【インタビュー】藤女子大学 船木幸弘教授 | 就活生へ贈る「仕事の科学」~自分を守り、成果を出し続けるための3つの視点~

「就活の教科書」編集部野口

「就活の教科書」取材担当の野口です。

今回は、藤女子大学の船木幸弘教授に取材しました。

公務員時代から一貫して「人材育成」に携わってきた船木先生が語る、若手社員や学生が健やかに、そして主体的に働くためのヒントを伺いました。

Profile

船木幸弘(ふなき・ゆきひろ)
藤女子大学 ウェルビーイング学部 地域創生学科 教授

1961年北海道生まれ。東北福祉大学社会福祉学部、東北福祉大学大学院総合福祉学研究科総合福祉学専攻修士課程修了。1984年より北海道士幌町役場/北海道庁保健福祉部など地方公務員として21年間勤務。2006年より専任講師として弘前学院大学に勤務。藤女子大学人間生活学部准教授、2024年同学部教授、2025年より現職。国家資格キャリアコンサルタント。業務基礎スキル診断認定講師。人材育成学会会員。日本キャリア開発協会会員。北海道中小企業家同友会会員。

 

藤女子大学 船木幸弘教授にインタビュー①ウェルビーイングとは

自分が楽しむことが、誰かの役に立つ

── 船木先生が「人材育成」の分野を志したきっかけは何でしょうか。

船木先生:ふりかえれば、小学生の頃から人を集めて場を盛り上げることが好きでした。私の根底にあるのは、「チャレンジすること」と「人助け」です。

公務員時代、地域の子どもたちに声をかけて(体育館一面に)2,400個の段ボールを並べて巨大な迷路を造ったことがあります。設営に6時間、解体に4時間かかる「無謀ともいえる」挑戦でしたが、子どもたちは喜んでくれました。「自分が挑戦することで、誰かが喜んでくれる」この状態こそが、私にとっての仕事の原点であり、ウェルビーイング(幸福)な状態なのです。

 

ウェルビーイングとは:自分という「車」を整備する

── 仕事におけるウェルビーイングを、どう捉えればよいでしょうか。

船木先生: 仕事には「パフォーマンス」と「リソーセス」という2つの軸があります。

仕事の軸
  • パフォーマンス(Performance)

外に向かう力。売上を上げたり、成果を出したりする活動。

  • リソーセス(Resource)

内に向かう力。自分自身のスキルアップ、健康管理、モチベーション維持など、組織や個人を維持・強化する活動。

船木先生:これらは「車の両輪」です。
多くの新社会人は、成果(パフォーマンス)を出そうと懸命になり、睡眠や学び、休息(リソーセス)を削ってしまいがちです。しかし、片方の車輪(リソーセス)がパンクすれば、車は前に進めなくなります。ウェルビーイングとは、「車の両輪」が意味のある状態を指していて、単に楽をすることではありません。成果を出し続けるためには、意図的に「リソーセス(自分自身)」へ投資する時間を充実させようとする状態であることが大切なのです。

 

「やり方」がわからないと「やる気」は消える

船木先生:多くの人が「やる気(マインド)」さえあれば何とかなると思いがちですが、実は「やり方」が分からないと、やる気は持続しません。

特に新入社員の場合、やる気満々で入社しても「仕事のやり方」がわからない状態が続くと、次第にモチベーションは下がってしまいます。わからないことは「確認・質問すること」。そのような時にこそ上司は部下に「やり方」を教えるべきです。やり方がわかって初めて、人は主体的に動けるようになるからです。

仕事の軸
  • 主観(やる気)

「仕事の全体像」と「目的・理由」が説明されることで、部下は「やらされる仕事」ではなくなり、「主体的にやる仕事」としてモチベーションが向上します。

  • 客観(やり方)

仕事には必ず「期限(終わり)」があります。特にルーティン業務の委任を受ける場合には「期限」を、プロジェクト業務では「目的」を明確にすることも重要です。

 

藤女子大学 船木幸弘教授にインタビュー②タイムマネジメントスキルとは

時間は作れない。仕事に時間を「貼り付ける」

── 若手社員が悩む「タイムマネジメント」について、アドバイスをお願いします。

船木先生:タイムマネジメントは、「時間を管理すること」ではありません。時間は誰にも平等に24時間あり、増やすことも減らすこともできないからです。また、タイムマネジメントとは、単にスケジュール帳を埋めることではありません。

仕事を「主体(自分/他人)」と「時間軸(開始/終了)」の2軸で分解し、「4つの時間」として捉え直し、これらを意図的にコントロールすることが、タイムマネジメントです。真のタイムマネジメントとは、「仕事を管理すること」なのです。

特に重要なのが、仕事の構成を「4つの時間」で捉えて管理することです。

「4つの時間」の定義

1. 「自分ひとりでやる仕事」の開始時間
例:企画書作成に着手する時間、データ分析を始める時間。
2. 「自分ひとりでやる仕事」の終了時間(期限)
例:報告書の提出期限、タスクの完了目標時間。
3. 「他人と共同でやる仕事」の開始時間
例:会議の開始時刻、商談のアポイントメント時間。
4. 「他人と共同でやる仕事」の終了時間
例:会議の終了予定時刻、商談を切り上げる時間。

