「就活の教科書」編集部野口
「就活の教科書」取材担当の野口です。
今回は、常磐大学の菅田浩一郎教授に「経営学とキャリア」について伺いました。
ソニー株式会社に22年間勤務し、現在は教育の現場に立つ菅田教授。
実務家教員ならではの視点から、学生が今身につけるべき「教養」と「人間力」について熱く語っていただきました。

菅田 浩一郎(すがた こういちろう)
常磐大学 経営学科教授 / 副学長
1993年、大学卒業後にソニー株式会社へ入社。創業者・盛田昭夫氏の国際活動を支える部署を皮切りに、テレビ、半導体など多岐にわたる事業部を経験。 2014年、常磐大学に着任後、埼玉大学大学院にて博士号を取得。現在は国際ビジネス論や中小企業経営論を担当し、2025年より副学長を務める。著書『 中小企業の国際化と自立化:日立地域にみる胎動』
目次
常磐大学 菅田浩一郎教授にインタビュー①ソニーの安定を捨て、研究者という夢へ
── よろしくお願いいたします。菅田先生はソニーにお勤めだったのですよね。
私は企業出身の「実務家教員」です。
1993年にソニーに入社し、22年間勤めました。
入社当初は創業者・盛田昭夫会長の財界活動をサポートする部署でした。
その後は事業戦略や生産管理など現場に近い業務を歴任し、北京、タイ、アメリカなどで約9年の海外駐在を経験しました。
── なぜ大学教授への転身を決意されたのでしょうか。
学生時代は論文を書くのが好きで、研究者になりたいという想いを持っていましたが、流れでソニーに就職しました。
入社22年目、40代半ばに、「ソニーでの仕事はやりきった、もう限界だ」と感じていました。
ある夏の夕方、妻に「辞めて、本来やりたかったことをやりたい」と打ち明けました。
安定を捨てることになりますが、妻は「いいんじゃない?」と背中を押してくれました。
その一言で決心し、常磐大学に転職し、大学院に通い直し、博士号を取得しました。
現在は、自身のビジネス経験と経営学の理論を融合させた教育を行っています。
常磐大学 菅田浩一郎教授にインタビュー②地方中小企業の生存戦略
企業城下町・日立の変化:下請けからの脱却
── 先生の研究テーマについて教えてください。
私の研究テーマは「中小企業の国際化と自立化」です。
水戸のすぐ北には、日立製作所のお膝元である日立市があります。
この「企業城下町」において、BtoBのものづくりを行う中小企業がいかに自立し、海外市場を開拓しているかを研究しています。
かつての高度経済成長期は、中核企業である日立製作所の規模拡大に伴い、下請け企業も仕事量や資材の面倒を見てもらえる「護送船団方式」が成り立っていました。
しかし、バブル崩壊やリーマンショックを経て、その構造は崩れました。
親会社も世界で戦うためにコスト競争を強いられ、下請け企業の面倒を見きれなくなったのです。
── 厳しい環境下で、中小企業はどう変化しているのでしょうか。
生き残っている企業は、中核企業への依存を断ち、自社の技術を磨いて積極的に海外進出しています。
アジアに安価な工場を作るのではなく、製品を武器にドイツやフランスの企業と対等にビジネスをする企業も出てきています。
経営者も変化しており、東京の大手企業で経験を積んだり、海外で博士号を取得してから戻ってくる「スーパーエリート」の2代目、3代目社長もいます。
彼らは「下請け」という意識を持たず、自らの技術で世界を切り拓いています。これこそが現代の中小企業の生存戦略なのです。
文系学生こそ「ものづくり」の世界へ
本学は文系大学なので、銀行や商社、公務員を志望する学生が多いのが現状です。
しかし私は、「文系だからこそ、ものづくり企業に行くべきだ」と伝えています。
地域の中小企業が求めているのは、高い技術を世界へ売り込む「マーケティング人材」です。
文系学生が活躍できるフィールドは大きく広がっています。
── 就活やキャリアに対して、学生にどのようなアドバイスをされていますか。
私は学生たちに、キャリアの選択肢として以下の3つを提案しています。
