「就活の教科書」編集部野口
こんにちは!「就活の教科書」取材チームの野口です。
今回は、ユースキャリア研究所の高橋浩さんに“やりたいこと志向”や“ジョブ・クラフティング”という視点から、キャリアを主体的に考えるヒントを伺いました。
高橋さん、本日はよろしくお願いします。
よろしくお願いします。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
高橋 浩(たかはし・ひろし)
ユースキャリア研究所代表
法政大学 キャリアデザイン学研究科 兼任講師
大学では教育学を学ぶも、進路に疑問を抱き、理工系ゼミを経てNECグループへ入社。半導体設計に約10年従事後、品質管理・経営企画部門を経てキャリア支援業務に携わる。心理学やキャリアへの関心から働きながら大学院に通い、博士号を取得。2011年に独立し、企業向けのキャリア相談や講演、キャリアコンサルタント向け研修などを行い「その人らしいキャリア形成」を支援している。
目次
ユースキャリア研究所高橋浩さんへのインタビュー①「やりたいこと志向」とは
「排他的」「受容的」やりたいこと志向の二面性
「就活の教科書」編集部野口
高橋さんは法政大学など多くの大学で講師として活躍されていますよね。さっそくですが、どのような研究をされているのか教えてください。
「やりたいこと」志向の二側面とキャリア発達との関連について研究していました。「やりたいこと志向」とは、自分が職業選択をする際に、「何をやりたいのか」という視点を軸に据えて考える姿勢のことを指します。
「やりたいことを中心にキャリアを考えるのは、当然のことではないか」と感じる若い世代の方もいらっしゃると思います。しかし、やりたいことをはっきりと見つけられないまま就職活動を迎える方も多いです。
専門家の間でも、「やりたいことばかりを追求すると、柔軟性を欠いて社会に適応しにくくなるのではないか」といった懸念の声があります。一方で、「やりたいことがあるからこそ、仕事に前向きに取り組もうとする意欲や動機が生まれる」といった肯定的な意見もありました。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
「就活の教科書」編集部野口
専門家の方の意見が割れたのですね。
賛否両論の背景をさらに深く探る中で、「やりたいこと志向」には二つのタイプがあることに気づきました。
1つ目は、「排他的やりたいこと志向」です。自分のやりたいこと以外は一切受け入れず、それ以外の選択肢はないという姿勢をとるタイプです。
2つ目は、「受容的やりたいこと志向」です。やりたいことを持ちながらも、それ以外のことも受け入れて取り組むことができるという柔軟性を持った姿勢です。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
キャリア発達が高いのは“受容的”な人
「就活の教科書」編集部野口
「排他的やりたいこと志向」と「受容的やりたいこと志向」ですか。キャリア形成も異なりそうですね。
私が行った研究では、「受容的やりたいこと志向」を持つ人の方が、キャリアの発達が高いという傾向が見られました。これは若年層だけでなく、50代までの幅広い年齢層を対象とした調査結果です。
この結果からわかることは、「やりたいことだけに固執すること」は、むしろ選択肢を狭めてしまい、結果として可能性を閉ざしてしまう恐れがあるということです。
一方で、やりたいことを大切にしながらも、そこにとらわれすぎず、多様な仕事を受容していくと豊かなキャリアを築いていけるということが明らかになりました。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
「就活の教科書」編集部野口
私はやりたいことがわからなかったので、「やりたいことに向かって突き進んでいる人」が魅力的に見えていましたが、柔軟に対応していくことが重要なのですね。
野口さんのように、「やりたいことが明確に定まらないまま就職した」という経験を持つ方も少なくないと思います。しかし、そうした中である程度の妥協をしながらも選択を重ねていくことで、結果として成長を遂げている人が多いという実態も見えてきました。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
ユースキャリア研究所高橋浩さんへのインタビュー②ジョブ・クラフティングとは
個人と組織の双方にとってWin-Winの関係
私は「設計」という言葉に惹かれてNECに飛び込んだものの、実際には仕様に沿って作業を進めるという側面が強く、「自分には合わない」と感じた経験がありました。
そうした経験から、私は「いかにその会社の中で、自分がやりたいことを実現しつつ、同時に会社にもきちんと貢献していけるか」という点に強い関心を持つようになりました。個人としての想いや目的と、組織としての目標や方針が、どちらも満たされる状態をどのように築いていけるのか。まさに、個人と組織の双方にとってWin-Winの関係を実現するにはどうすればよいか、という点を、私の最も重要なテーマとして捉えております。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
「就活の教科書」編集部野口
