【インタビュー】八戸工業大学 鮎川恵理教授「理系女子にしか見つけられない新しい発想がある」| 理系進路に悩む学生に届けたいメッセージとは

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こんにちは!「就活の教科書」編集部のじゅりです。
本日は「理系女子支援」について、八戸工業大学 鮎川恵理教授にインタビューしました!
この記事を読めば、「理系女子が社会に求められている理由」は何か、「キャリアを選択するうえで必要な視点」が分かります。加えて、「理系女子支援を始めた経緯」「鮎川教授自身のご経験」などもお伝えしていきますよ!

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

八戸工業大学工学部、教授の鮎川恵理と申します。

本日はよろしくお願いいたします。

Profile

八戸工業大学工学部工学科 生命環境科学コース 教授
HITリケジョLABO会長
鮎川 恵理 (あゆかわ えり)
専門は植物生態学。東京農工大学農学部の在籍中から、環境と植物との関わりに興味を持ち、総合研究大学院大学数物科学研究科極域科学専攻に進学。2000年日本南極地域観測隊で南極のコケ植物の現地調査。2004年より八戸工業大学で多くの理系女子を指導、就職指導も行ってきた。女子大学生と女子高生の母。

【鮎川恵理教授インタビュー①】鮎川教授が会長を務める「HITリケジョLABO」って?

「HITリケジョラボ」は、女子中高生の「やりたいこと」実現をサポートする組織

鮎川教授は、大学での就職支援のほか、女子中高生向けの理系女子支援「HITリケジョLABO(HITは八戸工業大学の略)」で、会長を務められていますよね。

どういったことを目的に活動されているのでしょうか。

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

「HITリケジョLABO」では、青森県をはじめとした北東北で理系分野で学び、はたらく女性の増加をめざしています。

理系進路を目指す女子中高生を増やすため、男女の枠にとらわれずに理系進路を選択し、「やりたいこと」をできるよう、サポートをしています。

「HITリケジョLABO」での活動の様子

「HITリケジョLABO」での活動の様子

 

理系分野を幅広く伝え、興味関心を刺激

活躍する女性を増やしていくことを目的に活動されているんですね。

普段はどのような活動をされているんでしょうか。

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

「HITリケジョLABO」では、公開講座やワークショップ、体験実習を実施しています。

理系分野それぞれにある面白さを伝え、興味関心の幅を広げてもらうため、私が専門としている生物学から、他分野の化学、データサイエンスまで、いろんな理系分野について、知ってもらう機会を作っています。

また、理系進路の生のロールモデルを知ってもらうためにも、現在大学職員で、理系進路を卒業した女性などにも、企画に協働してもらっています。

実際、今夏(2024年)には、「HITリケジョサマーキャンプ2024−逢って・見て・知って、理系のしごと−」を開催し、リケジョの仕事について知ってもらったり、理系の先輩と話せる機会を作ったりしました。

理系進路へのイメージを膨らませる機会をたくさん提供されているんですね!

「就活の教科書」編集部 じゅり

「HITリケジョLABO」での活動の様子

「HITリケジョLABO」での活動の様子

 

 


【鮎川恵理教授インタビュー②】「理系進学しても就職できる?」理系女子支援に臨んだ背景

理系女子支援を始めたきっかけは、ママ友の「理系進路にも仕事はあるの?」

鮎川教授は、大学での就職支援のほか、女子中高生向けの理系女子支援「HITリケジョLABO(HITは八戸工業大学の略)」を運営されていますが、なぜ、理系女子のキャリア支援を始められたんですか?

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

女子中高生の理系進路の支援に関して、大学から任せられたことを機に始動するんですが、

個人的な経験として、ママ友に「娘が理系進路の八戸工業高等専門学校(八戸高専)に進学しようとしてるんだけど、将来仕事はあるのかな?」と、心配する声を聞いたことも大きなきっかけとなりました。

理系進路の将来への不安を周りで聞かれたんですね。

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

はい。そうなんです。

確かに、理系進路に進んだ経験がないと分からないことがあるなと思い、「ちゃんと仕事はあるよ」とアドバイスできる人が必要だと考えるようになりました。

理系進路に経験のない親御さんのもとで育っている女の子をサポートすることができるな、というふうに思ったことも大きなきっかけになったんです。

その後、そのママ友に「あんたに娘の進路を任す」と言われました。

理系に進んだ後、「どんな仕事があるのかわからない」というのが、理系進路を選べないきっかけになっているのかなと思い、「こういう仕事がありますよ」「普通に働けますよ」とお伝えしていくために、「HITリケジョLABO」での女子高生支援を開始しました。

 

社会に求められる「女性ならではの視点」

理系女子支援を始めたきっかけは、身の回りの方の悩みを聞いたことだったんですね!

