「就活の教科書」編集部 野口
今回は、公共事業での就労支援など、幅広くキャリア支援に携わり、多くの「キャリア迷子」を救ってきた、一般社団法人カリエーレ・コムサ代表理事の佐渡治彦さんにお話を伺いました。

佐渡 治彦(さど はるひこ)
一般社団法人カリエーレ・コムサ 代表理事
大学卒業後、工業系商社を経てドイツ系企業へ転職。営業と人事を兼任する中でリーマンショックを経験し、人材業界へキャリアチェンジ。国家資格キャリアコンサルタントを取得後、東京都・愛知・京都・兵庫などの労働局にて公共事業の就労支援に従事。2021年に一般社団法人カリエーレ・コムサを設立。ニート・フリーターから上場企業の管理職まで、延べ数千人のキャリア支援を行っている。著書に『キャリアコンサルタントで自立する方法』がある。
目次
一般社団法人カリエーレ・コムサ 佐渡治彦さんにインタビュー:キャリア迷子から脱却するための視点
「点」を「線」につなげるキャリア形成
── 佐渡さんは現在、どのような方を対象に支援をされているのでしょうか。
佐渡さん:転職者の支援を中心に、フリーターの方から上場企業の管理職まで、幅広くご相談に乗っています。特に20代後半から30代にかけて、今の仕事にやりがいを感じられなかったり、自分に合っているのか分からなくなったりする、いわゆる「キャリア迷子」の方が多いですね。
── そうした「キャリア迷子」になってしまった時、どう向き合えば良いのでしょうか。
佐渡さん:大切なのは、「10年後のありたい姿」から逆算することです。10年後のイメージを描き、それを実現するために「今、何をするべきか」を具体化していきます。例えば、資格を取るのか、新しいスキルを学ぶのか、あるいは転職するのか。
昨今は「石の上にも三年」ではなく、数ヶ月で離職する方もいますが、私は「学ぶ時間」も大切にしてほしいと考えています。会社が嫌だから辞めるのではなく、その会社で得られるものを自分のスキルとして身につける。スキルを身につけてから次に進むことが、お給料も上がる「良い転職」です。今の仕事、自分の興味、そして次にどう活かすか。これらの点と点を「線」につなげていくことが、本当の意味でのキャリアアップにつながります。
自分にとっての「右手の箸」を見つける
── やりたいことが見つからないという若者も増えています。
佐渡さん:自分の過去を振り返ってみてください。小学校から大学までの間に、興味を持ったことが、何か必ずあるはずです。自分の好きなことを趣味で終わらせるのではなく、仕事にどう活かせるかを考えてみるのも良いでしょう。
ただ、仕事の本質は、人や組織に対してサービスや商品を提供し、その対価としてお金をいただくことにあります。ですから、自分の興味をどのように仕事という形に変えて、今後のキャリアに結びつけていくかをしっかり考えるようにしてください。
── 自己理解が重要なのですね。
佐渡さん:例えば、右利きの人が右手で箸を持つことは苦ではないですよね。でも左手で持とうとすると、すごくストレスになります。仕事も同じで、自分にとって「右手で箸を持つ感覚」、つまり仕事を日常の一部と思えるような分野を見つけることが大切です。
「ゆるブラック」な環境を自ら変える姿勢
── 最近、働きやすいけれど成長実感が持てない「ゆるブラック」という言葉も話題です。
佐渡さん:今の上司世代はパワハラを恐れて、部下に強く言えない傾向があります。その結果、若手社員が「このままでいいのか」と不安を感じてしまう。
もし、今の環境がゆるいと感じるなら、自分から提案をしてみると良いですね。「もっとこういう仕事をやりたい」「こう改善したい」と自分から組織にぶつけていく姿勢が大切です。そうすると、上司の方も自然にアドバイスができると思います。環境は自分の心持ち一つで変わると思います。
── 日本の組織では、下から上へ提案するのは勇気がいりますよね。
佐渡さん:確かにそうかもしれません。でも、定期面談などを活用したり、キャリア支援室に相談したりする方法もあります。あるいは、少し勇気を出して上司を「飲み」や「食事」に誘ってみるのも手です。最近の若者は飲み会を嫌がる傾向にありますが、一歩踏み込んで「連れてってください」と言ってみる。自発的なアクション一つで、周りの反応や環境は劇的に変わるものです。
AIで作ったESは、自分の言葉に落とし込む
── 就活におけるAI活用(ES作成など)についてはどうお考えですか?
佐渡さん:私はAIをどんどん使うべきだと思います。ただし、一つ注意してほしいことがあります。それは、「AIで作成したES(エントリーシート)を、面接で自分の言葉として、心から説得力を持って話せるか」という点です。
最近は、ESは完璧なのに面接で深掘りすると中身が伴っていない求職者も見受けられます。そのため「自分の言葉で、説得力を持って話せるか」という点は気をつけた方がいいと思います。
また、ESに書いた内容を忘れてしまう人がいますが、面接の前には必ず自分の書いたESを読み返しておきましょう。AIで作った文章は、面接官に深く質問されると、自分の本当の考えではないことがすぐに見抜かれてしまいます。AIで作った文章と実際の自分の考えにズレがないよう、事前に準備しておくことが大切です。
社会正義のキャリア支援
── 最後に、人材業界を目指す方やキャリア支援に関わる方へメッセージをお願いします。
佐渡さん:独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の下村英雄先生が提唱されているように、今のキャリア支援の世界的な流れは、支援者がどのような価値観で組織や個人に向き合うかという点で、「社会正義」を拠り所とするスタンスが重視されています。これは、キャリアコンサルタントや人事に関わる人が、ただ個人の相談に乗るだけでなく、組織の中にある矛盾を指摘し、誰もが働きやすい環境に変えていくよう働きかけることです。日本ではまだ十分に広まっていませんが、これから対人支援や人事の道を目指す皆さんは、ぜひこの視点を持って、組織そのものを良くしていく役割も意識してみてください。
「就活の教科書」編集部 野口
佐渡さん、貴重なお話をありがとうございました!