“組織の中で自分らしさをどう活かすか”は就活中にはあまり意識できない視点かもしれません。どのようにアドバイスされているのでしょうか。
やりたいことを持つのは素晴らしいことなのですが、それをあまりにも自分本位で進めてしまうと、組織との間に衝突が起きてしまうことがあります。
このような衝突を避ける、あるいは乗り越えるためには、「自分のやりたいことが組織にもプラスになっているのか」という視点が不可欠です。やりたいことと組織の目的をどう接続していくのかを意識することが重要だと思います。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
ジョブ・クラフティング:仕事の進め方を自ら工夫する働き方
「就活の教科書」編集部野口
「自分らしさを保ちつつ、組織に貢献する」とは、難しいですよね。
「ジョブ・クラフティング(Job Crafting)」という考え方があります。与えられた業務に対して、どのように自分自身の特性や強みを発揮していくかを主体的に考え、仕事の進め方や関わり方を自ら工夫していくというアプローチです。
多くの場合、業務というのは「この仕事をやってください」と指示されるかたちで始まるものですが、その枠組みの中において、いかにして自分らしさを発揮するか――その工夫こそがジョブ・クラフティングなのです。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
ディズニーランドの清掃スタッフ「カストーディアル」
「就活の教科書」編集部野口
例えばルーティーンワークの職種でも工夫次第で意味や楽しさを見出せるんですね。
有名な実例として、ディズニーランドで働く「カストーディアル」と呼ばれる清掃スタッフの方々の取り組みがあります。ただ清掃業務を黙々と行うだけでは、お客様との接点が少なく、業務に面白みを見いだせないと感じることもあるかもしれません。そこで、あるスタッフはほうきの先に水をつけて路面にミッキーマウスの絵を描くといった工夫をしながら、お客様と自然に交流する方法を考案しました。これにより、「清掃する人」という役割に「お客様を楽しませる存在」としての新たな意味が加わったのです。
このように、たとえ業務そのものが面白くないと感じられたとしても、自分の力(たとえば絵を描く能力など)をどう活かせるかを工夫することで、仕事が生き生きとしたものに変わっていきます。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
「就活の教科書」編集部野口
昔からカストーディアルさんが大好きです。楽しそうにお仕事をされていて素敵ですよね。
私は物事を探求するのが好きで、「この仕事の中で探求できる要素はないか」と考えたりします。たとえば、情報を収集し整理することも、私にとっては探求心を満たせる大切な活動です。
このように、自分にとって「面白い」と感じられることや「得意」だと感じられることを、与えられた仕事にどのように組み込んでいくか。その工夫を積み重ねることが、仕事を前向きに捉え、より良い形で取り組んでいくための鍵になるのではないかと考えております。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
「ゲーム感覚」で仕事に取り組む
「就活の教科書」編集部野口
業務の中に“自分の好き”を組み込むことで、仕事に対して前向きになれそうです。
競争することが好きな方であれば、「これまで3時間かかっていた業務を、次は2時間半で終わらせることを目指してみよう」といったように、ゲーム感覚を取り入れて仕事に取り組むという工夫も一つの方法です。
また、「この業務、もっと効率的にできるのではないか」といった観点を持ち、改善のためのアイデアを出すことにやりがいを感じる方であれば、自ら提案を行い、業務の進め方を見直してみるというのも非常に有意義です。
このように、アイデアを出すこと自体を楽しめる方にとっては、それが自分のモチベーションの源となり、さらに会社にとってもプラスの効果をもたらします。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
「就活の教科書」編集部野口
ゲーム感覚で仕事をすると、楽しいかもしれないですね。
重要なのは、「自分が何を強みとして持っているのか」「どのようなことに夢中になり、熱中できるのか」といった点をしっかりと自覚しているかどうかという点です。自覚がなければ、ジョブ・クラフティングはなかなか実現できません。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
自己分析をして「本当の自分の強み」を知ることが重要
就職活動をされている学生の皆さんは、自己分析に取り組まれている方も多いかと思いますが、ここで申し上げたいのは、表面的な、あるいは「誰かに伝えるためだけの」自己分析ではなく、本当の意味で、自分の内側にある「これが本当に楽しい」と思えることや、「これは自分の強みだ」と心から実感できる要素を見つけ出すことの大切さです。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
「就活の教科書」編集部野口
