【インタビュー】日本キャリア教育学会 | 早稲田大学 三村隆男名誉教授 | Linked Learningとは?

本ページはプロモーションを含みます

就活の教科書は、有料職業紹介許可番号:27-ユ-304518)の厚生労働大臣許可を受けている株式会社Synergy Careerが運営しています。

「就活の教科書」編集部野口

こんにちは!「就活の教科書」取材チームの野口です。
今回は、日本キャリア教育学会に所属し、早稲田大学教育・総合科学学術院の三村隆男名誉教授にインタビューしました。

三村教授、本日はよろしくお願いします!

よろしくお願いいたします!

三村隆男教授

Profile

三村 隆男(みむら・たかお)
早稲田大学 教育・総合科学学術院 名誉教授
日本キャリア教育学会

2012 – 2016 早稲田大学大学院教職研究科長
2014 – 2018 日本キャリア教育学会 会長
2024 – 早稲田大学名誉教授
2023 – 国立教育政策研究所フェロー

三村隆男教授にインタビュー①勤労観と職業観の二層構造

小学校から始まるキャリア教育の意義

「就活の教科書」編集部野口

さっそくですが、三村教授はキャリア教育についてご研究されていますよね。

私は、「勤労観・職業観」という二層構造を示しました。

小学校でキャリア教育を行うことに疑問を持たれる方もいますが、小学校における日常生活が、高校・大学を経て職業に至るまでの基盤を形成していると考えています。

勤労観とは、日常生活における役割の理解や考え方、役割を果たそうとする態度、人のために何かしようとする意識を指します。係活動や班活動などを通じて役割を果たし、その意味を考えることが重要であると考えています。

例えば、飼育係として動物の世話をした経験を通じて、子どもは自らの役割の意義について考えるようになります。このような経験が拡大し、職業観へとつながると考えています。
この二層構造は海外の論文でも引用されています。勤労観から職業観への道筋を形成するため、日本にキャリア教育が導入された直後から小学校のキャリア教育を推進する書籍等を、以下のように数多く著しました。

三村隆男教授

 

役割体験とリフレクションの重要性

小学校・中学校では、さまざまな役割を果たす教育活動が展開されています。これらの役割体験は、子どもたちが将来どのような職業に就くか、どのように社会へ貢献していくかを考えるための基盤を形成していると考えています。教師には、こうした視点を持ち、子どもたちの経験の意味を意識して指導していただきたいと考えています。

特に重要なのは、役割を果たした後のリフレクションです。「やってみてどうだったか」と問いかけ、自己理解につなぐことでキャリア形成を促進すると考えています。

教育者や保護者がこのような姿勢で子どもを育てていけば、大学卒業時に「自分が何をしたいのかわからない」と戸惑う若者は生まれないと考えています。

三村隆男教授

「就活の教科書」編集部野口

小学生時代の体験が職業観につながるのですね。

あるとき米国ウィスコンシン州の動物園で、小学生がフィールドワークに来ていました。ある子どもが私のところに来て、自己紹介をしてきました。そして「私に質問してください」と言ってきました。子どもが自分のアイデンティティを相手に伝え、相手から質問を受けることで、さらに深く考えるようになるのです。このようなフィールドワークのあり方は、勤労観・職業観の二層構造のうち、勤労観の形成に有効な取り組みであると考えています。

こうした取り組みは、米国では一般的に行われていると思います。特に私の研究対象としているカリフォルニア州では顕著であり、小学校一年生から児童会に参加することが多いです。これは、子どもを子ども扱いしないという文化が背景にあると考えています。議論の場に参加し、主張を行うことが当たり前になっており、さまざまな経験を積ませることが重視されています。

三村隆男教授

「就活の教科書」編集部野口

海外ではそのようなフィールドワークが多いのですね。私は「日本人」な性格なので、主張することが苦手です、、

日本の教育を否定しているわけではありませんが、日本では子どもを子どもとして扱い過ぎている面があると考えています。子どもを1人の人間、つまり一般の大人として扱っていくことが、子どもたちの役割意識を高めるために重要であると考えています。

誰でも自分の価値観や職業観に気づく道筋を歩むことは可能ですが、現状ではその機会が十分に与えられていません。気づくきっかけも少なく、働きかけも不十分です。

だからこそ、リフレクションが非常に重要であると考えています。「どう考えたのか」「なぜそうしたのか」といった問いかけを行うことで、子どもたちは自己理解を基盤に発言力を身につけていくのです。

三村隆男教授

 


三村隆男教授にインタビュー②「Linked Learning」とは?

