「就活の教科書」編集部 野口

米倉 みどり(よねくら・みどり)
龍谷大学 政策学部 講師
民間企業において、事務職を含む多様な職務に携わり、正社員・非正規の両方の立場で実務を経験。実務の傍ら国家資格キャリアコンサルタントを取得し、ハローワークや大学の就職支援窓口で相談業務に従事。その後、大学院へ進学し、修士・博士課程を経て、2025年より現職。専門は組織行動論、人的資源管理論。特に転職経験者のキャリア形成やワーク・エンゲージメントを研究テーマとしている。
目次
龍谷大学 米倉みどり先生にインタビュー①:派遣社員から博士へ
氷河期世代、気づけば「転職を繰り返していた」
── 本日はよろしくお願いします。まずは、米倉先生のご経歴について教えてください。
米倉先生: 私は就職氷河期世代として社会に出て、当初は正社員として働いていました。その後、派遣社員として勤務するようになり、契約満了のたびに職場を移るなかで、結果として「転職を重ねる職歴」となりました。
転機は10年以上前、キャリアコンサルタントの資格を取ったことです。それを機にハローワークや大学の就職相談窓口で働くようになりました。 長らく非正規社員として現場経験を積んできましたが、年齢を重ねるにつれ、実務だけでは対応しきれない場面が増え、自身の知識不足という壁に直面しました。
── 国家資格のキャリアコンサルタントを持っていても、非正規雇用の職場も多いのですね。
米倉先生: 資格を持っていても、非正規の職場が多いです。大学を卒業していなかったこともあり、現場での経験をどう整理すればいいのか、考える場面が増えていました。周囲の勧めもあって、思い切って大学院へ進学しました。
修士課程を修了するタイミングで、恩師から短大の仕事の話を聞き、応募したのが教育業界に入ったきっかけです。その後、働きながら博士課程を修了し、ご縁があって今の龍谷大学に辿り着きました。
キャリアコンサルタントから「人的資本」の探求へ
── 専門分野の「経営学」や「組織行動論」を選択されたのには、何か理由があったのでしょうか。
米倉先生: キャリアコンサルタントとして、現場で働いていたことが大きいですね。相談業務を通じて「人のキャリア」に携わってきましたが、関心としては心理学や人的資本の領域に近いと感じていました。個人だけでなく、組織のなかで人をどう捉えるのかにも関心が広がっていきました。
「人を対象にする」分野を深く学びたいと考えたとき、ビジネススクールが目に留まりました。「経営学という枠組みの中で、人をどう捉えるか」という視点に面白さを感じたのが経営学に出会ったきっかけです。
── 現場での経験が、学問としての興味に繋がったのですね。
米倉先生: 経営学を学ぶ中で、単なる「人」の管理だけでなく、組織の中で人がどう考え、どう動くのかに興味を持ちました。そこに注目していくうちに、自然と現在の「組織行動論」が自分の研究テーマとして定まっていきました。
龍谷大学 米倉みどり先生にインタビュー②:「転職」と「働きがい」の相関関係
転職は「当たり前」になったけれど
── 現在は、転職や日本の雇用について研究されていると伺いました。
米倉先生: 日本の労働市場は長らく、「新卒一括採用」で入社し、「長期雇用」で守られるモデルが標準とされてきました。しかし、就職氷河期を経験した私は、どこか自分がその仕組みにマッチしていない、「標準から逸れてしまっている」という感覚をずっと持っていたんです。
── 氷河期世代として、社会のシステムと自分の現実が噛み合わないもどかしさがあったのですね。
米倉先生: 当時は自分の努力不足だと思っていましたが、研究者として冷静に背景を眺めてみると「なぜ自分たちは今、こういう働き方をしているのか?」という疑問が湧いてきたんです。世の中を見渡せば賃金の格差といった暗いニュースも目立ちますが、問題は経済的な側面だけではありません。
「これからの時代、どうすれば人はより良く働けるのか?」。その問いについて、研究を続けています。
転職経験者と生え抜き社員の比較
