【インタビュー】高田短期大学 廣田千明教授|AI時代に活きる“プログラミング的思考力”とは?

「就活の教科書」編集部小林

こんにちは!「就活の教科書」取材チームの小林です。

本日は、高田短期大学の廣田千明教授にお話を伺いました!

この記事を読めば、「プログラミング的思考力とは?」「AI時代に必要な考え方」について知ることができます。

「就活の教科書」編集部小林

廣田先生、本日はよろしくお願いします。

よろしくお願いします。

廣田 千明教授

 

Profile

廣田千明

廣田 千明(ひろた・ちあき)
高田短期大学 キャリア育成学科オフィスワークコース 教授

東京理科大学理工学部数学科卒業、東北大学大学院情報科学研究科博士前期・後期課程修了。博士(情報科学)。
秋田県立大学にて助手・助教・准教授を経て、2025年より高田短期大学教授を務める。
専門はプログラミング教育、数値解析学。
2005年・2020年に日本応用数理学会論文賞を受賞。秋田県子どもプログラミング教育研究会を設立し、各種コンテストの開催に協力。また、教員研修講師や行政委員(秋田県・伊勢市など)としても地域教育に幅広く貢献している。

高田短期大学 廣田千明教授にインタビュー①:情報技術の進化と社会の変化

生成AIの登場による社会の変化

「就活の教科書」編集部小林

廣田先生は情報科学がご専門とのことですが、最近の情報技術の変化についてどう感じていますか?

これまでの人生の中で、今が一番の情報技術の進化を感じています。
特に生成AIの登場は、社会の根底を揺るがすほどのインパクトがあります。

これまでも技術は徐々に進歩してきたとは思いますが、振り返ると今の変化は本当に大きい

だからこそ、「今この変化にどう対応するか」がとても大事で、私たちはそのための支援をしていく必要があると考えています。

廣田 千明教授

「就活の教科書」編集部小林

スマホが登場した時よりも、今の方が情報技術が進化しているのですね!

例えば以前の進化って、「お金を使わずにスマホでQRコードを見せて支払いができるようになった」みたいなものでしたよね。
確かに便利にはなったけれど、それだけで人間に必要な能力そのものが大きく変わるようなことではなかった

でも、生成AIが登場したことで、状況は一変したと思います。
勉強すべき内容も、社会で必要とされるスキルも大きく変わりました。

これは、“働き方そのもの”が生成AIがある時代とない時代でまったく違うものになってきていると感じるからです。

廣田 千明教授

「就活の教科書」編集部小林

AIの登場により、仕事のあり方もものすごく変化していますよね!

 

「失われた30年」を生んだ背景

「就活の教科書」編集部小林

日本の情報技術力は高いイメージがありますが、実際にはどうなんでしょうか?

世界のトップ企業の多くは情報系の企業ですが、日本はその分野でやや遅れを取っていると感じています。
だからこそ、情報分野の人材育成がこれからますます重要だと思っています。

廣田 千明教授

「就活の教科書」編集部小林

具体的に日本がどのような部分で“遅れを取っている”のでしょうか?

いわゆる「失われた30年」という言葉がありますが、これは日本が経済的に停滞していた期間を指しています。
30年前、日本企業は世界のトップ企業ランキングに数多く名を連ねていて、時価総額上位10社のうち7社が日本企業だったほどです。

ところが現在、そのトップ10には日本企業は1社も入っておらず、代わりに並んでいるのはApple、Google、Meta(旧Facebook)など、情報系企業ばかりです。中には30年前には存在すらしなかった企業も多い。

それに比べて日本は、30年前と変わらず製造業中心で、世界に知られた情報系の企業はほとんどありません。
その結果、世界の富は情報系企業に集中し、日本はその流れに乗りきれていないという印象があります。

廣田 千明教授

「就活の教科書」編集部小林

日常的によく使うアプリを考えてみても、確かに開発元は日本でなく海外のものばかりですね…!

今の世界の企業のトップは情報系企業が占めていて、その時価総額は“六百兆円”というレベルで、国家予算と比較できるほどなんです。
一方で、日本の情報系企業の時価総額はせいぜい十兆円程度。桁が違います。

だからこそ、情報分野で本当の意味でイノベーションを起こし、世界レベルの大きな利益を生み出す企業が、日本からも出てこなければならないと感じています。

廣田 千明教授

 

「コードを書く力」そのものの価値の変化

「就活の教科書」編集部小林

廣田先生は、小中学生向けにもプログラミングの授業をされていますよね!

プログラミングの技術の必要性に関してはどのように考えられていますか?

