「就活の教科書」編集部小林
こんにちは!「就活の教科書」取材チームの小林です。
本日は、社会心理学の研究をされている大阪商業大学の西川一二先生にお話を伺いました!
この記事を読めば、「好奇心」や「Grit」について知ることができます。
「好奇心ってなんなんだろう?」や「好奇心って活かせるのかな…?」などの悩みがある人は必見です!
「就活の教科書」編集部小林
西川先生、本日はよろしくお願いします!
よろしくお願いします。
大阪商業大学 西川一二先生
西川 一二(にしかわ・かずじ)
大阪商業大学 総合経営学部 商学科 専任講師
パーソナリティ特性の個人差研究をテーマに、パーソナリティ特性の発達過程での社会(環境)適応を研究。
「好奇心」と「Grit」の概念を専門とし、社会関係・学習行動・精神的健康との関連を研究。
目次
西川一二先生にインタビュー①:「好奇心」とは?
「就活の教科書」編集部小林
西川先生は、心理学の「好奇心」について研究されているそうですが、研究内容について具体的に教えてください!
現在は、「好奇心」や「Grit(やり抜く力)」を測定するテスト(尺度)を開発し、個人の好奇心やグリットの高さが人間関係・学習態度・仕事のモチベーションなどにどのように影響するかを研究しています。
大阪商業大学 西川一二先生
好奇心:あらゆる活動の源
「就活の教科書」編集部小林
あまりしっかりと考えたことがなかったんですが、「好奇心」とは心理学的には何なのでしょうか?
心理学では、好奇心はあらゆる活動の源とされており、単に学びや教育に限られたものではなく、もっと根源的な人間の動機(動因)と捉えられています。
たとえば「何かを食べたい」「何かを知りたい」といった基本的な欲求の背景にも好奇心があり、それが経験や体験を通じて「学びたいこと」「働きたいこと」などへと広がっていきます。
大阪商業大学 西川一二先生
「就活の教科書」編集部小林
私が考える好奇心というものは一時的や突発的なものだと思っているんですが、実際はどうなんでしょうか?
好奇心には、性格として安定して現れる「トレイト(特性)」的な側面と、状況に応じて一時的に現れる「ステート(状態)」的な側面の両方があります。
これまで私は、常に新しいものに関心を持つような「トレイト(特性)」としての好奇心を研究してきました。
たとえば、新商品が出たらすぐに試すような人がどんな性質を持つかといったものです。
大阪商業大学 西川一二先生
「就活の教科書」編集部小林
常に新しいものに興味があるような人っていうのは、好奇心が性格として現れているんですね!
生存本能を超えて「知りたい」「やりたい」に没頭させる力を持つ
「就活の教科書」編集部小林
好奇心というものは、人間のどういうところから生まれてくるんでしょうか?
好奇心は、人間にとって根源的な動機の一つであり、報酬や生存欲求に直接関係しないにもかかわらず、私たちの行動を強く駆動します。
心理学者パンクセプはこの原型を哺乳類に共通した感情の一つの「シーキング(SEEKING)」と呼び、餌、パートナー、職業、学問などあらゆる探索行動の起点にあるとしています。
シーキングは、空腹や危険などの状況下でも生じ、他の基本感情(恐怖、怒り、遊びなど)とは異なり、生存本能を超えて「知りたい」「やりたい」に没頭させる力を持つとされます。
大阪商業大学 西川一二先生
「就活の教科書」編集部小林
好奇心は生存本能を越えるんですね…!
このシーキングが人それぞれ異なる対象に向かい、そこからキャリアパスや学びがい、生きがいにつながる過程を明らかにすることが、現在の研究の目的です。
大阪商業大学 西川一二先生
「知的好奇心」と「知覚的好奇心」と「対人的好奇心」
好奇心は「見たい・知りたい」という根源的な欲求から始まりますが、その方向性は人によって異なり、良い方向にも悪い方向にも進む可能性があります。
その分岐点をどう進むかが、いわばその人のキャリアパスや人生の方向につながるのです。
好奇心にはいくつかの基本的な領域があり、大きく分けて3つに分類できます。
1つは「知的好奇心」で問題解決や論理的思考を通じて「なぜ?どうして?」を考えることに興味を持つタイプです。
たとえばパズルや謎解きが好きな人のことです。
2つ目は「知覚的好奇心」で刺激的な体験や感覚への関心で、キラキラしたものが好き、スカイダイビングや絶叫系が好きといった、体験を通じて得る好奇心のことです。
3つ目は「対人的好奇心」で他人の気持ちや考え、内面を知りたいという興味で、ゴシップやスキャンダルに惹かれることもこの一種です。
これらはいずれも「知りたい・体験したい」という点では共通していますが、関心の向かう先や性質は大きく異なります。
大阪商業大学 西川一二先生
「就活の教科書」編集部小林
好奇心と一言で言っても、さまざまな種類があるんですね!
