「就活の教科書」編集部小林
こんにちは!「就活の教科書」取材チームの小林です。
本日は、青森大学の石井重成准教授にお話を伺いました!
この記事を読めば、「ローカルキャリア」や「地方で働くメリット」について知ることができます。
「地方で働くのってどうなんだろう…」や「自分の本当にやりたいことってなんだろう…」などの悩みがある人は必見です!
「就活の教科書」編集部小林
石井准教授、本日はよろしくお願いします!
よろしくお願いします。
青森大学 石井重成准教授
石井 重成(いしい・かずのり)
国際基督教大学を卒業後、経営コンサルティング会社を経て、東日本大震災を機に岩手県釜石市へ移住。
地方創生の戦略立案や官民パートナーシップを統括。オープンシティ推進室を新設し、人口減少時代の持続可能な復興まちづくりを推進。
2021年4月より青森大学准教授を務める。産官学を一周し、各地の地方創生事業や人材育成に携わる。
目次
石井 重成准教授にインタビュー①:どうして被災地に?
一年後の被災地に訪れて:「ここにいたい」
「就活の教科書」編集部小林
石井准教授は、東京都内の経営コンサル会社に勤めていらっしゃったということですが、岩手県釜石市に移住したきっかけを教えてください。
2012年の春に被災地に行く機会があったんですが、その時に二つ驚いたことがありました。
一つは「一年経ってるのに全然何も進んでないな」と思ったことです。瓦礫の山もまだあったし、船が家の屋根の上に乗ったままだったりと。
二つ目の驚きは、そこにいる人たちがめちゃくちゃ熱く見えたんです。
大変な思いをしたのに、「こんな街を作っていきたい」とか「こんな復興をしていきたい」ということを、いろんな人たちがごちゃ混ぜになって仮設商店街で飲み合って話してるのを聞いて、「ここにいたい」という気持ちを持ちました。
それで、次の日には「東北行くので会社辞めます」と会社に告げてきました。
その後、ご縁があって釜石市役所に行きました。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
次の日には会社を辞める決断をしたなんて、行動力が凄いですね…!
「26歳の若さで行動せずに後悔して生きていくには人生は長すぎる」
「就活の教科書」編集部小林
急に東北に行くことに対しての不安や躊躇いはありませんでしたか?
もちろん不安はありましたよ。友達もいないし、そもそも東北にほとんど行ったこともなかったですし。
当時26歳でコンサル会社を辞めて、「当時の給料の半分以下になるようなところにどうしていくの?」とは結構周りに言われたんですが、「自分では別に大したことないな」と思っていました。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
私だったら、全く知らない土地で今よりも生活が不安定になってしまうかもしれないことを考えたらなかなか行動できなさそうです…
「失うほど、自分は何も持っていない」と思っていましたし、
26歳で“ここに行きたい”と思って行かないとすると、後悔してこの後生きていくには長すぎるなと思いましたね。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
「行動せずに後悔して人生を生きるには長すぎる」という考え方は素晴らしいですね!
釜石市での取り組み:復興を通して新しいことをする物語
「就活の教科書」編集部小林
釜石市役所に行ってからは、どのような活動をされていたのですか?
市役所に転職してからは、被災地の課題を聞き回ってそれを言語化して、外に発信していきました。
そこに関心を持ってくれた企業やボランティアの方たちと地元をつなぐようなマッチングの仕組みを作るところから始めました。
その取り組みが評価されて釜石市の地方創生チームを立ち上げ、事業責任者として人材誘致や起業支援、地方教育などに取り組んでいました。
毎年2億円くらいの予算をいろんな形で集めて、復興の次のステージ・未来につながる取り組みをひたすら試し続けた9年間でした。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
復興というと、私のイメージでは建物を直したり街を元通りにしたらいいものと思っていたんですが、経済的・教育としても元通りにする必要があるんですね。
ただ壊れた建物が直っただけで“復興”というのはやっぱり感じられにくくて、震災が辛い経験であることに変わりはないけれど、『いろんな人たちと協力して新しいことができたね』という物語を作る仕事でした。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
震災での辛い経験をバネに、新しいことを協力して行っていく物語を作るというのは素敵なお仕事ですね!
石井 重成准教授にインタビュー②:青森大学での取り組み・ゼミについて
大学教員として:「地方創生」と「震災復興」
「就活の教科書」編集部小林
現在、青森大学で准教授をされているということですが、行っている研究などについて教えてください!
