を教えていただけますか。

「Extend Your Strengths」が、埼玉大学キャリアセンターのキャッチフレーズです。

「Extend」は“伸ばす”という意味で、自分の強みを伸ばして、それを将来の力に変えていこうという考え方です。

高校までは、苦手を克服する学習が中心だったと思います。例えば数学が苦手なら、必死に勉強して受験を乗り越える。しかし苦手の克服だけでなく、自分の“強み”に目を向け、それを伸ばしていくことが大切です。

自分の強みを仕事に活かすことができれば、とくに強く意識しなくても、自身のスキルやキャリアを伸ばすこともできますし、また、ストレスフリーで働けるので、結果として、離職防止にもつながると考えています。

埼玉大学石阪督規教授

「就活の教科書」編集部野口

学生さんの強みを伸ばしていこうとお考えなのですね。

埼玉大学には、自己肯定感がやや低めの学生も多い印象があります。だからこそ、1年生のうちから“自分の強みを見つけて、それを伸ばす”というプロセスを大切にしています。まずは自信を持つこと、自己肯定感を高めることが私たちのキャリア支援の出発点です。

埼玉大学石阪督規教授

 


埼玉大学キャリアセンターの特徴②VSATとは

民間企業と開発したアセスメントテスト「VSAT」

「就活の教科書」編集部野口

「Extend Your Strengths」というキャッチフレーズ、素敵ですね。

埼玉大学のキャリアセンターではどのような支援をされているのでしょうか。

VSATという長所発見テストを民間企業と連携して開発しました。

一般的にアセスメントテストというと“高い・低いの判定”や、“適職診断”のようなイメージを持たれがちですが、VSATは“自分の強みを知るため”のテストです。

VSATを受検することで、学生は“自分を知る”ことができます。埼玉大学ではVSATを入学時に希望者全員が受けられるようにしていて、授業や将来の進路選択にも活かせるような教育プログラムと連動させています。1年生のうちに受けることで、自分の強みに早くから気づき、大学生活の中でそれを意識して伸ばしていけるというメリットがあります。

埼玉大学石阪督規教授

「就活の教科書」編集部野口

自分の強みを知るためのテストですか。

こうしたアセスメントテストを大学独自に開発・運用している国立大学は、恐らく他にないと思います。

埼玉大学石阪督規教授

 

行動特性を数値化し、「強み」として可視化できる

「就活の教科書」編集部野口

国立大学でこのような取り組みは珍しいのですね。

VSATとはどのようなテストなのか詳しく教えてください。

VSATでは、人の内面に近い部分である「行動特性」を心理学的な手法で数値化し、「強み」として可視化しています。資格や学力とは異なり、目に見えないが確かに存在する個人の特徴を測るものです。

この行動特性は、「基礎力」「思考力」「対話力」「実践力」という四つの力に分類されており、それぞれがさらに6つの行動特性に細分化され、24項目に分かれています。例えば基礎力には「主体性」「柔軟性」「技能性」など、対話力には「発信性」「共感性」「検証性」などが含まれます。

スコアは平均50を基準に高いか低いかで評価されますが、「高い=良い」「低い=悪い」と単純に判断するものではありません。例えば、検証性が高ければ「物事を深掘りする力がある」と言えますし、逃走性が低いというのは「他者を尊重し協調的に働ける強み」と解釈できます。

埼玉大学石阪督規教授

「就活の教科書」編集部野口

性格診断のようなテストなのですね。

 

社会人や企業とスコアを比較→自己成長へ

VSATの結果は学生個人のグラフに加え、大学全体の平均スコアや社会人・企業の平均値とも比較することができます。

例えば、埼玉大学生は「発信性」はやや低く、「傾聴性」は高いという傾向があるのに対し、企業の平均は「発信性」が高く、「傾聴性」が低めという逆の特徴があります。こうしたギャップを学生が視覚的に理解することで、「自分が社会に出るためにどんな力を伸ばすべきか」を自覚し、キャリア形成につなげていく狙いがあります。

実際にVSATを繰り返し受けることで、訓練によってスコアが変化していく様子も可視化され、自己成長の実感につながることもあります。

埼玉大学石阪督規教授

「就活の教科書」編集部野口

自分の傾向と社会で求められることのギャップに気づくことができるのですね。

さらに、VSATは1回限りではなく、複数回受けることが可能です。多くの学生が1年生で1回目を受け、就活直前の3年生頃に2回目を受けると、どの指標が伸びたか可視化されます。こうした変化に注目することも重要です。

実際に卒業生や大学院生にも受けてもらっていますが、社会人になってから急に伸びる場合もあります。学生時代には見られなかった成長が、社会に出てからはっきりと現れることもあります。そうした変化を捉えることができるのも、このテストの大きな特徴です。

