「就活の教科書」編集部 野口

南 了太(Ryota Minami)
京都精華大学 人文学部 准教授・博士(技術・革新的経営)
2003年同志社大学経済学部卒業後、同大学大学院文学研究科社会学専攻へ進学。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)に入構し、同志社大学リエゾンオフィスへ出向。その後、京都産業大学や宝塚大学での事務職員、金沢大学TLO、京都大学での産学連携業務など、6度の転職を経験。2020年より京都精華大学にて教鞭を執り、PBL(課題解決型学習)教育の推進に尽力している。
目次
京都精華大学 南了太先生にインタビュー①:産学連携の魅力とPBL教育がもたらす学生の成長
6度の転職を経て見つけた、産学連携という「ブルーオーシャン」
── 本日はよろしくお願いいたします。まずは、南先生のこれまでのご経歴についてお伺いできますでしょうか。
南先生: 大学院修了後、恩師の助言でNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)に入り産学連携の道へ進みました。任期満了後は生活の安定を求め京都産業大の事務職に転職しましたが、情熱を捨てきれず金沢大TLOへ移籍。しかし技術移転の収益化に苦戦し、リストラという大きな挫折も経験しました。
── そこからどのように現在のポジションへ繋がっていったのでしょうか?
南先生: 宝塚大の事務職を経て、文系知識を活かした新規事業創出のために京都大から声をかけていただき、約10年間産学連携に携わりました。その後、PBL(課題解決型学習)教育の全学的推進を担う形で、2020年に京都精華大学の教員に着任しました。気がつけば6回も職場を変えてきました。
1社ではできないことを実現する「産学連携」の醍醐味
── 大学院修了後、産学連携の道に進まれていますが、どのような点に魅力を感じられたのでしょうか。
南先生: 最初から強い関心があったわけではないのですが、日頃から「大学の研究をもっと社会に展開する方法はないか」と考えていたのです。そのひとつのツールとして産学連携や地域連携があると感じ、実際にやってみたら面白くてのめり込んでしまったという感覚です。
当時は、企業が1社単独で物事を完結させるのが一般的な時代でした。しかし、大学と複数の企業が関わることで多様な相乗効果が生まれ、自分たちだけでは到底できないような大きなプロジェクトが実現できることが面白かったですね。
また、それまで研究室にこもりがちだった大学の先生方が社会と接点を持つことで、その研究が広く理解され、社会的な価値を持って活躍していく姿を見るのも、大きなやりがいでした。
PBL教育を通じて、学生は「他者への想像力」を獲得する
── 現在は京都精華大学でPBL教育を推進されています。どのようなプロジェクトを実施されているのでしょうか。
南先生: 2020年の着任当初は部門長としてプログラム全体を設計しました。大学には約4000人の学生がいますが、卒業までに全員が必修で2回PBLを受講するという大規模な構想を立て、年間50ほどのプロジェクトを立ち上げて約700人の学生が参加する仕組みを作りました。現在は、私自身が年間5、6件のプロジェクトを担当しています。
連携先は多様で、東急不動産やダスキンのような大手企業をはじめ、京都の老舗であるお香の松栄堂、さらにはスタートアップ企業や地域団体など、幅広い組織と協働しています。
── 異なる文化や価値観を持つ社会人と連携する中で、学生はどのような壁にぶつかり、成長していくのでしょうか。
南先生: 学生にとって、同級生以外の異なる立場の人たちと連携してプロジェクトを進めるのは初めての経験です。そのため、最初は次の3つの壁に直面することが多いですね。
- 生活態度・姿勢の壁
遅刻、納期遅れ、モチベーションの継続、マナー不足。座学なら「自分だけの責任」で済むが、プロジェクトではすぐに浮き彫りになる。 - 能力・思考の枠の壁
持っている知識をうまく活用できない。「自由に考えていい」と言われても、既存の枠にはまった発想から抜け出せない。 - コミュニケーション・チーム意識の壁
相手の言っている意図を正確に汲み取れない。チームや他者のために動くという意識が希薄。
── その壁を、学生たちはどう乗り越えていくのですか。
南先生: 時間を重ね、社会人と生身で接していくうちに、少しずつ意識が変わっていきます。最初は自分のことしか考えていなかった学生が、「相手も自分たちのために貴重な時間を割いてくれているんだ」と認識するようになります。時間の持つ価値に気づくと、自然と遅刻がなくなり、約束を守るようになっていくのです。