ですがそもそもなぜ、女性ターゲットの支援に注力されているんでしょうか。

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

女性目線だからこそ、生まれる新しい技術はあると感じているからです。

私は大学院生の頃、生まれて初めて南極大陸に足を運んだんですが、当時のタイミングは、女性として約10人目の南極入りだったそうで、女性として南極を経験した人が少なかったんですよね。

だからこそ、同性のほうが話しやすいような女性ならではの相談を、男性隊員に聞かなくてはならない状況もありました。

南極大陸で活動される鮎川教授

南極大陸で研究活動をする鮎川恵理教授

女性の研究者や観測隊員が少なかったんですね。

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

女性ならではの困りごともあり、大変な時もありました。

こういった経験から、「女性目線だからこそ生まれる技術、道具」などがあるんじゃないかなと思うようになったんです。

実際、六ヶ所エンジニアリング株式会社(https://r-e-c.co.jp/)さんの見学に行った際、女性技術者ならではの発見が活きている技術を拝見したことがあります。

「工場などの配管を外すとき、高齢になってきた技術者や女性だと力が足りなくて、パイプを二つに離すのが大変だ」という発想から、女性技術者が新しい器具を開発し、結果的にその方面で賞をもらったことがあったんだそうです。

なので、女性目線だから生まれる技術、道具が求められていると思ったんです。

女性があらゆる分野で活躍することで、新たな技術・道具が生まれると実感されてきたのですね。

「就活の教科書」編集部 じゅり

 

男女の枠にとらわれず、理系進路を選択できる社会にしたい

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

また、私が働く大学の理系分野にも、女性が少ないという現状はまだまだあります。

私が働く工学部での女性の数は、私を含めておよそ60人中2人だけです。

働き始めて20年ほど経っていますが、最初の10年間なんかは私ひとりだけでした。

女性の割合が少ないからこそ、女性として働くことの難しさを感じたことはありましたか?

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

女性として働くことに難しさを感じたことはありませんでした。

ですが、女性が働きづらい社会を少しでも変えていきたいなと感じることはありましたね。

約18年前、子どもが生まれたのですが、夫が育児休暇制度を利用できず、ひとり育児をせざるを得なくなってしまったんです。

当時、夫の勤め先にも、育児休暇制度はあったものの「使うことはできるけど、まわりの人で使った人はいないですよ」と暗に言われてしまったんですよね。

育児休暇制度がなかなか機能しづらい時期だったんですね。

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

夫が転勤族であることもあり、結果的に2人の子どもを、ほぼひとりで育てました

子どもが熱を出した際、急遽、病児保育を探して預かってもらう必要があったので、授業に必ず出られるように、私の授業は2時間目以降にしてもらうなどして工夫しなければいけず、大変でした。

18年経った今では、無理矢理にでも育児休暇制度を使うようにする企業が増えましたが、私の娘たちやその世代には、「女性も働きやすい社会で活躍してほしい」と考えています。

育児など、仕事のほかにやりたいことも思う存分挑戦していける社会にしていく必要があると思われたんですね。

「就活の教科書」編集部 じゅり

 

【鮎川恵理教授インタビュー③】キャリア選択で大切にすべきことって何?理系進路は魅力的なの?

「これじゃないといけない」は捨て、柔軟に。

女子中高生向けの理系女子支援「HITリケジョLABO」では、その理系の魅力を伝える取り組みをされていますよね。

理系進路の魅力を伝える際、こだわっていることはありますか?

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

普段自分の娘を見ていても、SNSの影響で「自分の好きな分野」にしか目がいきづらい環境になっているなと感じています。

そのため、興味関心のない分野にも、視野を広げていくお手伝いをすることで、本当にやりたいことを見つけていってほしいと考え、女子中高生に向けたイベントを開催するようにしています。

関心のない分野にあえて目を向けることも大切ということですね。

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

理系は、幅広いキャリアを切り開ける魅力の多い分野でもあるんです。

あまり知られていないところで、理系出身者が活躍している場は多くあります

例えば、公務員。市役所で事務的な業務に従事しているイメージが強いかもしれませんが、林業や化学の分野である、水質検査や自然保護など、理系分野に知識のある人がいないと成り立たない役割も多くあるんです。

「公務員=文系」という勝手なイメージを持ってしまっていました。

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

震災後の建物ダメージをチェックし、「進入禁止」の張り紙を貼るのにも「建築分野の資格が必要」と聞いたこともあります。

そういう専門知識がある人って、とても重宝されると思うんですよ。

だからこそ、大学生の方にも「インターンシップ」などを利用して、視野を広げ、知らなかった役割に気づいてほしいと思います。

実際の働き方を知ったり、ロールモデルに出会えたりして、「〇〇をすればこういうタイミングで△△もできるんだ」なども発見もできます。

知らないところに目を向けないと、「本当にやりたいこと」が見つけられない可能性もありますよね。

他分野に関心を持ち、自分自身の可能性を最大限広げることが大切だなと思いました。

「就活の教科書」編集部 じゅり

 