西川一二先生にインタビュー②:「好奇心」をどう活かすか
好奇心の“方向付け”
「就活の教科書」編集部小林
好奇心がキャリアパスや学びがい、生きがいにつながるということは具体的にどういうことなんでしょうか?
好奇心には「知的」「知覚的」「対人的」といった異なる領域があり、これらは心理テスト(尺度)を使った個人差研究によって明確に分離できることが分かってきました。
現在は、特に知的好奇心や対人的好奇心が、学業における「学びがい」や社会人の「モチベーション」とどのようにつながるのかを探っています。
学校現場では「学生に好奇心がない」と言われがちですが、実際には好奇心が存在していないわけではありません。
ただ、それが授業や学業といった場面にうまく方向づけられていないだけで、たとえば趣味やゲーム、部活動などには強い好奇心が向けられていることもあります。
重要なのは、その好奇心をいかに学びや仕事と結びつけていくかという「方向付け」です。
この方向付けの在り方を明らかにすることで、好奇心がどのようにキャリア形成や中長期的な成長に関与するのかを解明していくことが、現在の研究テーマになっています。
大阪商業大学 西川一二先生
「就活の教科書」編集部小林
どう方向付けするかによって、好奇心を活かすことができるんですね!
主体的に動ける環境があると、“好奇心”が自然と現在の活動に向かいやすくなる
「就活の教科書」編集部小林
好奇心をキャリアや仕事へのやりがいへ結びつけるには、どのようにしたらいいんでしょうか?
一つの考え方として『自己効力感』というものがあります。
「できた」「やり切った」という経験によって高まるのが自己効力感であり、これは仕事や学びのモチベーションに深く関わっています。
また、「自分で決めて取り組めているかどうか」といった自己決定感も重要です。
やらされているのではなく自分から主体的に動ける環境があると、好奇心が自然と現在の活動に向かいやすくなり、より面白さや意欲が感じられるようになります。
大阪商業大学 西川一二先生
「就活の教科書」編集部小林
好奇心は自己効力感や自己決定感とも関わりがあるのですね!
好奇心との付き合い方
「就活の教科書」編集部小林
「好奇心だけで動くのは良くないかな…」と思ってしまうことがあるんですが、どこまで好奇心に任せてしまってもいいんでしょうか…?
好奇心というのは、度が過ぎると“逸脱行動”になってしまいます。
自分の「やりたい」が強くなると、周囲とズレが生じることもあり、ときには失敗につながることもあります。
ただ、そうした経験を通して、自分の「出していい部分」「抑えるべき部分」を学んでいくことが大切です。
特に大学生のうちは、好奇心はむしろ積極的に出した方がいい。抑え込んでしまうのはもったいないと感じています。
大阪商業大学 西川一二先生
「就活の教科書」編集部小林
失敗経験を通して、「どのくらい好奇心を出していいのか」ということを学んでいけばいいんですね!
大学生や新入社員のうちはまだ失敗が許されやすい環境にあるため、好奇心を表現しやすい時期だと言えます。
一方で、キャリアが進むにつれ、環境によっては失敗が許されにくくなる場合もあり、好奇心の出し方に注意が必要になることもあります。
大阪商業大学 西川一二先生
「就活の教科書」編集部小林
さまざまな経験を経て、好奇心とうまく向き合っていけるようになるといいんですね!
西川一二先生にインタビュー③:「Grit」とは?
Grit:やり抜く力
「就活の教科書」編集部小林
西川さんは、好奇心に加えて「Grit」に関しても研究していらっしゃるということですが、「Grit」とはなんでしょうか?
「Grit」とはやり抜く力や不屈の精神といったもので、長期的な目標を達成するための情熱と粘り強さのような性質のことです。
大阪商業大学 西川一二先生
「就活の教科書」編集部小林
「Grit」という性質は、大小関わらずみんな持っているものなんでしょうか?
その通りです。
Gritは性格特性の一つであり、高い低いが良い悪いという話ではありません。
他のパーソナリティ、例えば好奇心などと組み合わさって働くため、Grit単体で人の良し悪しや成果を判断できるものではないという考えです。
大阪商業大学 西川一二先生
「就活の教科書」編集部小林
Gritは好奇心とも関係が深いのですね!
目標設定し、「どの目標を貫くか」を見極める
「就活の教科書」編集部小林
Gritは“やり抜く力”ということで、人生において大事な精神のようなものだと思うんですが、就職活動などの人生の局面でどのように影響するのでしょうか?
