【インタビュー】静岡産業大学 宮田弘一教授 | 適職は見つけるものではなく後から気づくもの

【インタビュー】静岡産業大学 宮田弘一教授

「就活の教科書」編集部野口

「就活の教科書」取材担当の野口です。
今回は、静岡産業大学の宮田弘一教授に取材しました。
現代のキャリア教育への違和感や、学生が持つべき「生産者視点」について伺いました。
Profile


宮田 弘一(みやた ひろかず)
静岡産業大学経営学部 教授
国家資格キャリアコンサルタント / CIAC認定インターンシップコーディネーター

兵庫県神戸市出身。大学卒業後、大学職員として勤務。キャリア教育に深く携わる中で、「就職させるための教育」に疑問を抱き、40歳を過ぎてから大学院へ進学。専門はキャリア論、高等教育論、インターンシップ。

 

静岡産業大学 宮田弘一教授にインタビュー①「自己分析」より先にやるべきこと

「やりたいこと」から探すから行き詰まる

── さっそくですが、宮田先生は「自己分析」についてどうお考えですか。

宮田教授:最近の学生さんは、自分探しや自己分析に重きを置いているように感じます。社会や会社の仕組みを知る前に、「自分に合うか」という自分主体のものさしで仕事を選ぼうとします。正直、私はその方法には懐疑的です。大学で「やりたいことを見つける」というキャリア教育が、むしろ学生さんを迷わせる原因になっている気がしてなりません。

 

── 私も学生の時、自己分析をして、やりたい仕事を見つけましょう!というキャリアの授業を受けました。

宮田教授:多くの文系の学生は、やりたいことがはっきり見つかっていないから大学に来ているという側面もあります。それなのに「やりたいこと探し」をさせるから、迷路に入って動けなくなる学生も多いと感じています。本来、やりたいことは一生かけて探していくものです。そのため、過度な自己分析はやめた方がよい!というのが私の考えですね。

 

すべきことを積み重ねると、やりたかったことが見えてくる

キャリアプランを策定する際に用いるフレームワーク
  • Will (やりたいこと)
  • Can (できること)
  • Must (求められること)

宮田教授:シャインのキャリア・アンカー「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(すべきこと)」で言えば、私は「Will」からではなく「Must」から始めるべきだと思います。「Must」とは、裏を返せばそれだけ社会からのニーズがあるということです。まずはそこに応えてがんばってみる。そうやって「すべきこと」を積み重ねていくうちに、自然と「できること」が増えていく。その結果として、後から「あ、これが自分のやりたかったことかもしれない」と見えてくるものではないでしょうか。

 

適職とは:後から気づくもの

── やりたいこと探しの前に、すべきことを積み重ねると良いのですね。

宮田教授:私は自身の経験から、最初から「適職」は存在しないと考えています。適職とは、目の前の仕事を中途半端にせず、一生懸命に取り組んだ結果、振り返ったときに「自分に向いていた」と気付けるものなのではないでしょうか。

日本の新卒採用の多くは「総合職」ですから、どこに配属され、何の業務をするか分からないのが前提です。就職活動では「やりたいこと」を学生に語ってもらうのですが、いざ、就職すると、「やりたいこと」ができない仕組みになっています。ですので「やりたいこと」に固執しすぎると、入社後のギャップに苦しむことになると思います。

 

静岡産業大学 宮田弘一教授にインタビュー②消費者から生産者になる

福利厚生で選ぶのは「消費者視点」

── 企業選びの基準についてはどのようにお考えですか。

宮田教授:学生が企業を選ぶとき、「福利厚生がいい」「給料が高い」「居心地がよさそう」といった条件を重視しますよね。でも、これは与えられたものを評価するという「消費者視点」なんです(もちろん、それらを否定する訳ではありません。大事な要素です)。
お金を払ってサービスを受ける消費者ならそれで良いですが、働くということは、ある意味「生産者」になるということです。「生産者」とは、自分で製品やサービスを生み出し、その生産物の対価として報酬をいただくことになる訳です。

 

── 「生産者視点」で企業を見るには、どうすれば良いのでしょうか。

宮田教授:「その会社は社会のどこに役立っているのか」「誰にどんな価値を提供しているのか」という視点で考える必要があります。加えて、「自分はこの会社の生産活動のどこに貢献できるか」を考える。そのためのヒントを得る場所として、多くのインターンシップや企業訪問を経験すると良いと思います。

