【インタビュー】摂南大学 平尾智隆教授|就活生が見落とす『社会制度』と長い目で見るキャリアとは?

「就活の教科書」編集部チェスンウ

こんにちは!「就活の教科書」取材チームのチェです。

本日は、摂南大学の平尾智隆教授にお話を伺いました!

平尾教授、本日はよろしくお願いします。

よろしくお願いします。

平尾 智隆教授

Profile

平尾智隆

平尾 智隆(ひらお・ともたか)
摂南大学 経済学部 経済学科

専門分野は労働経済学、教育経済学。教育を受けたことが賃金や昇進、社会的地位にどう影響するか(教育の労働市場効果)を専門に研究している。学生支援センターでの勤務経験もあり、学生の進路決定やキャリア形成支援にも深い知見を持つ。

 

摂南大学 平尾智隆教授にインタビュー①:教育が労働市場でどう影響するのか?

研究テーマ:教育の労働市場効果

「就活の教科書」編集部チェスンウ

さっそくですが、平尾先生の研究されているテーマについて教えてください!

私は「教育の労働市場効果」について研究しています。

具体的には、教育が賃金や昇進、最終的な社会的地位といった労働市場でのアウトカムにどう影響するかをテーマに研究を進めています。

平尾 智隆教授

「就活の教科書」編集部チェスンウ

教育とは、大学卒業までのことでしょうか?

私の主な研究対象は大学卒と大学院卒です。

「大卒が高卒と比較してどれだけ賃金が高いか」という研究は多くありますが、「大卒に比べて院卒が就職しやすいのか、賃金が高いのか」という研究は不足しています。

平尾 智隆教授

 

「人的資本理論」と「シグナル理論」

「就活の教科書」編集部チェスンウ

実際に教育が与える影響について教えてください。

教育あるいは学歴が就職や賃金に影響を与えることについて、経済学では主に2つの理論があります。

1つ目は「人的資本理論」です。

これは、教育によってスキルが向上し、そのスキルから生じる高い生産性によって高い賃金が得られるという考え方です。

2つ目は「シグナル理論」です。
これは、教育内容や獲得したスキルに関わらず、大卒という「肩書き」(学歴)自体が、就職活動時に優秀さのシグナルになるという考え方です。

平尾 智隆教授

「就活の教科書」編集部チェスンウ

就活において、学歴を重視している企業もあるのかなと思ってしまいますね…

この2つの理論は経済学において長年議論されています。

個人的な見解として、キャリア形成という視点からすれば、「教育を受けたことがスキルを高め、それが賃金に影響している」という人的資本理論の方が妥当性は高いと考えています。

平尾 智隆教授

「就活の教科書」編集部チェスンウ

どこの大学に行ったかよりも、何を学んだのかがキャリアにおいては重要だとお考えなのですね!

 

摂南大学 平尾智隆教授にインタビュー②:就活生が知るべき「日本型採用」

日本の採用構造:教育と職業の結びつきの薄さ

「就活の教科書」編集部チェスンウ

日本では「大学で学んだことと就職先が結びつかない」とよく言われますが、文系と理系では大きく差があるのではないでしょうか?

日本では、教育と職業が直接結びつく度合いが非常に薄いです。

医学部、看護学部、薬学部といった国家資格と関係している学部は、教育が直に職業スキルにつながります。

しかし、日本においては、どの学部で何を学んだかという学部の違い自体が、就職活動において評価されるわけではありません

大学での学習内容に違いがあるにもかかわらず、それが就職活動において評価される世の中ではないのです。

平尾 智隆教授

「就活の教科書」編集部チェスンウ

文系の大学院へ行く人が少ないのも関係があるのでしょうか?

就職活動に関しては、文系の大学院が一番困難な状況にあります。

理系の修士・学部卒、文系の修士・学部卒で就職状況を比較する研究を実施したところ、一番就職状況が悪かったのが、「文系修士」だという結果が出ています。

つまり、文系大学院卒の学歴は、就職活動の時点で直接的に評価されにくい、というのが日本の労働市場の現実ですね。

平尾 智隆教授

「就活の教科書」編集部チェスンウ

大学院へ行って学んでいるのに、それが評価されないというのはなかなか厳しいですね…

 

企業が「大学で何を学んだか」を重視していない現状

今は「文理不問で採用している」企業が多いですし、理系的な業務でも「理系的素養があれば、あとは社内で育てます」という姿勢が見られます。

平尾 智隆教授

「就活の教科書」編集部チェスンウ

「文系エンジニア」が増えている背景にも繋がりますね。

入社時、企業は「大学で何を学んだか」をあまり重視しません。

それよりも、選考時は学生が企業文化にフィットするかに重点を置き選抜し、採用後に社内で人材育成を行うという考え方です。

かつて、矢野眞和という教育社会学者がこのような学校と企業の関係を「効率的な分離」と表現しましたが、実に言い得て妙です。学校は高い基礎学力を、企業は企業特殊的なスキルを、それぞれ労働者に付与し、この関係性が日本的雇用慣行の礎ともなりました。

