「就活の教科書」編集部チェスンウ
こんにちは!「就活の教科書」取材チームのチェです。
本日は、順天堂大学国際教養学部の平林正樹特任教授にお話を伺いました。
平林先生、本日はよろしくお願いします!
よろしくお願いします。
平林 正樹 特任教授
平林 正樹(ひらばやし・まさき)
順天堂大学 国際教養学部国際教養学科 特任教授
キャリア論・人的資源管理論を専門とし、ものづくり中小企業の人材育成や海外派遣者研究を中心に活動。
国家資格キャリアコンサルタントとして、就活生や社会人に「働く意味」や「内的キャリア」の重要性を伝えている。
目次
順天堂大学 平林正樹特任教授にインタビュー①:キャリアの本質とは?
内的キャリアと外的キャリア――“充実”を決めるのは自分
「就活の教科書」編集部チェスンウ
さっそくですが、“良いキャリア”というのはどのようなものですか?
キャリアを判断する基準として「内的キャリア」と「外的キャリア」があります。
- 外的キャリア:学歴、企業名、年収など目に見えるもの
- 内的キャリア:価値観、働きがい、成長実感など自分の内側にあるもの
世間が言う「良い会社」「有名大学から官庁」などは、その人にとって本当に充実したキャリアかは別問題です。
大事なのは内的キャリア――自分にとって満足できるかどうか。
周囲の声に流されず「私はこういうキャリアに満足する」と言えることが大切です。
平林 正樹 特任教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
自分にとって「大手に入って数千万稼ぐ」ことが満足であればそれでもいいのでしょうか?
それが本当に自分の価値観に合うならいいと思います。
ただ、そのために家庭を犠牲にして長時間働くのを厭わないかは別問題です。
今の学生はドライで「ワークライフバランス」を重視しますよね。年収と充実感は必ずしも比例しません。
だから知名度や収入を目的にするのではなく、自分にとって充実できるキャリアを目指すことが大切なんです。
平林 正樹 特任教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
収入だけで本当に満足できればいいですが、なかなか難しいですよね…
就活の出発点は自己理解
「就活の教科書」編集部チェスンウ
外的キャリアは学歴や年収などと分かりやすいですが、内的キャリアはどう気づいたらいいのでしょうか?
ただ日々を過ごしているだけでは気づきません。
就活の出発点は自己理解。
「自分はどんな環境や人間関係でワクワクするのか」を見つけることです。
ジョハリの窓やRIASECのようなツールもヒントになります。
ただし、結果を鵜呑みにせず自分の経験と結びつけて「確かにあの時楽しかった」と言語化することが大切です。
ツールは“結果”ではなく“気づきのきっかけ”。過去の体験に照らして言語化するところまでが自己理解です。
平林 正樹 特任教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
内的キャリアは、自己理解の先にあるのですね!
「会社を選ぶ」のではなく、自分の価値観に合う場所を探すのが就職活動
「就活の教科書」編集部チェスンウ
就職活動では、企業にウケが良いように“自分を繕ってしまう”ことが少なくないと思います。
一部だけ取り繕って入ったら、会社の期待と本当の自分にズレが生じます。
その違和感は消えない。だから「会社を選ぶ」のではなく、自分の価値観に合う場所を探すのが就職活動なんです。規模や知名度は結果にすぎません。
平林 正樹 特任教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
就職活動は自分の価値観の合う場所を探すことだからこそ、その原点である自己理解が重要なのですね!
自分の人生・キャリアは人任せにせず、自分自身で考える
「就活の教科書」編集部チェスンウ
変化が激しい不確実な時代と言われる中で、人生やキャリアはどの程度まで自分で選べるものなのでしょうか?