実はここ1年で、プログラミングの「力」の価値は大きく下がったと感じています。
というのも、もう自分でコードをカチャカチャ打たなくても、「こういうプログラムを作って」と言えば、生成AIが作ってくれる時代になったからです。

ChatGPTのようなAIの登場で、会話するだけでプログラムが生成できるようになり、従来の「コードを書く力」そのものの価値が変わってきているのです。

廣田 千明教授

「就活の教科書」編集部小林

AIが登場したことで、新しく「AIを使える力」もより重視されるようになってきましたよね。

 

高田短期大学 廣田千明教授にインタビュー②:情報・プログラミング教育の必要性

AI時代だからこそ必要な「論理的思考力」

「就活の教科書」編集部小林

AIによって自分でコードを書かなくてもいいという中で、廣田先生はなぜプログラミング教育をされているのでしょうか?

生成AIの発展で、コードを自分で書かなくてもプログラムが作れる時代になりましたが、それでもプログラミング教育は重要だと思っています。

なぜなら、プログラミングを通じて「物事を順序立てて考える力」や「条件に応じて行動を決定する力」など、論理的思考が自然と身につくからです。

文部科学省も「プログラミング的思考」として、これを学習指導要領に盛り込んでいます。

AIが主役になる時代だからこそ、AIに正確に指示を出すために人間側の論理的に考えられる力がますます求められています。

廣田 千明教授

「就活の教科書」編集部小林

論理的に考えられることの重要性がますます高まるのですね!

 

プログラミング的思考:ゴールを意識し、そこに向かって筋道立てて考える

「プログラミング的思考」とは、目的に向かって手順を考え、試行錯誤しながら修正を加えていく思考プロセスのことです。
文部科学省もこの考え方を重視しています。

大事なのは、最初に「ゴール」をしっかりと定めること。
プログラムは一発で成功することは少ないので、ゴールに向けて何度も改善を繰り返し、論理的に近づいていく力が必要です。

逆に、ゴールが曖昧だったり、なんとなくうまくいったからOKというやり方では、論理的思考力は身につきません。

だからこそ、「ゴールを意識し、そこに向かって筋道立てて考える力を育てる」ことが今後ますます重要になってきます。

廣田 千明教授

「就活の教科書」編集部小林

プログラムって順序立てて一からしっかり考えないと、全然動きませんよね…

それと同じ力が生きていく上でもとても重要なのですね!

 

論理的思考力の欠如が生む誤解と課題

論理的思考力が不足すると、社会制度やテクノロジーに対する誤解が生まれます。

例えばマイナンバーカードについて、「持ちたくない」と言う人がいますが、実際はカードがあってもなくても、すでにマイナンバーで個人情報は管理されているのです。
カード自体はデジタル社会での本人確認ツールとして活用されるもので、本来は便利なもの。

しかし、正確な情報を理解できていないために、不安や誤解から反対してしまう人がいる。
こうした背景には、子どもの頃からの情報教育や論理的思考力の育成が不十分だったことがあると感じています。

廣田 千明教授

「就活の教科書」編集部小林

本質を理解できずに、批判してしまう人は、情報教育や論理的思考力が不十分だったのですね…

 

プログラミングに親しんでもらうための授業

「就活の教科書」編集部小林

小学生や中学生に向けていきなり「コードを書いてみよう!」みたいなことは難しいと思いますが、授業はどのように進めていますか?

文部科学省は学習指導要領を定めていて、小中高の先生方はそれに従って授業をしています。
2017年の改訂では、小学校でプログラミング教育を導入することが決まりました。

といっても、本格的なコーディングではなく、「Scratch」などのツールを使って、ゲームを作るような簡単で楽しい体験を通して、プログラミングに親しんでもらうことが目的です。

中学校ではさらに少しレベルを上げ、高校では「情報Ⅰ」という新しい科目がスタートしました。
ここではより本格的にプログラミングや情報の学びが行われるようになっています。

廣田 千明教授

「就活の教科書」編集部小林

まずは、プログラミングに親しんでもらうことを目的としているのですね!

また、プログラミングは単に技術的なものではなく、楽しく学べるものですし、それを通して他の教科の学びもより深く、楽しくなると考えています。

廣田 千明教授

 

高田短期大学 廣田千明教授にインタビュー③:大学でのキャリア教育とこれからのキャリアの考え方

「即戦力人材」の育成

「就活の教科書」編集部小林

高田短期大学キャリア育成学科オフィスワークコースでは、どのようなことを教えていますか?

高田短期大学の大きな特徴として、就職に直結する実践的な教育を行っている点があります。

たとえば「キャリア育成学科」では、事務職やホワイトカラーとして活躍できる人材を育てる「オフィスワークコース」と、介護分野の人材を育てる「介護福祉コース」が設けられています。

また、授業では電話の受け方、お茶の出し方、タクシーでの座席のマナーなど、ビジネスマナーの基本も丁寧に教えています。

これは、社会に出てすぐに活躍できる「即戦力」としての力を育てるためです。

廣田 千明教授

「就活の教科書」編集部小林

社会人になる前に、ビジネスマナーの基本を学ぶことができるのはとてもいいですね!