埼玉大学石阪督規教授

「就活の教科書」編集部野口

学生の時の結果と社会に出てからの結果が変化しているのは面白いですね。

加えて、埼大キャリアTVという動画プラットフォームにはVSATの解説動画も含まれています。学生はVSATの受検後に解説動画を見ることができます。

さらに、希望者には個別面談も実施しています。VSATの結果をもとにした進路支援で、1回あたり30分の個別相談に応じる体制も整えています。単にテストを受けるだけでなく、その結果を活かすためのサポートをする仕組みがあります。

埼玉大学石阪督規教授

 

VSATの結果は“自己PRの根拠”として利用できる

「就活の教科書」編集部野口

学生さんからどのような声が寄せられますか?

“自分の長所を仕事にどう活かすか”ということについて、明確に意識できるようになったという声が多いですね。

エントリーシートを書くとき、自分の強みをどのように表現するかで悩む学生も多いですが、VSATの結果があると、その根拠を示しやすい。“自分にはこういう特性がある”と数字で見えることで、書きやすくなったという意見をよく聞きます。

自分の強みを“感覚的に”ではなく、“可視化されたエビデンス”として確認できることがメリットです。「なんとなく自分はこれが得意だと思っていた」というレベルから、確信を持って自己理解ができるようになったという点で、VSATは大きな意味を持っていると思います。

埼玉大学石阪督規教授

「就活の教科書」編集部野口

就活を始め、ESで自分の強みに悩む学生が多いと思いますが、1年生からVSATで自分の強みに気づくことができると良いですね。

もう1つのVSATの特徴は、学生だけではなく企業も受けられるようになっているという点です。これは他のアセスメントテストにはあまり見られない仕組みです。

例えば、課題解決型プログラムの授業に登壇していただく企業には、事前に社員の皆さんにもVSATを受けてもらっています。1社あたり20人~30人の規模で受検してもらい、その結果を授業で学生に提示してもらいます。

企業側は「社員の強み」「会社全体としての特徴」という説明ができるようになりますし、学生も自分のVSATスコアと照らし合わせながら、その企業がどんな長所を持っているのかを知ることができます。

埼玉大学石阪督規教授

「就活の教科書」編集部野口

企業の社員さんの特徴も理解してから入社すると、ミスマッチが減りそうですね。

 

埼玉大学キャリアセンターの特徴③SU Career Buddyと課題解決型プログラムとは

SU Career Buddyで学生・卒業生がキャリアを支え合う

「就活の教科書」編集部野口

VSATを私も受検してみたくなりました。

他にも埼玉大学キャリアセンターで取り組まれていることはありますか。

埼玉大学には、他大学でよく見られる“キャリアサポーター”に相当する「SU Career Buddy」という仕組みがあります。

仲間同士で支え合ったり、先輩が後輩をサポートする体制をつくっています。

この制度は3層構造になっていて、「Youth Buddy」「Buddy」「Alumuni Buddy」とカテゴリーが分かれています。

埼玉大学石阪督規教授

「就活の教科書」編集部野口

学生や卒業生がキャリアサポーターになってくれるのですね。詳しく教えてください。

「Youth Buddy」は、主に1年生が対象です。

就活や社会を知るための学びとして、社会を見る力や関心を養う活動を行っています。

例えば取材に出かけて、企業の話を聞いて、記事にして大学のホームページなどに掲載する取り組みを行っています。

埼玉大学石阪督規教授

「就活の教科書」編集部野口

私も取材することが日々勉強になっていますが、Youth Buddyも社会勉強になりそうですね。

「Buddy」は、内定が決まった3年生・4年生の学生たちが後輩のサポートをする形です。

内定獲得のノウハウや経験談をもとに講座を開いてもらい、それを動画にしてアーカイブ化し、埼大キャリアTVに掲載しています。

埼玉大学石阪督規教授

「就活の教科書」編集部野口

就活を終えた先輩も支援してくれるのですね。良いサポートが循環していて素敵です。

「Alumuni Buddy」は埼玉大学の卒業生が就活生をサポートする形です。

いわゆる昔のOB・OG訪問にあたるような交流を、大学が橋渡しをする形で支援しています。多くの卒業生に登録してもらい、現役学生との接点を持ってもらっています。

埼玉大学石阪督規教授

埼玉大学キャリアセンター SU Career Buddy note

 

地元に目を向けるキャリア支援“知ってから選ぶ”

