「就活の教科書」編集部チェスンウ
こんにちは!「就活の教科書」取材チームのチェです。
本日は、千葉科学大学の小西一禎教授にお話を伺いました!
小西教授、本日はよろしくお願いします。
よろしくお願いします。
小西一禎教授
小西 一禎(こにし・かずよし)
千葉科学大学 危機管理学部 危機管理学科 教授
1996年に慶應義塾大学卒業後、共同通信社入社。政治部記者時代の2017年、配偶者の米国赴任に伴い、会社の休職制度を男性で初活用。駐在員の夫=「駐夫(ちゅうおっと)」を新語として生み出す。「世界に広がる駐夫・主夫友の会」(メンバー220人超)代表。「男も女もラクに生きられる社会」の実現を目指し、男性目線から捉えたジェンダー関連の記事執筆・メディア出演・講演・社会貢献活動など多数。2025年春より、現職。専門はジェンダー・男女共同参画、キャリアデザイン、メディア、時事問題(現代政治など)等。修士(政策学)。国家資格キャリアコンサルタントとしての相談実績多数。
著書に『妻に稼がれる夫のジレンマー共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)など。
目次
千葉科学大学 小西一禎教授にインタビュー①:キャリア=仕事ではなく「人生そのもの」
キャリアの定義:人生そのもの
「就活の教科書」編集部チェスンウ
小西先生は、多岐にわたって活動されていますが、現在取り組んでいるテーマについて教えてください!
現在の私の専門分野は、ジェンダー、男女共同参画、キャリアデザイン、メディア、そしてジャーナリズムなどです。
また、キャリアコンサルタントの国家資格も保有しております。
小西一禎教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
小西先生にとって、キャリアとはどのようなものでしょうか?
日本では『キャリア』という言葉が誤解されがちです。
私はキャリアとは仕事だけではなく、ライフストーリーそのものだと考えています。
すなわち「人生そのもの」です。
小西一禎教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
キャリアとは仕事に関わることだとばかり思っていました…
仕事もキャリアの一部ですが、一言で言えばキャリアとは人生のすべて、ロングライフストーリーなのです。
私は共同通信社で長年働いてきましたが、配偶者の米国赴任に伴い会社を休職し、その後当時想定していなかった大学教授へと転じました。
この期間、仕事という狭義のキャリアは中断しましたが、人生としてのキャリアは中断していません。
人生は続くものですから、当然です。
この経験を通じて、キャリアとは良い意味で計画通りにいかないものだと確信しました。
小西一禎教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
キャリアは計画というイメージでしたが、思い通りには行かないものなのですね!
計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)とは?
キャリアは、予期せぬ出来事に直面した際、それをどう受け止め、どう解釈し、いかに良い形で生かすかが重要です。
多忙な政治記者時代は、家事・育児を妻に任せ、自分のキャリアは単線・片道・全速力で駆け抜けるものだと思っていました。
しかし、アメリカで現地の働き方や家族との関わり方を見たり、転職やキャリアブレイクを経験する上で考えが変わりました。
小西一禎教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
どのように考えが変わったのでしょうか?
キャリアは「複々線・往復型であり、途中下車や立ち止まって考える期間があっても全く問題ない」と変化しました。
キャリアコンサルタントの勉強をしていた際に出会った、クランボルツ氏の提唱する『計画的偶発性理論』(Planned Happenstance Theory)が、私自身の経験をまさに裏付けています。
この理論を簡単に説明すると、複雑な現代社会では、予期せぬ出来事や出会いが必ず生じます。
それらによってもたらされるチャンスこそが、個人のキャリアを決定するという考え方です。
個人のキャリアは、本人が思っている以上に偶然の出来事に左右されますが、その偶然を悪い方向ではなく、望ましい方向に活かしていくこと、つまり、予期せぬ出来事をチャンスへと繋いでいくことを提唱している理論です。
『偶発性』という言葉から偶然を連想させますが、これは『計画された偶然』なのです。
小西一禎教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
予期せぬ出来事や出会いを、チャンスに変えて好機へと繋げていくのですね!
キャリアは家族との「共同形成」である
また、記者として多忙な時代は、キャリアとは仕事に限定されるものだと考えていました。
共働きの妻や子どもがいるにもかかわらず、自分一人で作り上げるものだと思っていたのです。
しかし渡米して以降、キャリアは家族と一体となって共同で形成していくものだということに気づきました。
私自身はこれを『キャリアの共同形成』と呼んでいます。
キャリアは自分一人で組み立てられるものではありませんし、一人で組み立てようとすると、むしろ良い結果にならないことが多いのです。
なぜなら、生まれた瞬間から人間にはキャリアがあり、子どもにもキャリアがあるからです。
このように、理論で学んだ計画的偶発性が自分自身の身に起こっただけでなく、キャリアという言葉の捉え方が、『一人でやるもの』から『家族みんなで共同でやるもの』へと大きく変わったのです。
小西一禎教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
小西先生の経験の中で、“キャリア”という意味が大きく変化してきたのですね!