受講の前後で「社会人基礎力」の評価指標を計測しているのですが、多くの学生が確かな成長を実感しています。本を読んだり座学で話を聞いたりするよりも、社会の人たちと関わりながら疑似的な社会を経験できるPBLは、非常に高い教育効果があると感じています。
京都精華大学 南了太先生にインタビュー②:AI時代に輝く「文系の価値」とは
文系が社会に提供できる4つの強み
── 続いて、文系学生の就職やキャリアについてお伺いします。「理系の方が就活に有利なのではないか」と不安に感じる文系学生も多いですが、文系だからこそ社会に提供できる価値とは何だとお考えですか。
南先生: 大きく分けて4つのポイントがあると考えています。
- 人数の多さ(スケールメリット)
理系に比べて文系の学生ははるかに多い。社会に出た後も巨大な顧客層になり得るという事実は、ビジネスにおいて無視できない強み。 - 知識社会であること
技術だけが中心の社会ではなく、知識そのものが価値を生む時代。第三次産業が産業の大部分を占め、マーケティング・営業・事務・経営層の多くを文系出身者が担っている。 - 学問としての歴史の長さ
古代ギリシャから脈々と続く蓄積がある。AIが業務を代替して人類が暇になるほど、「人間とは何か」「社会とは何か」を問う人文系の知識が再び強く求められる。 - 統合的な視点とバーサタイル性
「よく分からないけれど現状を良くしたい」というふわっとした課題に言葉を与え、統合的な視点から提案できる。対象が技術ではなく「人」や「社会」だからこそ、応用範囲が広い。
── 3つ目の「歴史の長さ」は、AI時代だからこそという視点が新鮮ですね。
南先生: 近年、AIの普及によって文系の仕事がなくなるという論調もありますが、私は少し違う見方をしています。もしAIがあらゆる業務を代替して人類が暇になったら、人々は娯楽産業を発展させたり、自分自身を見つめ直す時間を増やしたりするでしょう。その時に必要になるのは、まさに人文系の知識です。
4つ目の「バーサタイル(Versatile:多才な、万能な)」という言葉もよく使います。理系のアプローチは、分からない部分を特定してピンポイントで解決することに長けている。一方で文系は、対象が「人」や「社会」であるからこそ、何にでも応用できる汎用性の高いアプローチが可能になるのです。
理系の前段階で活きる、人文社会系の産学連携
── 産学連携の分野でも、そうした文系の強みは活かされているのでしょうか。
南先生: これまでの産学連携は、共同研究や特許の技術移転、マッチングファンドの獲得など、理系分野が中心でした。しかし、人文社会系の知見は、もっと上流のプロセスで活かすことができます。
例えば、企業の取締役や自治体の委員として多様な視点から経営判断や政策に関与すること。また、私が京都大学にいた頃の事例ですが、「新しい空気の価値を定義したい」という企業の要望に対して、文系の視点を取り入れて概念を構築するといったこともありました。他にもマーケティング調査において、大学の研究者視点での分析が求められるケースも増えています。
このように、理系が具体的な技術開発に入る前の「そもそも人間は何を求めているのか」「社会にどういう価値を提案すべきか」を考える段階で、人文社会系は非常に役に立つのです。これまでは内向きな学術的評価に偏りがちでしたが、もっと社会や人と向き合い、知識を活用する方法を考えていけば、さらなる発展が見込めます。
京都精華大学 南了太先生にインタビュー③:企業目線で語る就活とキャリア戦略
自分の経験を「企業仕様の言語」に翻訳する
── 就活生が面接などで自分の研究や学生時代の経験をアピールする際、より魅力的に伝えるためのアドバイスはありますか。
南先生: どこの企業にも、採用活動において「こういう人物に来てほしい」という明確な求める人物像があります。まずは、自分の経験や学んできたことを、その人物像にしっかりとシンクロさせることが重要です。
そしてもう一つ大切なのは、「言語を企業仕様に変える(編集する)」ということです。面接官は社会人であり、企業という組織の論理で評価を行います。ですから、学生言葉のまま伝えるのではなく、相手がイメージしやすい言葉に変換する必要があります。
例えば、「部活動でキャプテンを務め、学生生活を有意義に過ごしました」とそのまま伝えるのではなく、「部活動でキャプテンとしてチームをまとめた経験は、御社で求められるリーダーシップやチームビルディングにこのように貢献できます」というように、自分の経験を企業の利益や業務にどう結びつけられるかまで語るのです。相手の目線に立って自分の経験を編集する力が求められます。