「Linked Learning」が描く教育と職業の接続モデル

「就活の教科書」編集部野口

問いかけを続けると子どもの発言力が身につくのですね。

三村教授はカリフォルニア州のLinked Learningについても研究されていますよね。詳しく教えてください。

キャリア教育を教科に組み込む⇒college and career (誰もが進学し、就業できるようにする)というコンセプトが基盤となっています。かつてCTE(キャリアテクニカル教育)が職業と教科を繋ごうとしたのですが、結局、就職者用の教育としか見られなかったのです。そこで、学習経験の質を高め進路選択の多様化に応えるアプローチとしてMultiple Pathwayが取り入れられ、最終的にLinked Learningとして結実します。

カリフォルニア州ではキャリア教育を「ソーシャル・ジャスティス(社会正義)」の観点、つまり不平等や貧困の是正手段と位置づけ、再構築が図られました。

Linked Learningでは、「就職する生徒も大学に進学できる力をつけるべきであり、逆に進学する生徒も職業への理解を深めるべきである」とされ、教育の一体化が目指されています。

三村隆男教授

 

4つのコア要素による包括的キャリア教育

Linked Learningは、以下の4つのコア要素から成り立っています。

三村隆男教授

Linked Learning
  • 厳格な学力指導(A rigorous academic core)
    就職希望者にも進学希望者と同等の教科指導を行う必要があると考えています。
  • 教科と職業の統合(An integrated career technical core)
    教科と職業を有機的に結びつけ、キャリア教育の質を高めることを目指しています。
  • 職業体験型学習(Work-based learning)
    インターンシップや職場体験に、探究的側面(なぜ働くのか、価値や意義)と実質的側面(どのような仕事をしているのか)の両面からアプローチします。小学生からでも企業担当者が本格的に業務について伝える必要があるのです。
  • 包括的な生徒支援(Comprehensive student support services)
    教科指導の教員にとどまらず、スクールカウンセラー、教職員、保護者そして地域の住民など複数の大人が1人の生徒を支える体制を構築します。

実際に、スタンフォード大学の調査機関「SRI International」が実施した研究では、Linked Learningの課程で学んだ生徒と、従来型の課程で学んだ生徒の比較調査を実施しました。Linked Learningの課程で学んだ生徒の方が中退率の低下、単位取得数の増加、卒業率の向上、進学準備の改善など、統計的に有意なポジティブな効果が認められました。(一つの高校でもLLの課程と、従来の伝統的課程とを併設しているところもあり、こうした表現にしました)
この研究結果を根拠に、カリフォルニア州ではLinked Learningの導入が急速に拡大しています。

三村隆男教授

 

なぜカリフォルニアは世界をリードできたのか?

「就活の教科書」編集部野口

Linked Learningを実施すると中退率の低下や卒業率が向上するとデータで示されているのですね。

カリフォルニア州は州単体で世界のGDP第4位または5位に位置し、日本に迫る経済規模を有しています。一方で、不法移民を多く受け入れているため、学力的には全米中~下位水準にあります。格差、差別、貧困、学力低下などの背景をかかえ、一方で教育に様々な工夫を凝らし、ITやDX産業が集中し、GAFAのような世界的企業を支える人材が育っていることに大変興味を持ち、カリフォルニアのキャリア教育の研究を続けています。

カリフォルニアの教育の特徴として、第一に「子どもの主体性を重んじること」が挙げられます。進路や将来の仕事に関しても、決まった時期に一斉に進学・就職するという仕組みではなく、自分のタイミングで、自分が望む道を選択するようになっています。大学教育においても、試験に追われるのではなく、興味・関心を伸ばす方向で学びを深めていくスタイルが主流です。

このような教育の基盤には、「自分自身は何者か」「何をしたいのか」を考える力を、小学校・中学校・高校と積み上げるプロセスが含まれています。

三村隆男教授

「就活の教科書」編集部野口

日本の受験・大学進学・新卒一括採用と比べると大きく違いがあるのですね。

「社会的・職業的自立に向けて基礎的な資質・能力を育てること」が、キャリア教育の中核であると考えています。これが現行の学習指導要領で最も重視されている点であると捉えています。

したがって、学びの中で社会的・職業的自立に関わる力を育成すること、すなわち教科とキャリア教育の関連性を持たせていくことが重要であると考えています。米国カリフォルニア州で行われているLinked Learningは、まさにそのような教科学習と職業的学びを結びつける実践であり、日本においても今後そのような方向性が求められると考えています。

三村隆男教授

 