国や経済、政治体制など環境の影響は当然あります。でも、だからといって人任せにしてはいけないんです。
親や先生が支援してくれても、最終的に右へ行くか左へ行くかを決めるのは自分。
かつては「会社に任せておけば安心」と言えた時代もありましたが、バブル崩壊以降はそうではなくなった。
企業も「自分の人生は自分で考えて」と堂々と言う時代です。
だから今の若い人たちは「成長できないなら転職します」と自然に言えるようになった。それが当たり前になってきているんですよ。
平林 正樹 特任教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
昔は終身雇用が当たり前でしたが、今は転職が当たり前の時代になり、自分のことをしっかり考える必要性が増したのですね。
順天堂大学 平林正樹特任教授にインタビュー②:自己理解のポイント
就活に必要な“自己理解”は「就職先を選ぶための判断基準を知る」こと
「就活の教科書」編集部チェスンウ
自己理解・自己分析で困っている就活生がとても多いです…
自己理解のポイントはありますか?
自己理解は「就職先を選ぶための判断基準」を知ることなんです。
ここで間違えてほしくないのは「自分探し」とは違うということ。
自分探しは一生かけても答えが出ないかもしれない。
でも就活に必要なのは、どんな基準で会社を選ぶかを理解すること。
あまりに深刻に考えすぎて混乱してしまうのは本末転倒ですよ。
平林 正樹 特任教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
自己理解というと大きく考えすぎてしまいがちですが、「就職先を選ぶための基準」を知るということなのですね!
世の中を知るほど選択肢は広がる
「就活の教科書」編集部チェスンウ
「将来やりたいことがわからない」という学生はどうしたらいいのでしょうか?
20年そこそこ生きただけで世の中を全部知れるわけない。
だから「やりたいことが見つからない=就職できない」と考える必要はありません。
世の中を知るほど選択肢は広がるのです。
そのために新聞を読むのは一番コスパがいいと思います。特に日経新聞は取材が細かくておすすめですね。
平林 正樹 特任教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
そもそも知らなければ、その職業を選ぶことすらできないですもんね…!
知らなければ選べないんです。
だから学生ももっと世の中を知ることが大事です。
最近はYouTuberやゲーマーが人気ですが、それも身近だから選んでいるにすぎません。
平林 正樹 特任教授
大人と話をすることで、視野が広がる
「就活の教科書」編集部チェスンウ
就活において、インターンシップは学生にとって“知る”ための貴重な機会ですが、先生はどうお考えですか?
最近は「インターンシップ」という名の会社説明会や、実質的な選考会が増えています。
選考すること自体は悪くありませんが、本来インターンとは「就業体験」です。
社員と同じフロアで働き、食事を共にし、ときにはお客さんにも同行する――そういうリアルな体験こそがインターンシップです。会議室での座談会やグループワークだけでは、本当の就業体験にはなりません。
平林 正樹 特任教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
実際に「インターンに参加してみたけど、ただの会社説明会だった」という話はよく聞きますね…
インターンシップの課題として、他に挙げられることはありますか?
“長期インターン”の名目で実質アルバイト扱いなのに、最低賃金に届かないとか雇用保険に未加入であるなどの問題もあります。
だから学生も見極める目を持たなければなりません。
そのためには新聞や本を読む、大人に話を聞くことが大切です。同級生同士で語り合っても視野は広がらないんですよ。
平林 正樹 特任教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
学生が社会人と話すのは緊張しますが、その分吸収できることが多くて成長できますよね!
そのつながりから別の人にも会えるよう、ネットワークを広げる努力をするともっと良いです。
学生は立場的にいろんな人に会いやすいですから。
積極的に動く学生と家に閉じこもる学生とでは、4年間で大きな差がつきますよ。
平林 正樹 特任教授
働くは「傍を楽にする」
「就活の教科書」編集部チェスンウ
そもそも、人はなぜ働かなければならないのでしょうか?
社会は一人ひとりが能力を発揮して支え合う仕組みで、その方法が「働く」なんです。
働くは「傍を楽にする」、つまり周りを助けること。
誰かを助け、その感謝が報酬として返ってくる。これがお金を介した価値の循環です。
さらに働くことで「世の中に役立っている」という実感ややりがいを得られ、それが成長の原動力になるんです。
キリスト教では原罪ゆえに働くと言いますが、日本ではむしろ「互いに助け合い、能力を発揮し合う」ことが働く意味だと考えられます。
平林 正樹 特任教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
働く意味はお金を稼ぐことに重きを置いてしまいがちですが、それは本質ではなく、一人一人が能力を発揮して支え合うことが本当の働く意味なのですね!