 

自己分析は、行動した後の振り返り

自己分析は、行動した後の「振り返り」としてやるべきでしょう。今の学生さんは先に自分を分析して、決め打ちでインターンに行こうとしますが、順番が逆。まずは深く考えずに飛び込んでみて、その経験を元に自分の考えを更新し、また次の場所へ行ってみる。無理に自分を固めてから動くより、動いてから自分を理解していく方が、納得感のある選択ができるはずです。

 

── 情報収集はできても、中々アクションを起こせない学生さんも多いですよね。

宮田教授:「損か得か」と、効率ばかりを考えてしまいがちですよね。でも、私もこの年になって思うのは、得か損かは一時的なものだということです。「急がば回れ」ではないですが、一見無駄に見える経験が今の自分に全部つながっている、と思うことがあるんです

学生さんに「一生のキャリアを見据えましょう」と言ってもイメージが湧かないでしょうから、まずは3年後、5年後くらいの短いスパンで考えてみれば良いでしょう。大事なのは、どんな場所に行ったとしても、とにかくその場所で一生懸命やることです。中途半端に動いても何も身につかないし、次にもつながりません。目の前のことに全力で取り組むと、その経験が次のステップへの糧になると思います。

 

最初の就職は「給料がもらえるインターン」で良い

宮田教授:最初の就職は、やや乱暴な言い方ですが「お金がもらえるインターンシップ」くらいに考えて良いと思います。今は転職するのが当たり前の時代ですから、もっと肩の力を抜いて考えて良いと思います。もちろんずっとその会社で働き続けるのも一つの選択肢ですが、まずはその会社で、真剣に仕事に向き合っていくか(インティグリティ)が重要だと思います。

 

静岡産業大学 宮田弘一教授にインタビュー③学生と企業へのメッセージ

学生へ:思い通りにいかなくても、「やるべきこと」をやり切る

── 就活がうまくいかない方にアドバイスをお願いします。

宮田教授:「就活を早く終わらせたい」「就活エージェントやAIに任せて楽をしたい」という学生さんも増えています。でも、就活はみなさんが成長するための「機会」だと思います。就活を避けてしまうと、後々のキャリアに響いてくると思います。

たとえ自分の思い通りにいかない結果になったとしても、就活で「やるべきこと」を一生懸命やり切る。その就活に対する向き合い方が、働き始めてからの自分を支えてくれるんです。何事も中途半端にせずやり切ることが大事ですよ。

 

── これからの時代を生きる学生に、伝えたいことはありますか。

宮田教授:今は「人生100年時代」と言われ、スリーステージ(教育・仕事・老後)というモデルは崩壊するでしょう。これからは、生涯学び続けなければならない時代です。

大学の4年間で大切なのは、知識を詰め込むことではなく「学び方を学ぶこと」です。
学びの習慣がない人は、卒業後に新しい局面に出会ったとき、対応できなくなってしまいます。すぐに役立つ「即効性」ばかりを求めず、一見無駄に見えることにもアンテナを立て、まずは何事にも関心をもって取り組んでみることが大事だと思います。

 

企業へ:生産者の視点で、自社の価値や役割を語ってほしい

── 最後に、採用活動を行う企業の方々へメッセージをお願いします。

宮田教授:学生に自己分析を求める前に、企業自身が自社の価値や役割を「自分たちの言葉」で語れるようになってほしいです。採用難だからといって「休みが多い」「初任給を上げた」といった「消費者視点」の条件ばかりで勝負していると、学生が誤解してしまうのではないでしょうか。本来、皆さんが求めているのは、サービスを享受する消費者ではなく、価値を生み出す「生産者」としての仲間のはずです。自社が社会に対してどのような責任を持ち、どんな未来を創ろうとしているのか、その「生産者の視点」を語ってこそ、学生に響くのだと思います。

また、「コミュニケーション能力が高い人」という曖昧な言葉に逃げず、自社にとってのコミュニケーション能力とは「論理性」なのか「共感性」なのか、具体的に言語化して伝える努力をしてほしいと思います。

宮田弘一教授の研究内容:researchmap

「就活の教科書」編集部野口

「最初の就職はインターン」という宮田先生の言葉に、肩の荷が下りる学生さんも多いのではないでしょうか。社会のために何ができるかという「生産者視点」を持つことの大切さを学んだ取材でした。
宮田先生、貴重なお話をありがとうございました!