 

「自分へのアポイント」を取る

船木先生:多くのビジネスパーソンは、「他人と共同でやる仕事(会議や商談)」の「開始時間」だけを手帳に書いています。これでは他人の予定に振り回されているだけです。したがって(自律的に)働くための最強のスキルは、「自分ひとりでやる仕事の開始時間」をコントロールすることです。

他人との予定が入る前に、自分がやるべき重要な仕事(特に将来のための準備や勉強など、緊急ではないが重要な仕事)を行う時間を、スケジュール帳に「予約」しておきましょう。
「いつかやる」ではなく、「〇月〇日の10時から11時までやる」と開始と終了を決めて手帳に書き込む。自分との約束を他人との約束と同じくらい大切に守ることで、仕事の主導権を自分の手に取り戻すことができます。

 

「やる気」と「やり方」の正体

船木先生:人が仕事(行動)を起こすためには、「やる気(マインド)」と「やり方(スキル)」が明確になっている必要があり、そのどちらかが欠けても人は動けません。「仕事の科学」の視点から、この二つの要素を「情報の質」と「伝達の仕組み」として説明します。

仕事におけるコミュニケーション情報は、大きく2つ「戦略情報」「戦術情報」に分類されます。これらが適切に供給されることで、初めて組織は機能します。

1.「やる気」の源泉

戦略情報(トップダウン)
• 定義: 組織の上層部から降りてくる「目標」「方針」「指示」などの情報です。
• 役割: なぜその仕事をするのかという「目的(Why)」やリーダーの「熱意(主観)」を伝え、メンバーを動機づける役割を果たします。これが不足すると、「言われたからやるだけ」という受動的な姿勢になります。
• 例:「健康第一!体が資本。今日一日、安全運転に努めること!」と毎朝の朝礼で社長が話す。

2.「やり方」の源泉

戦術情報(ボトムアップ・水平展開)
• 定義: 現場レベルで交わされる「具体的な手順」「ノウハウ」「進捗状況」などの情報です。
• 役割: 目標を達成するために具体的にどう動くかという「手段(How)」や「事実(客観)」を伝え、業務をスムーズに遂行させる役割を果たします。これが不足すると、やる気はあっても「どうすればいいかわからない」状態に陥ります。
• 例:「いつから、誰が、何の仕事を、どこまで進めるのか」をチーム内で共有する。

 

藤女子大学 船木幸弘教授にインタビュー③職場で良好な人間関係を築くためには

武器としての「聞くスキル」

── 職場でのコミュニケーションで大切なことは何でしょうか。

船木先生:仕事とは「目標達成のための、自分と他人との共同作業」と定義できます。共同で作業するためには、コミュニケーション(情報共有)が必要です。

私たちが普段行っているコミュニケーション(言語活動)を、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4つのスキルに分解して、その使用頻度を調査したデータによると、「聞く」が45%でした。

コミュニケーションの使用頻度
  • 「聞く」:45%
  • 「話す」:30%
  • 「読む」:15%
  • 「書く」:10%

船木先生:つまり、ビジネスの時間の約半分は「聞くこと」に費やされているのです。

しかし、私たちは「書く」スキル(企画書やメールの書き方)や「話す」スキル(プレゼン技術)については研修などで学びますが、「聞く」スキルを体系的に学んだ経験はほとんどありません。 「聞く」は音声情報であり一瞬で消えるため、受け手の「主観(思い込み)」が入りやすい非常に難しい技術です。だからこそ、意識的に取り組む価値があります。

 

アクティブヒアリング(積極的傾聴)の実践

船木先生: 誰かが相談に来たとき、いきなり解決策を提示していませんか? この場合相手が求めているのは、感情(主観)の共有です。 まずは「大変だったね」と相手を肯定し、受け入れる。このプロセスで信頼関係(リソーセス)が構築され、その後の客観的なアドバイスもスムーズに伝わるようになります。

また、チーム内の不信感は「あの人だけ知っている」という情報の格差から生まれます。リーダーやメンバーとして、「同一情報を、同時に、全員に発信する(情報の公平化)」ことを心がけてください。エコひいきのない情報共有が、チームの信頼とやる気の土台となります。

 

就活生へのメッセージ「大切なのは自己認識」

── 最後に就活生にメッセージをお願いします。

船木先生:就職活動は大変かと思いますが、社会に出ることは、これらの「仕事の科学」を実際の「行動」に変える絶好の機会です。そのために最も大切なことは自分の「主観(思い)」を知る「自己認識(自己理解)」です。これは、皆さんがこれまで受講してきた「キャリア教育(キャリアデザイン)」の授業でも説明されていたことです。その理由は、自己理解が「他者理解」になり、「相互理解」を生むからです。
自分の「性格は変えられなくても行動(型)は変えられる」という自責の精神を持つこと、自律的に仕事をリデザインしましょう。自分を深く知り他者との協働を楽しむ社会人を目指す、皆様の活躍を応援しています。

 

「就活の教科書」編集部野口

船木先生のお話から、仕事を「作業」として見るのではなく、その先にある「誰かの喜び」につなげることの大切さを学びました。 貴重なお話をありがとうございました。