- 地元の中小・ものづくり企業:マーケティング人材として、新規市場開拓の先兵となる。
- 東京のプライム上場企業:東京で就職し、世界レベルのビジネスを経験し、将来そのノウハウを持って茨城に戻る。
- 地元の安定企業・公務員:地元のインフラや行政を支える。
ずっと地元にいるのも良いですが、外で揉まれて培った視点を地元へ還元することは、本人のキャリアだけでなく地域の活性化にも貢献するはずです。
常磐大学 菅田浩一郎教授にインタビュー③菅田ゼミとは?国際ビジネスや経営論を研究
2年半で5回の合宿?「ハイテンション」なゼミ
── 先生のゼミについて教えてください。
私のゼミでは、有名多国籍企業の歴史や戦略を徹底的に研究します。
例えば、かつてアメリカ最大級の国際航空会社であった「パンアメリカン航空」が、どのように生まれ、成長し、そして衰退して消滅したのか。
あるいは、「ロイヤル・ダッチ・シェル」の国際展開や、「味の素」対「ネスレ」のグローバル競争、JAL(日本航空)の事例などを取り上げます。
私は学生たちに「Google翻訳を使っても良い」と指示し、英語の文献や分厚い社史を読ませます。
学生たちはその圧倒的な情報量に、良い意味で悲鳴を上げています。
── かなりハードな内容ですね。
うちは「意識高い系」ならぬハイテンションなゼミです。
勉強だけでなく、遊びやイベントも全力です。
飲み会も多いですし、2年半のゼミ期間中に合宿を5回行います。
学生同士は「兄弟」のような関係、私は「親戚のおじさん」のような関係性になります。
卒業する頃には、非常に強固なコミュニティが出来上がっています。
恥ずかしがり屋が「リーダー」に
── そのような環境で、学生たちはどう変化していくのでしょうか。
最も伸びるのは「コミュニケーション能力」です。
ゼミに入った当初は、恥ずかしがって人前で発言できなかった学生が、膨大な文献を読み、仲間と議論し、合宿で揉まれるうちに、見違えるように成長します。
就職活動ではグループディスカッションを自然と仕切れるようになり、「先生、今日の選考、全部仕切ってきました!」と報告に来ることもあります。
教科書を読むだけでは身につかない、生きた人間力と自信がゼミの中で培われていると思います。
常磐大学 菅田浩一郎教授にインタビュー④学生へのメッセージ
── 最後に、就活生へメッセージをお願いします。
「教養」という武器を持つ
学生時代にぜひやってほしいことが2つあります。
1. 浴びるように本を読むこと
専門書だけでなく、文学作品や歴史書など、ジャンルを問わず読んでください。
これだけの時間を読書に費やせるのは学生時代の特権です。
2. 「感受性」を磨くこと
少し背伸びをしてでも、一流の芸術に触れてください。
例えば、クラシックのコンサートや美術館に行き、イタリアンレストランなどで美味しい食事をして余韻を楽しむ。
一見、ビジネスとは無関係に思えるかもしれません。
しかし、将来商社マンになって海外の立食パーティーに呼ばれたとき、「ビバルディのあの曲が良いですよね」と会話ができるかどうかだと思います。
教養が信頼に繋がり、次の商談に結びつくことがあります。
大学生はそもそもエリートなので、教養を身につけるチャンスを掴んで欲しいです。
生涯の友と「人生」を語り合う
それに加えて、友人と膝を突き合わせて「人生論」を語り合ってください。
今の時代、少し「昭和くさい」と言われるかもしれませんが、喫茶店でもいいし、誰かの下宿先に集まってお酒を飲みながらでも良いです。
社会人になると、「本当の友達」を作るのは難しくなると思います。
私自身、学生時代に青臭い議論を交わした仲間とは、未だに繋がっています。
何十年経っても仕事のヒントをもらったり、困った時に助け合ったりできるのです。
かっこつけずに本音で語り明かす経験は、今の皆さんに「まだまだ足りない」と感じています。
「就活の教科書」編集部野口
菅田先生のお話から、小手先のテクニックではなく「本質的な人間力」や「教養」が重要であるという強いメッセージを感じました。
貴重なお話をありがとうございました。