しかし、この分離構造が有効だった時代は過ぎ去りつつあります。

今後は、分野によってはある程度の融合が求められるでしょう。

平尾 智隆教授

「就活の教科書」編集部チェスンウ

以前の企業は「大学で何を学んだか」をあまり重視していなかったのですね。

 

研究結果:就職活動の成果に影響するのは主に大学の偏差値

「就活の教科書」編集部チェスンウ

人的資本理論では、就職や賃金につながるのは教育内容やスキルでしたが、採用の際に実際に企業が見ているのは教育の中身なのでしょうか?

以前、「College Quality」(大学の質)の効果を測る研究をしました。

学生一人あたりの教育費や偏差値(大学ランク)など、多様な数値を分析しました。

結果、教育関連の経費や外部資金などの指標は就職の成果に影響を及ぼさず、就職の成果に強い効果を持っていたのは、大学の偏差値でした。

つまり、現在でも、就職活動の成否は、結局のところ入学時(18歳時点)の学力選抜の結果でしかない、という現実があるのです。

平尾 智隆教授

「就活の教科書」編集部チェスンウ

なぜ就職活動では大学の偏差値ばかり見られてしまうのでしょうか?

大学の偏差値は、企業にとって最もわかりやすく、説得力のある評価指標だからです。

まず偏差値で判断し、その上で面接をして会社の風土に合うかを見極めます。

そのため、教育内容はあまり気にされていません。

採用担当者に聞いても、「この学部の人材が欲しい」という要望は、ほとんどないのが実情です。

ただ、これだけでは身も蓋もない話になってしまいますので、他の研究からわかっている、大学ランクに関わらず就職活動を成功に導く他の要因についてもお話ししておきます。それは、学業成績、サークル経験、アルバイト経験です。
まず、学業成績ですが、大学は学問を修めるところですから、当然ながら大学ランクに関係なく学業成績が悪い学生よりもそれが良い学生の方が就職活動結果が良くなるという研究結果が得られています。
次に、サークル経験ですが、これについてもサークルに所属していない学生よりも所属している学生の方が就職活動結果が良くなるという研究結果が得られています。一昔前は、体育会系学生の気質やOBネットワークが就職に有利に働くということが言われましたが、学生時代の多様な経験が何らかの非認知能力を高めている可能性もあります。
最後に、アルバイト経験ですが、アルバイト経験のない学生よりもアルバイト経験のある学生の方が就職活動結果が良くなるという研究結果が得られています。当然ながら、学生は就労経験に乏しいわけですが、その中でも「働いたことがある」という経験が何らかのシグナルになっている可能性があります。
大学入試の結果が影響するという側面は拭えませんが、学業、サークル、アルバイトと、前向きな学生生活を送ることが就職活動の成否に繋がるのだといえます。

平尾 智隆教授

 

摂南大学 平尾智隆教授から就活生へのアドバイス「社会の制度を理解し、人生に生かす」

「就活の教科書」編集部チェスンウ

平尾先生、ありがとうございました。

最後に就活生に向けて、アドバイスをお願いします!

多くの学生は、就活が人生における最大のチャンスであるということが理解できていないように思います。
就活において内定を獲得することが重要であると知っていても、その決定と行動が自分の人生にどういう意味を持つのかを、まだ十分に理解できていないようです。

平尾 智隆教授

「就活の教科書」編集部チェスンウ

就活は就活、人生は人生で別の話だと考えていました。

就活生には、社会の制度(社会がどう動いているか)ということをしっかりと捉えられるようになってほしいです。

その上で、社会の制度が、自分の人生にとってどのような意味を持つのかを深く考えてほしいです。

これが、就職活動、さらにはその先の人生を豊かにしていくことに繋がります。

話は少しズレますが、例えば年金という制度を例に考えてみましょう。 特に学生は「学生納付特例制度」によって国民年金保険料の支払いが猶予されているのですが、これを「免除」だと勘違いしている人が非常に多いです。
猶予は、支払いを先延ばしにしているだけで、免除と違い後々に払わないと将来の年金受給額が減ってしまいます。
しかし、このような大原則を押さえて行動していれば、将来受け取る年金受給額は守られます。
こうした基本的な社会制度を知っているか知っていないかで、人生は大きく変わります。就職活動やキャリア形成についても同じです。

社会の制度を知ることで自分の人生に生かしてほしい。

これが私の伝えたいメッセージです。

平尾 智隆教授

「就活の教科書」編集部チェスンウ

貴重なお話をたくさんありがとうございました!

平尾 智隆|摂南大学