「就活の教科書」編集部野口
「就活の教科書」取材担当の野口です。
今回は、関西大学の鍛島宗範様に「HACK-Academy」について取材しました。
学生のアントレプレナーシップ育成に情熱を注ぎ、多岐にわたる支援経験から見えた現代の学生の課題、そして今後の展望までを伺いました。

鍛島 宗範(かしま むねのり)
関西大学職員
HACK-Academy プログラムコーディネーター
2007年に関西大学卒業後、同大学の職員として入職。 資格支援部署にて、公務員や法科大学院を目指す学生向けの支援プログラム策定や講座運営に従事。その後キャリアセンターへ異動し、インターンシップの企画運営など、キャリア形成支援全般を幅広く担当。2018年より関西大学梅田キャンパスに着任。学生の起業支援・行動変容型のキャリア支援をテーマに掲げ、アントレプレナーシップ醸成プログラム「Hack Academy」を創設。
目次
関西大学 鍛島宗範様にインタビュー①HACK-Academyとは
アントレプレナーシップとキャリアオーナーシップの育成
── さっそくですが、HACK-Academyを立ち上げた経緯を教えてください。
関西大学のキャリアセンター職員として約2,000人の学生を見てきた中で、卒業後のキャリアに大きな差が出ることに気づきました。すぐに会社を辞めてしまう人、楽しく働く人、転職でキャリアアップする人、そして起業する人。この違いは、学生時代の過ごし方が大きく影響していると考えます。
時代は変化し、最初に入社した企業で定年を迎えることが成功ではなくなりました。また、起業のハードルは下がり、フリーランスを含め、自分らしい生き方・働き方を選択できる時代です。
このような時代だからこそ、学生には自分で選択できる力やスキルを身につけてほしい。その願いから、起業家育成プログラム「HACK-Academy」を設立しました。
HACK-Academyの目的は、単に起業家を輩出することではありません。アントレプレナーシップとキャリアオーナーシップを両方持つ学生の育成を目指しています。
アントレプレナーシップとは、起業に限らず、「正解のない問い」に対して、自ら考え、行動し、機会を創り出しチャレンジする力を指します。
企業連携と実践による成長
── HACK-Academyではどのような取り組みをされているのでしょうか。
HACK-Academyは、多くの企業と連携した実践的なプロジェクトが特徴です。関西大学の学生だけでなく、大学生であれば誰でも参加できます。
プログラムは大きく4つで構成されています。
- 目標設定
- 企業とのPBL型プログラム
- 地域連携プログラム
- 起業支援プログラム
企業とのPBL型プログラムでは、Salesforce社との2ヶ月にわたるプロジェクトや、ビジネスコンテストなどを実施しています。
地域連携プログラムは、学生が地域の事業者や行政と連携して課題解決プログラムを展開しています。
学生が一次情報に触れ、意思決定し、チームで行動する中で、自らの行動原理や価値観を知ることを目的としています。
起業を目指す学生には、半年かけてマインドセットから資金支援まで、集中的にサポートを行います。
経験豊富なメンター・サポーターの存在
── 鍛島様がお一人で企画運営されているのでしょうか。
学生が事業を展開する上で、社会で活躍する大人の力は不可欠です。HACK-Academyには、学生の取り組みを支援する「メンター」と「サポーター」が大勢います。
メンター
主に起業家。起業プログラムにおいて、学生の取り組みに伴走。
サポーター
主にイントレプレナー(社内起業家)や、スタートアップ系の支援をしている専門家。
社会で活躍されている方々からアドバイスをもらえることは、学生の特権です。社会人だとなかなか相談に乗ってもらえない専門家が、積極的に協力してくださっています。
事業を加速させる集中プログラム「イノキャン」
── すごい方々からアドバイスをいただけるのですね。
イノベーション・キャンプは、学生が温めてきた事業アイデアや取り組みを、3日間で集中的にブラッシュアップし、飛躍させるためのプログラムです。
事業アイデアを持つ学生や、実際に何かを始めようとしている学生が参加します。メンターから、事業化するためのアドバイス、足りない要素の埋め方、具体的な営業戦略など、事業を加速させるためのフィードバックをもらいます。メンターの人脈を活用できるのも大きな強みです。
── 参加した学生から寄せられる声はありますか?