千葉科学大学 小西一禎教授にインタビュー②:納得のいくキャリアを築くために
深い自己分析による自身の“OS”の理解
「就活の教科書」編集部チェスンウ
学生がこれからのキャリアを納得できる“いいキャリア”にするために、大切なことはありますか?
先ほど話したクランボルツの計画的偶発性理論を頭に入れておくと良いです。
予期せぬ出来事が起きたとしても、『そういうものだ』と受け止め、それをチャンスとして捉えることができるようになります。
次に自分の基準、いわば自身のOS(オペレーティングシステム)を深く知ることです。
つまり、自分自身を逃げずにしっかり見つめることです。
就職活動前に自己分析を行うと思いますが、さらに深く掘り下げてほしいのです。
見たくない自分が見つかるかもしれませんが、そこから逃げずに向き合えば、必ずその先に良い結果が待っています。
そして、自分が『どうありたいか』という理想像を明確に描くことが大切です。
理想像を明確にした上で、業界や職種、仕事内容を選ぶという逆転の発想で考えてみてください。
そうすることで、『何がやりたいか』『やりたくないことは何か』『大事にしたいものは何か』といった要素が浮き彫りになり、自身のありたい姿をより高解像度で把握できるようになります。
小西一禎教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
自己分析では、自分の良いところを探そうとしてしまいますが、自分の嫌なところも含めてしっかりと向き合う必要があるのですね。
「ガクチカ」の評価軸は採用側にある
また、学生時代に頑張ったこと(ガクチカ)については、人為的に作るのではなく、自然にできたものを語るべきです。
その方が、実際に面接で話した際に言葉に気持ちが乗り、説得力が生まれます。
過去を振り返ってみて、『何もやっていない』と思うのではなく、『実はあれもガクチカだったのではないか』と気づくような経験はあるはずです。無理にガクチカを作ろうとすると、言葉に魂が宿らず、熱意が伝わりません。
インターンシップや留学、ボランティアといったスーパーガクチカと呼ばれる経験も良いですが、些細な経験であっても、そこに独自性があれば、強く響くことが多いのです。
王道ではなく、少し違った側面を語る方が、面接官に強い印象を与えることができるでしょう。
小西一禎教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
周りが留学や起業などのスーパーガクチカで焦ってしまっていました…
自分のガクチカを、留学や起業といった派手な経験を持つ周りの学生と比較して、落ち込んでしまう気持ちはよく理解できます。
しかし、その経験の価値や優劣を決めるのはあなたではなく、採用する側です。
何がすごいかという判断は社会人が行うものですから、自分の経験について卑屈になる必要は全くありません。
学生がつまらないと考えているガクチカでも、実社会では評価され、面白がられることは多々あります。
小西一禎教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
確かに、自分だけで「つまらない」と判断してしまっていました…!
学生の知らない広い社会の価値観
学生が認識している世の中は、全体を100とした場合、せいぜい10%程度に過ぎません。
皆さんはまだ若く社会に出ていないため、この狭い価値観の枠内で生きているわけです。
しかし、残りの90%には、あなたが全く知らない社会や価値観、そして異なる判断基準や価値基準が存在しています。
他者と比べてしまう気持ちは理解できますが、比較はキリがありません。
自分の経験を『大したことない』と捉えてしまうと、面接で自信なく答えることになります。
そうではなく、自分のやったことはすごいことだと堂々と自信を持つことで、言葉も声も力強くなり、面接官に強い印象、すなわちインパクトを与えることができるのです。
小西一禎教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
自分が知っていることだけで判断してしまうのは、残りの90%を無視していたのですね…
千葉科学大学 小西一禎教授にインタビュー③:就活における3つの重要な視点
他人と比べない「自己確立」と「軸」を持つ
「就活の教科書」編集部チェスンウ
企業が欲しいと思うような学生はどのような人なのでしょうか?