「就活の教科書」編集部野口

SU Career Buddyの3段階のサポートが良い取り組みだと感じました。

私はもともと地域創生論や地域づくりを専門にしてきたため、どうすれば地域に有用な人材を輩出できるかという視点を大事にしています。

埼玉県は東京の隣なので、どうしても学生が東京に流出する傾向があります。「渋谷や丸の内で働きたい」という気持ちもわかりますが、埼玉にも魅力的な企業はたくさんありますし、地元で働くという選択肢もあるということを、学生に伝えたいと思っています。

埼玉大学石阪督規教授

「就活の教科書」編集部野口

「東京が魅力的」という感覚、理解できます。

東京へ行くことを否定しているわけではありません。ただ、“知らずに東京に行く”のと、“知ったうえで東京に行く”のとでは、大きく違うということです。

せっかく埼玉という土地に縁があって、埼玉大学に来ているのですから、まずは地域のこと、そして地元企業のことを知ってもらいたい。私たちは学生たちに“知る機会”や“選択肢”を増やしたいと考えています。

埼玉大学石阪督規教授

「就活の教科書」編集部野口

確かに、埼玉にも優良企業はたくさんあると思います。知らずに東京に行くのは勿体無いですね。

 

課題解決型プログラム:企業の中身に触れると就活の軸が変わる

そこで地元企業が登壇する「課題解決型プログラム」という授業を実施しています。

課題解決型プログラムは単位認定型の産学連携授業で、実際に企業の方に来ていただいて、学生とリアルに対話してもらうものです。

この授業には、2025年度だけでも20社以上の埼玉県内企業が参加してくれました。1コマずつ企業が登壇して話をしてくれるので、学生にとってはリアルな学びになります。

課題解決型プログラムを通じて、学生たちがそれまで知らなかった企業を知るようになり、実際にその企業に就職するケースも増えました。やはり“知らない”から選べなかった、というのが実情だったと思います。選択肢として地元企業を加えてもらうことで、学生にとっての可能性が広がると考えています。

埼玉大学石阪督規教授

「就活の教科書」編集部野口

課題解決型プログラムを実施し、地元企業に実際に就職するケースもあったのですね!

課題解決型プログラムの中で意識的に社会人と関わる機会を増やすようにしています。

例えば、企業の方に登壇してもらうだけではなく、グループワークにメンターやファシリテーターとして入ってもらったり、一緒にディスカッションしたりといった形で、実際にコミュニケーションを取る機会を設けています。

埼玉大学石阪督規教授

「就活の教科書」編集部野口

学生が社会人と対話する機会があることは非常に重要ですよね。

課題解決型プログラムに参加すると学生たちの考え方が変わってくることがあります。

その結果、“就活の軸が変わった”という声もよく聞きます。例えば、以前は“給与”や“立地”を重視していた学生が、“福利厚生”や“働きやすさ”、“会社の雰囲気”など、自分にとって本当に大事なものに気づいて、軸を変えていくんです。

“中小企業にも面白い会社がたくさんある”ということに気づく学生が多く、やりがいを感じています。

埼玉大学石阪督規教授

 


埼玉大学石阪督規教授から就活生へのメッセージ「自分軸を大切に」

「就活の教科書」編集部野口

石阪さん、ありがとうございました。

最後に就活生にメッセージをお願いします。

就職活動においては、人それぞれが「自分なりの軸」をしっかり持って臨んでほしいと思います。今はあらゆる企業情報が簡単に手に入る時代ですが、そうした情報に振り回されすぎることなく、自分自身の幸せや将来のあり方を見つめながら、自分の軸に沿った就活をしてもらいたいです。

もちろん、社会のトレンドや業界の動きを理解することも大切ですが、それ以上に大事なのは「自分はどう生きたいのか」「どんな人生が幸せなのか」を突き詰めて考えること。その上でキャリア選択をしてほしいと思います。

埼玉大学石阪督規教授

「就活の教科書」編集部野口

情報が多い世の中ですが、自分にフォーカスすることが重要なのですね。

業界や業種といった外側の分類だけでなく、“自分がどんな働き方をしたいのか”“どういう暮らしを送りたいのか”といった“自分軸”を大切にしてほしいと思っています。

“とにかくお金を稼ぎたい”という考えも、それはそれで立派な自分軸ですし、“趣味の時間を大事にしたい”という軸で残業が少ない仕事を探すというのも1つの選択です。

大学生活で“自分なりの軸”を見つけていけば、最終的に就職のミスマッチも減るのではないかと思います。学生たちには、自分軸を見つける経験を積んでほしいです。

もし迷ったり困ったことがあれば、キャリアセンターを活用してください。

埼玉大学石阪督規教授

「就活の教科書」編集部野口

新しい取り組みに挑戦する姿と、埼玉大学の学生さんに真摯に向き合い支援されている姿が印象的でした。

石阪教授、本日はありがとうございました!

埼玉大学キャリアセンター