イノベーション・キャンプでは、丸2日間ほどメンタリング漬けになるため、非常にきついと感じる学生もいます。
学生は、アイデアを考えてはメンターと壁打ちを繰り返します。その過程で多くの学生が最も大変だと感じるのが、「自分と向き合う」ことです。
メンターは「なぜ?」と学生に深く問います。その問いに向き合っていくと、学生は「なぜ自分がやるのか」という疑問に直面します。
事業と向き合うことは、自分と向き合うことです。その本質的な問いと向き合うことが、学生にとって大きな挑戦であり、大変だと感じる要因の一つとなっています。
今後の展望:大学全体の潮流に
── HACK-Academyの今後の展望をお聞かせください。
現在、HACK-Academyのプログラムを受けている学生は年間で約500人程度です。しかし、関西大学全学生が約30,000人だと考えると、まだまだHACK-Academyが浸透していないことを示しています。
── 参加者が500人と聞くと多い印象を受けます。
私たちが目指しているのは、アントレプレナーシップやキャリアオーナーシップという考え方を大学の当たり前にすることです。その目標を達成するためには、現在の参加者数ではまだ少ないと考えており、たくさんやることがあると感じています。
関西大学 鍛島宗範様にインタビュー②学生へのメッセージ
── 就活生にメッセージをお願いします。
就職偏差値と入社をゴールにする危険性
近年の就職活動では「就職偏差値」のような指標が存在し、学生は強く影響を受けています。
例えば、「〇〇商事は偏差値70」といった情報を見て、受験勉強と同じように就活対策を頑張れば良い企業に行けるという錯覚に陥ってしまっています。その結果、ガクチカを目標として設定し、経験を増やせば良い企業に行けると考えてしまうのです。
しかし、このような偏差値志向に対して、ギャップを感じます。世の中が就活を煽りすぎている結果であり、「面白くない学生生活を過ごしてしまうかもしれない」と怖くなります。
「大企業に入ったら良い」というロジックも、現代においては通用しなくなっています。
世の中は激しく変化しており、以前は「大企業からベンチャー」はあっても「ベンチャーから大企業」はなかったと言われていましたが、今や逆のパターンも存在します。これは、個人のマインドやスキル次第で、どこにでもアクセスできる時代になったことを意味しています。
それにもかかわらず、「入社」をゴールにしてしまうのは、危険な状態だと感じています。
目指すべきは「キャリアオーナーシップ」
「自分の人生をどうしたいか」を考えてほしいです。学生生活で様々な人と出会い、経験を積むことで、この問いについて深く考える機会を得てほしいと願っています。
プログラムでは、学生が偏った情報に流されないよう、大企業のイントレプレナーや起業家、卒業生など、多様なロールモデルとの出会いを提供しています。様々な大人に会うことで、「どう動いたらいいか」という大きな問いを分解し、「自分にもできる」という行動への一歩目まで落とし込むことができます。
就職一辺倒ではなく、「自分の人生をどうしたいか」というキャリアオーナーシップを持って就職することで、ネガティブな退職ではなく、キャリアアップや社会変革など、前向きなマインドを持つ卒業生が増えることを期待しています。
「数」と「質」
大切なのは、1つ1つの結果に一喜一憂する必要は全くないということです。
1. やりたいことが明確でないのであれば「数」
やりたいことが明確でない学生はまず自分と向き合い、その上でたくさんの会社の説明会に参加し、場数を踏むべきです。数をこなす中で、共感できる会社や仕事と出会えるはずです。
2. やりたいことが明確なら「質」
やりたいことが明確な学生は、質の高さが重要です。目標を裏付ける具体的な行動をどれだけできたかという点が、企業評価を大きく左右します。環境問題に取り組みたいなら、それに見合う行動をする必要があります。
働くことは「面白い」:タイパ・コスパでは測れない価値
多くの学生が働くことにネガティブなイメージを持つかもしれませんが、働くことは面白いということを理解してほしいです。
働くことの面白さは、残念ながら「タイパ」や「コスパ」では測れません。ゲームに夢中になるゲーマーのように、仕事にも夢中になれる瞬間があるはずです。
何かを達成する、成果を出す、誰かの役に立つといった実感が得られると、仕事は楽しくなります。上司や同僚から「ありがとう、助かった」と言われるとモチベーションが上がるものです。
ただし、そこに至るまでには時間が必要です。短期的な損得ではなく、長期的な成長と貢献を目指して取り組むことが、働くことの本当の面白さに繋がります。だからこそ、粘り強さ(grit)や目的意識が重要になります。
20代は体力があるので、様々なことを経験してほしいと思います。30歳でどのようなスキルを身につけたいかという目標を定め、その目標に向けて20代を過ごしてほしいと思います。言われたことだけをこなすのではなく、長期的な視点で仕事に取り組むことが、働くことの本当の楽しさへと繋がると考えています。
「就活の教科書」編集部野口
鍛島様のお話から、現代において重要なのは、「自分の人生をどうしたいか」というキャリアオーナーシップを持つことだと強く感じました。
貴重なお話をありがとうございました。