最も重要だと考えるのは、確固たる自己、すなわち核と軸がしっかり確立している人です。
その核があって初めて、周囲に他者が相対的に存在するという形で自分を主体的・主観的に捉えることができます。
要するに、他人は他人、自分は自分であるということをはっきりと区別できる人が望ましいのです。
人と比較してしまう人は、精神的に不安定になりやすく、チームプレーが求められる場では、『自分だけ手柄を取りたい』と考えたり、他人の成功を邪魔したりしがちです。
小西一禎教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
人と比べてばかりの人は、自分だけでなく、他人の足までも引っ張ってしまうのですね…
しかし、確固たる自己が確立していれば、決してそうはなりません。他人の成功を心の底から喜ぶことができます。
そして、自分の周りには、他人の成功を喜べる、同じような人々が集まってくるものです。
他人の成功を自分が喜び、自分が成功した時には他人が喜んでくれる。そのような相互関係が成り立つ人に成長するでしょう。
小西一禎教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
自己を確立するためにも、自己分析で自分としっかりと向き合うことが大切ですね!
学生という特権は、様々な人に会える絶好のチャンス
また、学生が一人で考えるには限界があります。
この時期は、大学の教職員、バイト先、親族など、人生の先輩達(社会人)に会い、話を聞くことが非常に重要です。
彼らの経験に触れることで、自分の業界観やキャリア観が変わる可能性があります。
学生という特権は、様々な人に会える絶好のチャンスです。
このチャンスを生かすためには、臆せず、主体的に他人を活用する姿勢が大切です。
また、友人を他己分析のツールとして活用し、他者から見た自分をありのままに受け止めることも、自己の確立に繋がります。
小西一禎教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
「自立しなきゃ」と他人を頼ってばかりではよくないのかなと思っていました…
これは他人に頼るということではなく、自分から主体的に会いに行く努力です。
言葉は悪いかもしれませんが、他人を『使う』『活用する』という姿勢が非常に大事です。一人で抱え込んでも良いことはありません。
大学生という時期は、もっと言えば、自分は『何もできない存在だ』と思った方がいいかもしれません。
だからこそ、就職活動は、色々な人に会える絶好のチャンスなのです。
学生という特権があれば、どんな人にも会おうとすれば会え、話を聞いてもらうことができます。
これは普通の仕事ではなかなか得られない機会です。
ほとんどの学生にとって、最初で最後かもしれないこのチャンスを、生かすかは自分次第です。
臆せずどんどん飛び込んでいってください。相手が学生だとなれば快く話してくれるはずです。失敗を恐れず、元気で向かえるのが若さの特権なのです。
小西一禎教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
自分が学生であるからこそ、できることにどんどん挑戦していきたいですね…!
就活は人生の「終わり」ではなく「始まり」の起点である
働き始めて5年後、10年後といった未来を考える際、仕事だけではなく、人生そのものを含めたものがキャリアであると捉えるべきです。
そうすることで、5年後にどういう仕事をしたいか、という点だけでなく、結婚といったライフステージや、親の介護、自身の健康問題など、学生時代には深く考えなかった要素も視野に入ってきます。
就職活動は、社会との接点を初めて持った瞬間に過ぎません。
仮に、望まない会社に入社したとしても、そこで人生が終わることは全くありません。人生はいくらでも逆転できるのです。
そこで『もう終わった』と思って自分の可能性を自分で閉ざしてしまうと、成長のチャンスを摘み取ることになります。
結果として人生の選択肢の幅が狭くなり、豊かな人生を歩めなくなってしまうでしょう。
小西一禎教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
いきたい会社に行けなかったとしても、その後逆転できるかどうかも全て自分次第なのですね!
千葉科学大学 小西一禎教授から就活生へのメッセージ:「“まさか”を恐れず、変化を味方につけよ」
「就活の教科書」編集部チェスンウ
小西先生、ありがとうございました!
最後に就活生へのメッセージをお願いします!
大学までの世界とは違い、人生のキャリアには「正解」も「間違い」もありません。
自分のキャリアの主人公は、紛れもなくあなた自身です。
他人と比べたり、他人の評価軸を気にしたりせず、常に自己を軸に据えてください。
人生には上り坂、下り坂、そして「まさか」があります。
私のキャリアも、想定外の「まさか」の連続でした。
キャリアの多くは予期せぬ出来事の連続ですが、それは「終わりの転機」ではなく、「始まりの起点」です。
完璧な計画に固執せず、「まさか」や「変化」を恐れないでください。
それを悪い方向ではなく、良い方向に変わるものだと捉えられれば、人生はワクワクできる楽しいものになります。
主体的な行動と自己の力によって、「まさか」をチャンスとして掴み、味方につけてください。
仕事のキャリアは人生の一部に過ぎず、結婚、家族、健康などすべてを含む「ライフキャリア」(人生全体)が圧倒的に重要です。
就職の結果一つで可能性を閉ざすことなく、ライフキャリア全体を強く認識することで、あなたはしなやかに、かつ強く生き抜くことができるでしょう。
小西一禎教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
素敵なメッセージをありがとうございます!
小西先生、本日は本当にありがとうございました!