三村隆男教授にインタビュー③就活生へのメッセージ

キャリア形成の構造モデル

「就活の教科書」編集部野口

社会的・職業的自立に関わる力を育成することが重要なのですね。

進路指導についてはどのように伝えていらっしゃるのでしょうか。

「進路指導6活動の構造モデル」という考え方を提唱しています。そこでは、「自己理解」と「進路情報の理解」が最も重要な基盤として位置づけられています。キャリア形成は自己理解なしには成り立たないと考えています。

これまでお話してきたように、進路選択や職業選択には、必ず何らかの「気づき」が伴います。この気づきは、情報という“鏡”を通して自己を見つめる過程で生じます。ある情報に触れたときに「これは難しそう」「これは面白そう」と思う反応こそが、自己理解と進路情報の交差点にあたると考えています。

この気づきを深めるには、教員が「なぜそう思ったのか」「どうしてそのように考えたのか」といった問いかけを通じてリフレクション(内省)を促すことが重要です。その積み重ねによって、子どもたちは自己を明確に見つめ、最終的には社会的・職業的自立を果たす準備が整うと考えています。こうしたプロセスにより主体的な進路選択が可能になるのです。誰もが直面する進路選択の迷いにも主体的に取り組むことができるのです。

三村隆男教授

自己理解と進路情報理解の間を埋める活動として体験活動と言語活動があります。体験活動は「啓発的経験」とされています。これは、インターンシップや職場体験、工場見学、博物館訪問などが含まれます。これらの体験を通して得られる知見が、自己理解を深める支えとなると考えています。
さらに、言語活動としてのキャリアカウンセリング(幅広くとらえると対話や言語活動)を通して、情報と自己とのつながりがより明確になります。こうした活動は、リフレクションすることで自己をみつめることとなり、個人のキャリア形成にとって不可欠であると捉えています。
この構造モデルは、中学・高校・大学・社会とあらゆる段階において共通して適用できるモデルであり、生涯にわたるキャリア形成支援の基盤をなすものと考えています。

三村隆男教授

 

人生100年におけるキャリアの考え方

「就活の教科書」編集部野口

進路指導や職業指導で構造モデルがあるのですね。

人生100年時代、どのようにキャリアプランニングしたら良いと思われますか?

キャリアプランは、人生が短ければ綿密に計画する必要がありますが、人生が長くなった現代においては、必ずしも詳細に設計する必要はないと考えています。人生100年時代においては、時間的余裕が生まれ、その分だけ多様なキャリアチャレンジの機会が広がっていると思います。

例えば、人生の前半はシステムエンジニアとして働き、後半は庭師になるといった多様な選択も可能です。このように、長い人生の中では複数の職業や挑戦を経験できる余地があるため、キャリアを一つに絞らず、多様な選択肢や挑戦を視野に入れるべきだと思います。

そのため、人生設計はきちんとプランニングするよりも、むしろ「チャレンジの機会をいかに増やすか」という観点で考えるべきであると考えています。体験活動と言語活動の中で、自己理解を果たす情報を果敢に収集する姿勢が大切です。

三村隆男教授

 

職業生活=日常生活の延長

「就活の教科書」編集部野口

ありがとうございます。非常にポジティブな考え方ですね。

最後に就活生にメッセージをお願いします。

職業生活とは、特別なものではなく日常生活の延長であると考えています。勤労観や職業観もまた、日常の中で培われるべきものであり、仕事というものは生活の延長線上にあると捉えることが重要です。

その中で、自分らしさをどう発揮するかが問われます。自己に対して劣等感を抱くことがあるかもしれませんが、人が異なるのは互いに補い合うためであると考えています。他者に足りない部分を補うことができるように、自分の弱点もまた誰かに補ってもらうことが可能です。

職業生活とは、そうした違いを認め合い、互いの役割を果たし合う中で成り立つ営みであると考えています。そして、その役割を通して、自分らしい生き方を形成していくことができます。

したがって、職業生活に対して過度に構える必要はなく、うまくいかない場合にも次に自分を必要としてくれる場所があると信じることが大切です。

三村隆男教授

「就活の教科書」編集部野口

仕事は生活の延長線上にあると捉えたら良いのですね。

たとえ現在の仕事が自分らしい生き方に直結していないように見えても、その中で工夫することで、自分らしさを見出していくことが可能であると考えています。また、悩んだ際にはカウンセラーに相談したり、体調がすぐれないときには休息をとることも必要であると思います。

最終的には、自分らしい生き方を進めていくための一つの手段として職業生活が位置づけられるのではないかと考えています。

三村隆男教授

「就活の教科書」編集部野口

自分らしい生き方を実現するための一つの手段として仕事を考えたら良いのですね。

三村教授、本日はありがとうございました!

日本キャリア教育学会

早稲田大学研究者データベース