就活のために、ESを書くために自己分析をする学生が多いですよね。就職後に「どういう仕事で自分の強みを生かせるか」を分析することが重要なのですね。
ESを書く際には、「格好良いことを書かなければならないのではないか」という思いを抱えている方もいらっしゃると思います。私も就職活動のサポートに関わる機会もございますので、そのような悩みに触れることもあります。
しかし自己分析というのは、単に「他人にどう見せるか」という目的だけで行うものではありません。むしろ、自分自身の人生にとって「何が本当に大切なのか」を理解するために取り組むべきだと思います。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
ユースキャリア研究所高橋浩さんから就活生へのメッセージ
就活は「宝探し」──自分の特性を見つける旅
「就活の教科書」編集部野口
高橋さん、ありがとうございました。
最後に就活生にメッセージをお願いします。
就活を、ある種の「宝探し」だと捉えると良いと思います。宝とは、「自分らしさ」や「自分の強み」「自分がやっていて楽しいと感じること」です。そしてその宝を探す探検こそが、キャリアを形成するプロセスなのです。
就職活動を通じて、「どの会社に入れるか?」ではなく「社会において自分のどんな特性が発揮できるのか?それができる会社はどこか?」と自問自答することがとても重要だと考えます。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
「就活の教科書」編集部野口
「宝探し」という表現、とても素敵ですね。自分らしさを見つける探検と思うと良いのですね。
私も20代の頃には自分の価値観が明確ではありませんでした。「なんとなく嫌だ」「なんとなく合わない」という感覚だけが先に立っていて、その理由が分からなかったのです。
でも30代に入り、カウンセリングや心理学を学ぶ中で、自分は「独自性を重んじる人間」だと気づきました。言い換えれば、既存の枠組みに自分を押し込められることに強いストレスを感じる性格だったのです。その自分らしさを肯定できるようになってから、キャリアの選択も変わってきました。
就活生の皆さんも、「これは嫌だ」と思ったときに「なぜ嫌なのか?」「自分のどんな価値観と合わないのか?」といった問いを大切にしてほしいです。それが「自分の軸」を見つけるプロセスだと思います。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
「就活の教科書」編集部野口
違和感を無視せずに、自分に問いかけることが大事なんですね。
私が社会人になってから最初にやったことは、セルフコントロールの講座に通うという小さな一歩でした。転職したり、大きな決断をしなくても、自分の興味のある分野に関わる人と会ってみる、少し学び始めてみる、それだけでも新しい扉が開きます。
そのうちに、ネットワークが広がり、自分が本当にやりたいことや進むべき方向が見えてきます。私も、会社員として働きながら大学院に通い、博士号を取得し、最終的に独立するという道を選びました。これは一朝一夕にはできないことですが、少しずつ歩んでいけば、必ず自分らしい道が開けてきます。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
「就活の教科書」編集部野口
博士号取得や独立というお話は壮大ですが、最初の一歩は講座に通うことだったんですね。小さく始めればいいんだ、ということが心に響きました。
ちなみに私が最も苦手だったのは「人前で話すこと」でした。引っ込み思案で、発言することに対して強い恐怖がありました。でも、カウンセリングや講師の仕事に携わるうちに、それが少しずつ克服されていきました。
今では講演や研修の講師も務めていますが、あの頃の自分を振り返ると信じられないくらい成長したと思います。だからこそ、あえて「一番苦手なことに挑戦する」というのも、自分を変えるための大きなヒントになると思っています。
就活でも、「なんかこれ苦手だな」「不安だな」と思うことがあったら、少しだけ踏み出してみてください。それが思わぬ成果や自信につながるかもしれません。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
キャリアは「自分が主人公の物語」
私は会社員時代に「自分はこのまま会社の歯車になって終わるのか?」と疑問を持ちました。そこで自分の人生を「自分が主人公になれるもの」にしたいと思い、小さな一歩から始めたのです。
就活生の皆さんにも、「自分が人生の主人公である」という感覚を忘れないでいてほしい。時には道に迷ったり、間違った選択をしてしまうこともあるかもしれません。でも、それすらも自分が選んだ人生の一部として大切にできるような生き方をしていってほしいのです。
皆さんのこれからのキャリアが、あなたらしい軸に基づいたものであることを願っています。どうか焦らず、一歩ずつ、探検を楽しんでください。
ユースキャリア研究所高橋浩さん
「就活の教科書」編集部野口
高橋さんご自身のキャリアも、決して一直線ではなかったからこそ、「小さな一歩からでいい」という言葉が、心に深く響きました。
本日は貴重なお話を本当にありがとうございました。