── 具体的には、どのような視点で研究を進められているのでしょうか。
米倉先生: 現在は、中途採用で入社した「転職経験者」と新卒から在籍し続ける「生え抜き社員」のキャリアの比較を研究しています。興味深いのは、どちらか一方が優れているわけではないという点です。転職者は外の世界を知っていることが強みですし、生え抜き社員には、その組織の文化を深く理解しているという強みがあります。
企業側からすれば、多額のコストをかけて採用した若手にすぐ辞められるのは大きな課題です。一方で、個人にとっては外の世界を見ることで得られる強みもあります。
「組織側はどうすれば定着してもらえるか」「個人側はどうすれば納得感を持って働けるか」。この両者の折り合いがつくポイントを、「ワーク・エンゲージメント」(働きがい)という観点から探っています。
20代は焦らなくていい。「ワーク・エンゲージメント」は年齢とともに高まる
米倉先生: ワーク・エンゲージメントとは、仕事に対して「活力」と「熱意」、そして「没頭」を感じている心理状態を指します。実は、この指標は年齢を重ねるにつれて高くなる傾向があるんです。
── 若手社会人は「仕事が楽しい」と思えなくても、悲観する必要はないのでしょうか。
米倉先生: その通りです。20代のうちはまだ経験が「点」の状態であり、自分の行動がどう成果に結びつくのか、全体像が見えにくい時期です。がむしゃらに知識を吸収し、任された役割を全うしていくうちに、やがてそれらが「線」として繋がります。
「自分の経験が価値に変わった」と実感できる瞬間が増えることで、エンゲージメントは自然と高まっていきます。若手の皆さんは今すぐ完璧な働きがいを求めるよりも、まずは目の前の仕事と向き合い、経験を積んでいってほしいですね。
龍谷大学 米倉みどり先生にインタビュー③:就活生へのアドバイス
「ここがいいや」と納得できる企業選びを
── 最後に、就活生や若手社会人にメッセージをお願いします。
米倉先生: 就職氷河期の時代に比べると、近年は行きたい企業に行きやすい環境ではあります。だからこそ「企業選び」が重要になっていると感じます。「どこでも受かりそうだから、ここでいいや」と妥協して企業を選んでしまうと、入社後に「何かが違う」と早期離職に繋がってしまいます。
「ここでいいや」ではなく、自分の中で納得して「ここがいいや」と言える場所をしっかり選び取ってほしいです。それが後悔しないキャリアの第一歩になると思います。
「やりたいこと」がなくて普通
米倉先生: 世の中には「やりたいことを見つけなさい」という大人が多いですよね。私は、それを一種の「やりたいことの呪い」だと思っています。
消防士や先生といった専門職を目指す人以外、最初から「この仕事がやりたい!」と明確に思っている人は、それほど多くないと思います。事務職や営業職を、子供の頃から具体的に熱望している人はあまり多くないですよね? やりたいことなんて、そんなにすぐに見つかるものではありません。見つかったらラッキーくらいの気持ちで良いのです。
「自分にもできそうかも」と思える仕事を見つける
米倉先生: 「これなら自分にもできそうかも」と思えるものを見つけてほしいです。 人にはそれぞれ得意や不得意なことがあります。例えば、自分の性格に合わない仕事を無理に選ぶと、しんどく感じてしまいますよね。なので、自分にできそうな仕事からスタートして、後からやりがいを見つけていけば良いと思います。
変化の激しい今の世の中で、20年先なんて誰にもわかりません。でも同時に、どんな経験が将来どこで役立つかも、その時点ではわからないものです。だからこそ、「自分の少し先の将来」を見据えながら、目の前の仕事で経験を積んでいってほしいと思います。 給料や福利厚生といった条件だけで飛びつくのではなく、「その仕事は自分の適性に合っているか?」という判断基準をしっかり持って、一歩を踏み出してください。
「就活の教科書」編集部 野口
米倉先生、ありがとうございました。無理に自分を型にはめようとせず、「できそうなことからキャリアを始めていいんだ」と勇気づけられるお話でした。