現在、社会学部のコミュニティ創生コースの教員をしています。
主な授業・研究としては二つ行っていて、一つは「地方創生」という政策を今まで10年ほど行っています。
地方創生という枠組みの中で、『どういう取り組みが生まれてきて、どういう可能性があって、どんな課題があるのか』ということを調べたり、授業で扱っています。
もう一つは「震災復興」の授業を行なっています。
震災復興の仕組みや制度というのは、毎回の震災で変わるんですよ。阪神淡路大震災、中越地震、東日本大震災、能登半島地震など、各震災における日本の支援制度の変遷を比較して学んでいくということを行なっています。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
大学でも、「震災復興」をテーマに取り組んでいらっしゃるのですね!
ゼミでの活動:学生に『三つの機会を提供』
「就活の教科書」編集部小林
ゼミではどんな活動をしているのでしょうか?
ゼミに入ってやってもらいたいことは「絶対解のない世界を味わう」練習です。
実社会に出て、自分で事業をしたり、社会変革をしようと思ったら絶対解なんて無いわけですよ。
それよりは、関係者と一緒に“納得解”を作り出していく力が求められます。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
高校まではテストなどは絶対解に基づいて評価されていましたが、社会に出ると急に絶対解がなくなる世界になるんですね、、
僕のゼミに入ったら、三つの機会を提供しますと言うことを学生には伝えています。
「外の世界を知り多様な人と繋がる機会」、「自分で考えて行動する機会」、「リーダーシップを見出す機会」
フィールドワークや釜石でのゼミ合宿、青森市との移住促進プロジェクト、浅虫温泉でのマルシェ出店、ゼミSNSの運用など、実践的な活動を通じて学生に三つの機会を経験してもらっています。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
実践的な活動がメインなんですね!
それに加えて、ゼミ生と三つ約束していることがあります。
「僕も楽しむし学ぶ姿勢をもつ」ということ、「学生を“子ども扱い”しない」こと、「ありたい姿や価値観を体現する」ことです。
絶対解のない世界を味わうって言って、僕ができてなかったら意味ないですから。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
学生と同じ目線に立って、それを体現されているのが素晴らしいです!
ぜひ、「石井ゼミ」の活動をインスタでチェックしてみてください!
青森大学 石井重成准教授
石井 重成准教授にインタビュー③:ローカルキャリアとは?
地方だからこそ得られる経験がある
「就活の教科書」編集部小林
石井准教授が考える「ローカルキャリア」についてお伺いしたいです!
「ローカルキャリア」には“地方だからこそ得られる経験がある”ことを実証したいと言うのが一番にあります。
これは自分自身の体験でもあるんですが、都内でコンサル会社に勤めていた4年間はハードワークだったし、学ぶことはもちろん多かったんですが、引っ越してきて釜石市役所で過ごした9年間はコンサル時代の4年間よりも遥かに濃かったんです。
人間性を含めた人間的成長が求められて、自分の裁量でいろんなことをやらせてもらえました。
だからこそ、上手く噛み合う形で地方でキャリアを作っていくことができるならば、「都市部のビジネスパーソンにとっても価値ある選択肢になるのでは」というのが最初の思いです。
青森大学 石井重成准教授
選択肢の一つとして“ローカルキャリア”を見てほしい
「就活の教科書」編集部小林
就職先を考えるときに、「東京に行きたい!」と思って勤務だけを優先して考えてしまうというのは良くない考え方なのでしょうか…?
いや、一回都会で働いてみるといいと思います。
地方に住んでいる人って特に、誰しも多かれ少なかれ「都会に行きたい」という気持ちを持ってるんですよ。
それに人は「行くな」と言われると行きたくなるし、「見るな」と言われると見たくなるものじゃないですか。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
確かにそうです!
都会で働いてみて、そこで学べるスキルや経験値を積んだ上で「じゃあ自分は本当は何がしたいの?」と考えるタイミングで、“ローカルキャリア”を選択肢として見てほしいというのが僕の真意です。
だから新卒で必ずしも地元だったり地方で就職しなくてもいいと思っています。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
「都会に行きたい」と言う気持ちは否定せず、一回経験してみていいんですね!
“ローカルキャリア”の経験は都市部でのキャリアアップにもつながる
「就活の教科書」編集部小林
“ローカルキャリア”として地方で働いたあと、また都市部に戻るという人はいますか?