Gritは「失敗しても挫けない強さ」を持つ特性です。しかし、その力を就職活動などでどう活かすかは難しい面もあります。そこで重要になるのが、目標設定です。
Gritを高めたり維持したりするには、「諦めてはいけない目標」と「諦めてもよい目標」を見極めることが大切です。
人生やキャリアにとって重要な目標には粘り強く取り組むべきですが、そうでない目標にまで固執してしまうと、柔軟性が欠けてしまい、かえって非効率になってしまう場合があります。
大阪商業大学 西川一二先生
「就活の教科書」編集部小林
「失敗しても挫けない」という性質ですが、ただ突き進むだけではなくどのように目標設定するかが重要なのですね。
大切なのは、「自分にとって本当に重要で簡単には諦めたくない目標」と、「場合によっては方向転換してもいい目標」を区別して持つこと。
もちろん、「絶対に変えてはいけない」というわけではなく、状況に応じて見直す柔軟さも必要です。
こうした目標の持ち方が、自分のGritの強さを効果的に活かすことにつながります。
大阪商業大学 西川一二先生
目標設定に具体性を持たせる
「就活の教科書」編集部小林
目標設定する際に、大切なことはありますか?
大切なのは、「自分にとって何が重要か」をしっかり見極めることです。
そして、その目標をぼんやりとした願望のままにせず、どのように達成するのか、どのくらい頑張るのかといった具体性を持たせることが大切です。
自主的な思いつきだけではすぐに気持ちが薄れてしまうので、時期・場所・期間などを明確にすることも、目標を実現するうえで有効です。対象は「人」でも「物」でも、自分の気持ちでもかまいません。
大阪商業大学 西川一二先生
「就活の教科書」編集部小林
期間を決めたら、頑張りやすそうですね!
働き方や働きたい場所に対する希望は多くの人が持っていると思いますし、「あの人と一緒に働きたい」といった対人的な要素が目標になることもあります。
ただし、目標の立て方に正解・不正解はなく、「こうでなければいけない」と限定する必要はありません。
大切なのは、自分にとって何が本当に重要かをじっくり吟味していくことです。
大阪商業大学 西川一二先生
「Grit」を高めるために
「就活の教科書」編集部小林
Gritを高めるためにできることはありますか?
好奇心にも精通するところがありますが、Gritを育てるうえで大切なのは、「やり切った経験」や「できた体験」を積み重ねていくことです。
そうした成功体験が、自己効力感を高め、次の挑戦へのモチベーションにもつながります。
職場や組織でも、社員がそうした経験を得られるような環境を整えることが重要です。
また、その経験を振り返る際には、遠慮せずに「自分が成し遂げたこと」をきちんと認め、自分自身を褒める姿勢も必要です。
特に日本人は、自分を過小評価しがちで、謙遜から「大したことはしていません」と言ってしまう傾向がありますが、内面的にはしっかり自分の努力や成果を認めることが成長につながります。
大阪商業大学 西川一二先生
「就活の教科書」編集部小林
小さなことからでも自分を認めてあげることが大事なんですね!
西川一二先生から学生へのメッセージ:「偶然の行動が、人生のターニングポイントになる」
「就活の教科書」編集部小林
好奇心やGritについて教えていただき、ありがとうございました!
最後に、学生へのメッセージをお願いします!
目標を持つことは大切ですが、「偶然を装う」こともキャリア形成において非常に重要です。
Gritを支えるには、自分なりの明確な目標を持ち、それを大切にすること、そして自分の努力をきちんと認める姿勢も大事です。
ただし、すべてを計画通りに進めるだけではなく、予想外の出来事や偶然の出会いに身を委ねてみることも大切です。
この部分は、キャリア心理学者のクランボルツの計画的偶発性に由来します。
たとえば、私自身も理系出身で心理学に進むつもりはなかったものの、たまたま参加した大学の説明会で興味を持ち、そこからキャリアが大きく動き始めました。
このように、「興味はなかったけど話を聞いてみた」「関係ないと思っていたが体験してみた」といった偶然の行動が、人生のターニングポイントになることがあります。
就活生に対しても、「目標を持つこと」と同じくらい、「偶然を装って動いてみること」の大切さを伝えたいです。
志望外の企業の説明会でも、少しでも面白そうと思ったら足を運んでみる。その一歩が、新たなキャリアの可能性を開くかもしれません。
大阪商業大学 西川一二先生
「就活の教科書」編集部小林
私も予想外の出来事に臆せず、行動していきたいと思います!
西川先生、本日は素敵なお話をたくさんありがとうございました!