理想と現実のギャップ(社会問題)に価値を見出す
── 先生ご自身は6度の転職を経験されていますが、職場を変えることに不安はありませんでしたか。
南先生: 最初はもちろん不安もありましたが、何度か経験するうちに慣れてきたというのが正直なところです。転職やキャリア構築において不安を解消するひとつの手立てとして、「社会問題に関する裏付け」を持つことが挙げられます。
問題というのは、「理想」と「現実」のギャップ(差分)のことです。その差分を埋めるアクションには、間違いなく社会的な価値が生まれます。
私のキャリアで言えば、世間の産学連携が理系ばかりに注目している中で、あえて「人文社会系の産学連携」を追求しました。また、大学教員の多くが「手間がかかって面倒だ」と敬遠しがちなPBL教育に正面から取り組みました。誰も手をつけていないけれど、社会から確実に求められている領域、いわゆる「ブルーオーシャン」を狙ってきたからこそ、独自のポジションを築き、生活の糧を得ることができたのだと思います。
事例を作り、発信することで第一人者になる
── 人と同じことをするのではなく、ニッチな領域や人が避ける領域を狙うという戦略ですね。
南先生: その通りです。転職市場においても、他人に負けない「何か」を持っていなければ、企業は採用してくれません。それが何なのかを見極めることが非常に重要です。
そして、自分が狙いを定めた領域で、賛同者を集め、自ら率先して事例を作り、それを外に向けて発信していく。これを続けていけば、その分野で頭一つ抜けた存在になれます。そうした実績と専門性を持つことが、キャリアに対する不安を取り除く最大の武器になります。
京都精華大学 南了太先生にインタビュー④:不確実な時代を生き抜くための「理論化」
スキルは陳腐化する。だからこそ大学院で「理論化」する
── 変化の激しい現代において、自分に合った仕事を見定めたり、入社後に活躍し続けたりするために、やっておくべきことは何でしょうか。
南先生: 今の時代は職業選択の自由があり、転職するのも残るのも個人の自由です。自分で選んだ場所が必ずしも上手くいくとは限りませんし、逆に、嫌々やっていた仕事が思いがけず花開くこともあります。
ただ一つ言えるのは、自分が現在持っているスキルは、どんなに優れていても、せいぜい3年以内には陳腐化してしまうということです。テクノロジーの進化がこれだけ速い時代においては、常に自分自身をアップデートし続けなければなりません。
そのための具体的な方法として、私は所属している組織から一歩外に出て、多様なコミュニティと付き合うことやリスキリングの一環として大学院に進学することをお勧めします。
── 大学院への進学ですか。具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
南先生: 大学院に進んで、自分が社会で実践している仕事を理論化し、体系化するのです。経験やノウハウを理論にまで昇華させておくと、世の中に溢れる表面的な情報に振り回されなくなります。
例えば、「AIが流行っている」「DXが不可欠だ」「文系の知識は不要になる」といったニュースが日々飛び交っていますが、しっかりとした理論の軸を持っていれば、「あ、これは過去のあの現象と同じ構造だな」と冷静に俯瞰することができます。理論は、長期的なキャリアを支える強力な基盤になるのです。昔に比べて社会人の大学院進学もハードルが下がっているので、コストパフォーマンスの高い自己投資だと思います。
読書・旅・人との交わりで自分を更新し続ける
── 最後に、就職活動や将来のキャリアに悩む学生に向けて、メッセージをお願いいたします。
南先生: 先行きが見えない不確実性の時代に迷いを少なくするための方法として、島崎藤村が言ったとされる「三智(さんち)」という言葉があります。それは「学んで得る智(読書)」「みずからの体験によって得る智(旅)」「人と交わって得る智」の3つです。
忙しい日々の中でも、本を読み、旅に出て日常から離れ、様々な人と交流する。これら3つの行動を通じて、常に自分の考え方やスキルを更新し続けてください。人間が成長するための要素は、概ねこの3つに集約されると考えています。
そして何よりも大切なのは、よく寝て、よく食べて、心身の健康を維持することです。どれだけ優れたスキルや知識があっても、健康でなければ力を発揮することはできません。就活など迷うことも多いと思いますが、この基本を忘れずに、自分らしいキャリアを歩んでいってほしいと願っています。
「就活の教科書」編集部 野口