もちろんいます。ネガティブな理由で戻る人もいれば、ポジティブな理由で戻る人もいます。
僕の釜石移住をきっかけに移住し、復興支援に関わった後、都市部の企業に戻ってデロイトトーマツコンサルティングに転職した友人がいます。
その友人は結果的にキャリアアップを実現しており、ローカルでの経験が都市部でのキャリアにもプラスに働く事例となっていますね。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
「都会じゃないと経験積めない」とばかり思ってしまうんですが、都会では出来ない経験が地方にはあるんですね!
大袈裟に聞こえるかもしれないですが、「都市部で部品として生きていくか、地方で心臓として生きていくか」みたいな違いってあるんですよね。
もともと地方は人手不足だって言われているんですが、これって逆に言ったら“バッターボックスだらけ”なんですよ。
だから「都市部で素振りばっかしているんだったら、地元でバット振ったらいいんじゃない?」と思います。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
打席に立って、ガンガン打っていった方が成績良くなるということですね!
地方でこそ実現しやすい「自分でレールを作る生き方」
僕は、地方でこそ実現しやすいのが、『自分でレールを作る生き方』だと思っています。
小さい会社、小さい地域・組織だからこそ、自分のアイデアや試したいことが会社やコミュニティの意思決定にも反映しやすいですし。
また、もともと地方には百姓のように複数の仕事を持つ文化が根づいており、副業やパラレルキャリアは当たり前だったんです。
現代でも複数の役割を持ち、自分らしいキャリアを築く場としてローカルは非常に可能性があると思っています。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
「地方には仕事が少ない」と思ってしまいがちですが、逆に捉えれば仕事が少ないからこそ自分で新しく作りやすいですね!
役割だったり、ビジネスというのは自分で作っていけばいいんです。
それに最初から新卒で取り組む人も良いですし、少しベースのスキルをつけてから、ローカルキャリアを目指すっていうのも選択肢として良いと思います。
“変革のマインド”は必要ですが、地方でもビジネスの最前線で活躍することももちろんできます。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
地方でも都市部と同じように、ビジネスチャンスはたくさんあるんですね!
石井 重成准教授にインタビュー④:ローカルキャリア教育について
地方に拠点を置きながら豊かに暮らし、活躍している人の存在を知ってもらう
「就活の教科書」編集部小林
ローカルキャリア教育では、どのようなことを行なっているんでしょうか?
福島県奥会津などの地域で子どもたちの地元への意識調査を継続し、無理に押し付けるのではなく、
「将来地元に貢献したい」と思えるような機会をつくる「地方キャリア教育」に取り組んでいます。
地方キャリア教育には二つの視点があって、一つ目は『地方に拠点を置きながら豊かに暮らし、活躍している人の存在を知ってもらうこと』です。
そのような人たちというのは、都市部で通勤に追われる生活よりも比べものにならないくらい楽しい生活をしているんですよ。
「ローカルで稼ぐ・自分らしく生きるとは何か」というイメージを共有し、“ローカルキャリアの可能性”という視点を子どもたちにシェアしていくというのが一つです。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
地方で働くということをイメージできるように、サポートしているですね!
地方への貢献意識を育てる
二つ目は、地域に対しての誇りや愛着である「シビックプライド」や「地方への貢献意識」というのは教えられて生まれるものじゃなく、自分が何かを作る側になって初めて生まれるものなんです。
ただ地元の良さを聞かされるだけでは心に響かないけれど、実際に高校生や大学生が実際に地方づくりに関わることで、愛着や主体性が育まれる。
ローカルプロジェクトやマイプロジェクトを“子どもたちが実践できるような場を作る”という視点が二つ目ですね。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
さらに、実践してより地方に対しての思いを強めていくんですね!
石井 重成准教授にインタビュー⑤:学生に行動してほしいこと・自分への向き合い方
心の温度が上がった時に、その気持ちに素直に従って小さくても一歩踏みだす
「就活の教科書」編集部小林
自発的な行動やマインドを育てるために、まず始められることはありますか?
それは学生とその教育をする側がどうあるべきか、その両方の視点が大切です。
まず学生目線で言うと、『心の温度が上がったら、従った方がいい』ということですね。
人は何かに心が動かされた瞬間、その気持ちに素直に従って小さくても一歩踏み出すことが、人生を大きく変えるきっかけになる。
たとえば興味を持った人に連絡してみる、イベントに参加してみる——そうした行動の積み重ねが大切です。
一方で、今の学校は生徒をコントロールようとしすぎており、本来は出席を強制するのではなく「来たい」と思う人が主体的に関われる環境づくりこそが重要だと考えています。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
“心の温度に従って行動する”というのはとても素敵な言葉ですね!