 

「段階的キャリア形成」:学び続ける社会人への意識

四年制大学では、こうしたビジネスマナーを教える機会がほとんどありません
そのため、就職してから「こんなことも知らないの?」と戸惑われる場面があるのが現実です。

だからこそ、四年制大学も短大のような実践的な教育の良さを取り入れていくべきだと感じています。

実社会へのスムーズな適応には、知識だけでなく基本的なマナーや常識も必要不可欠です。

廣田 千明教授

「就活の教科書」編集部小林

四年制大学では、社会で実践的なスキルの教育などはあまりありませんね…

四年制大学が短大のような実践教育を一部取り入れるのも良いですが、それとは別に、「短大 → 社会人 → 四年制大学 → 大学院」といった、段階的にキャリアを築いていける柔軟な進路も必要だと思います。

たとえば、短大で基礎力をつけて就職し、数年働いた後にスキルアップのために大学へ編入、さらに必要があれば大学院へ進学というように、学びと仕事を交互に繰り返すスタイルです。

これは海外では一般的な考え方ですが、日本ではまだまだ浸透していません。

廣田 千明教授

「就活の教科書」編集部小林

社会に出てから大学へ行くという考えはなかったです…!

日本では「大学を出たら、もう勉強は終わり」と考えられがちです。
しかし、今のような変化の激しい時代では、社会人になってからも継続的に学び続けなければ、働き続けることすら難しくなっています

学び直しやキャリアの再設計が当たり前になることで、労働生産性も上がり、より効率的な働き方が実現できるはず。

日本も、もっと柔軟で多様なキャリアのあり方を許容する社会になっていくべきだと強く感じています。

廣田 千明教授

「就活の教科書」編集部小林

大学を出たら勉強が終わりなのではなく、社会人になっても学び続ける姿勢が必要なのですね。

 

AI時代で「新しい仕事」に備える姿勢

「就活の教科書」編集部小林

「AIによって仕事がなくなる」と言われる中で、どのような力が必要になってくるのでしょうか?

産業革命の時のように、AIの登場によって一部の仕事がなくなるのは自然な流れです。
かつて手作業で行っていた作業が機械に置き換わったように、今後は単純な事務作業などがAIに取って代わられるでしょう。

しかしその分、新しい仕事も生まれるはずです。
AIを使いこなす仕事や、AIが出した結果をチェック・評価する仕事などが代表例です。

ただし、今の段階では「次に何が求められるのか」はまだ明確になっていないため、現時点では幅広く学び、どんな未来にも対応できる力を備えておくことが重要です。

廣田 千明教授

「就活の教科書」編集部小林

失われてしまう仕事ばかりを考えてしまうのではなく、「新しい仕事」に着目することも重要ですね!

 

高田短期大学 廣田千明教授から就活生へのメッセージ

「就活の教科書」編集部小林

廣田先生、ありがとうございました。

最後に、就活生へのメッセージをお願いします!

生成AI時代は「やりたいことに専念できる」社会へ

生成AIの登場によって「仕事が奪われる」と不安視する声もありますが、私はむしろ「やりたくないことをAIに任せ、やりたいことに専念できる時代が来る」とポジティブに捉えています。

たとえば、「発表が苦手」という学生に無理に発表を強いるよりも、音声読み上げでプレゼンをAIに代行させ、自分は中身の企画や制作に集中する方がよいのではないかと感じています。そうすれば、自分の得意分野を最大限に活かすことができます。

これからの社会では、「好きなこと」「得意なこと」を追求する姿勢こそが重要になります。

他の人と違う視点や強み=“オンリーワン”の価値を育てることが、AI時代における最大の武器になると考えています。

廣田 千明教授

 

「運の良さ」は考え方で決まる

何が起こっても、それを「良いこと」と捉えて活かしていく姿勢が大切です。

生成AIの登場や社会の変化に対しても、「仕事が奪われる」と悲観するのではなく、「自分のやりたいことに集中できるチャンス」と捉えるほうが得だと思います。

私は、人生で起こることを「どう活かすか」を常に考えてきました。

サイコロを振って「6」が出たらラッキーだと考える人は、6分の1しかチャンスがありません。
でも私は「4」が出ても「4で良かった」と思えるように、それを活かすように工夫します。

だから、何が出ても「運が良かった」と言える。これが本当の“運の良さ”だと思っています。

授業では、これまで線形代数やプログラミングなどのテーマを扱ってきましたが、授業の雑談の中でこうした「前向きに生きる姿勢」や「人生の捉え方」も学生たちに伝えるようにしています。

学問だけではなく、人生に役立つ考え方を一緒に学んでもらいたいと思っています。

廣田 千明教授

「就活の教科書」編集部小林

素敵なお話をたくさんありがとうございます。

廣田先生、本日は本当にありがとうございました!

Chiaki HIROTA 廣田千明
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