理系の魅力は「ワクワク感」

私は文系なので分からないんですが…。

文系にはない理系の魅力って何があるんでしょうか。

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

私の場合だと、「ワクワク感」が理系の魅力として一番大きいです。

私は植物の研究をしているので、野外で見た植物の様子をデータ化することがあるんです。

そのデータが予想通りだったりすると嬉しいですし、自分で推測しながらデータを出していくことにとてもワクワクします。

また、私の研究テーマだと、野外での調査も多いので、珍しい植物やきれいな景色に出合うなんてこともあります。

こうした「ワクワク感」が理系でしか味わえない点なのかなと思います。

理系の魅力を知っているからこそ、理系女子支援にも取り組むことができているんですね。

「就活の教科書」編集部 じゅり

 


鮎川恵理教授が伝えたい!就活生や理系学生の皆さんへのメッセージ

メッセージ①:受けたサポートは社会人になってから返せばいい

最後に、就活生や理系進路に進んでいる/これから進む方にメッセージをお願いしたいです!

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

まず、「今就活でかかってしまうお金は、ご両親など周りに借りて。会社に入り働き始めれば、きちんとお金は返せるから」と伝えたいです。

就職指導をする学生にもよく言っているのですが、今必要な交通費を3万円分ケチって就活をしてしまうと、 やりたいこと・なりたい自分にたどり着けないかもしれません。

就職後、その先のことを考えて就活を進めてほしいです。

地方と都心部を行き来する移動の多い就職活動だと、交通費がかなり必要ですもんね。

私の場合は、都心部から地方に移動して就職活動をすることが多かったんですが、受けたい会社を受けるために、支援制度なども利用しながら交通費をやりくりしていました。

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

そうですね。

私が教鞭をとっている青森県に住まう学生の場合、例えば、地元の工業地帯などでの就職を希望しても、都心部にある本社まで足を運ぶ必要がある場合も多いんです。

交通費が負担になる場合もあるでしょう。ですが、社会に出ればのちにしっかり返すことができます。

私自身、親や奨学金のサポートをしてもらいながら、30歳まで学生をしていたからこそ、現在、育ててもらった分をお返ししている最中です。

サポートを受けた分、そのあと働いて社会に何か貢献していくことはできます。

不安なことがあれば、大学の就職課などに相談しながら、先を見据えたキャリアデザインが大切です。

いろんなサポートを受けたうえで、社会に出た後思う存分恩返しができるということですね!

「就活の教科書」編集部 じゅり

 

メッセージ②:理想通りうまくいかなくても大丈夫。だからこそ諦めないで。

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

また、全員が全員、スーパーエリートであるわけではないので、頑張っても当初の理想通り、うまくいかないことは多くあると思います。

ですが、うまくいかなくてもそれでいいんです

大人たちも、みんなそういうふうに紆余曲折しながら、今の仕事に就いている」と思うんですよね。

実際、私も学生時代は「地元の東京で働けたらそれに越したことはない」と思っていましたが、現在は青森で生活をしています。

いろんな失敗を重ねながら、今の職業に就いている人も多いということですね。

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

「何が何でもこの仕事がいい」と思うだけでなく、他の可能性にも柔軟に目を向けてみてください。

そのうえで、自分が目指したいことを諦めずに続けていくことが大切です。

「やめないで頑張っていればいいことあるかも」「だんだん目標に使づいていけるかも」と私は思っています。

好きなことに全力で取り組む先に、道が見えてくるということですね。

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

どれだけ優秀な人でも、途中でやめてしまえばそこで終わりです。

反対に、優秀じゃなくても辞めずに続けていたら、「周りが努力を見てくれている」「分野を極めることができて、専門家になれる」可能性があります。

ちょっとうまくいかないからって諦めないで工夫することが大切です!

可能性を自分で狭めるのではなく、ありとあらゆる方向に広げていくことが大切だと、気づかされました。

キャリア支援に取り組まれる鮎川教授だからこそ伝えられる心強いメッセージを大変にありがとうございます。

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

可能性を最大限に開くためにも、現在学生の方には「インターン」などに参加してみてほしいです。

理系の大学院生が、文系と思われがちな新聞記者になるケースなども見てきました。

取り組んでみたら、自分が好きな分野で活きる場所がたくさん見つかるかもしれない

文系の方でも「理系だからこの企業はダメだな」と諦めないで。

とりあえず、一歩踏み出してみることが大切です。

就活生の勇気につながるお話、大変にありがとうございました!

「就活の教科書」編集部 じゅり

八戸工業大学工学部  鮎川恵理教授

ありがとうございました!

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