自分を対等な存在として扱ってくれる大人と一緒にいる
また、“大人”として扱ってくれる環境を選ぶことも大事になってきます。
企業の人事の戦略で、社員一人一人に様々な権限を一任するというものがあります。
これは社員を大人として扱うという戦略で、コントロールするのではなくコンテクストでマネージメントするというのがその企業での文化になってきます。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
一人一人自由に任せても、なんだかんだうまくいったという経験は確かにあります!
これは学生目線でも、『自分を子供扱いしてくる大人ではなく、自分を対等な大人として接してくれる人』と一緒にいたらいいんじゃないかなと思います。
これをゼミなどを選ぶ際の“信頼できるか”という視点にしてもいいと思います。
青森大学 石井重成准教授
誰かの作ったレールの上から、自分だけのレールへ
「就活の教科書」編集部小林
自分の環境を選ぶという時、企業選びだったりキャリアを考えるときにはどのように選んだらいいんでしょうか?
僕自身の経験からもそうだったんですが、被災地に来る前はみんながいいと言っているものをいいと思っていたし、誰かの作ったレールの上でしか意思決定してこなかったんですよね。
“自分の人生を自分で決めた”と初めて心から思えたのは、誰も友達のいない被災地に引っ越すという決断でした。
そこから僕はもう人と比べることが全くなくなったし、比較対象もいないので極めて心も健全になりました。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
人と比べてばかりだとなかなか進めないから、いっそ自分で決断して“自分だけの道”を作ってしまえばいいんですね!
自分の中で軸をどこに置くか
今は、大きめの会社に入ることや公務員になるとかのいわゆる“安定したキャリア”と“異なるキャリア”というのは両方見聞きするじゃないですか。
誰しも、「自分らしい自分の生き方をしたい」と思ってるわけです。
これはゼロか100かの話じゃなくて、その異なる生き方と安定した生き方の“どこのグラデーションに自分のキャリアの軸を置くか”という視点は大事だと思います。
またそれは人生の中で「こっちに寄せる、あっちに寄せる」という移動があっていいと思います。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
「自分の軸を決める」といって一点に固定してしまうんじゃなくて、自分の好きなところにどんどん移動させていっても良いんですね!
もちろん、むしろ一点どころか軸をどんどんピポットしていった方がいいと思います。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
自分の中の軸を、移動させてもいいし、どんどん足していったらいいんですね!
石井 重成准教授から学生へのメッセージ:「やりたいことは見つけるものじゃなくて見つかるもの」
「就活の教科書」編集部小林
素敵なお話をたくさんありがとうございました。
最後に、学生へのメッセージをお願いします!
“たまたま見つかる”という偶然を引き寄せていくために:心の温度に従って一歩踏み出す
「やりたいことがわからない」という問題を皆さん抱えていると思うんですが、“やりたいことは見つけるものじゃなくて見つかるもの”だと思っています。
それが20歳で見つかる人もいれば、30歳、40歳で見つかるかもしれない。
だとしたら今、見つかっていないことに対して不安になる必要はないと思っています。
でも、結果として“たまたま見つかる”という偶然を引き寄せていくためには、それなりに戦略は必要です。
一つ目に先ほどもお伝えしたように、『心の温度に従う』こと。
自分がピンと来たもの・いいなと思ったものに対して、それを心に留めておくだけじゃなくてとにかくどれだけ小さくてもいいから一歩踏み出してみる、自分からコンタクトを取ってみることが大事です。
青森大学 石井重成准教授
“謝る勇気”と“チャーム”を磨く
二つ目に、大事なことは『謝る勇気』です。
歳を重ねれば重ねるほど不思議と人って謝れなくなっていく、だからこそ“謝れる人”って最強なんですよ。
あと社会ですごく重要なのが“チャーム”、愛嬌です。
同じことを言っていても“チャーム”がある人とない人で言うのには、ものすごく違いますから。
青森大学 石井重成准教授
「就活の教科書」編集部小林
前に進んでいくために、私も少しずつでも磨いていこうと思います!
石井准教授、本日は貴重なお話を本当にありがとうございました!