順天堂大学 平林正樹特任教授にインタビュー③:日本の今の雇用状況とこれからのキャリア
雇用モデルは高度経済成長期のモデルのまま
「就活の教科書」編集部チェスンウ
日本の雇用の現状はどのようなものでしょうか?
バブル崩壊で社会のルールは大きく変わったのに、日本は高度経済成長期のモデルをそのまま引きずっているのです。
新卒一括採用はその典型例です。
本来は変化に合わせて制度も進化すべきですが、昔のやり方のほうが都合がいい人たちがいて、むしろ変えさせまいと働いているように見えます。
大企業や中小企業の問題というより、その「変化を阻む勢力」の存在が原因なんじゃないかと思います。
平林 正樹 特任教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
時代の流れは大きく変化しているのに、雇用モデルは変わっていないのですね…
日本が「変化を起こすのが苦手」なのは、なぜでしょうか?
前の世代が築いた戦略ややり方を改めることは、自分を育ててくれた人たちへの反論と受け取られがちなんです。
だから劇的な変化はなかなか起きない。
対照的にアメリカは移民や若者の起業が多く、しがらみのない新しい挑戦ができる土壌がある。
でも日本はそこが弱いんですよね。もちろん、悪い面ばかりではなく期待もしていますが。
平林 正樹 特任教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
昔から染み付いてきた考え方というのはなかなか変えられないですよね…
日本では99.7%が中小企業:日本経済の土台を支えるのは中小企業
「就活の教科書」編集部チェスンウ
日本は中小企業が多いと聞きますが、実際にはどうなんでしょうか?
実は事業所数で言うと99.7%が中小企業なのです。
働く人も7割が中小企業所属です。
ただ、多くの人は大企業ばかりに目が向いていますよね。
けれど日本経済を土台から支えているのは中小企業で、そこで何が行われているのかをもっと見ていく必要があります。
だから私はインタビューを通じて実態を詳しく知りたいと考えているんです。
平林 正樹 特任教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
就職活動では、多くの人が大企業だけに注目してしまいがちで、中小企業に対しての興味が薄いイメージがありますね。
経験や知識を蓄積し、それを生かして次の仕事にシフトしていく
「就活の教科書」編集部チェスンウ
人生100年時代と言われる中で、働き方はどう考えればいいのでしょう?
20代や30代と同じ働き方を60代・70代まで続けるのは無理です。
だからこそ若いうちから経験や知識を蓄積し、それを生かして食べていける仕事にシフトしていく必要があります。
目の前のことに全力を尽くせば自然と専門性が身につき、気づけば「この分野なら自分だ」と言えるものができます。
私自身も55歳で大学教員に転職し、それまでの経験を若い人に伝えることでやりがいを得ました。
将来必ずそういう時が来るので、長い視点でキャリアを考えてほしいですね。
平林 正樹 特任教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
時代の変化・年齢に合わせて自分のキャリアを生きていくことが重要ですね!
組織は働く人に寄り添い、キャリアや成長を支援する環境を整えることが求められる
「就活の教科書」編集部チェスンウ
これからの時代、企業にはどんな姿勢が求められるのでしょうか?
今は優秀な人材ほど「成長できるかどうか」で会社を選びます。
だから組織は働く人に寄り添い、キャリアや成長を支援する環境を整えなければなりません。
それを怠れば優秀な人から辞めていく。まさに今は、その意識への転換期にあると思いますね。
平林 正樹 特任教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
キャリアの在り方が変化している中で、企業をはじめとした組織も変化が求められているのですね!
順天堂大学 平林正樹特任教授から就活生へのメッセージ
「就活の教科書」編集部チェスンウ
貴重なお話をたくさんありがとうございます。
最後に、就活生へのメッセージをお願いします!
就職はゴールではなくスタートライン
人生100年時代において、就職は社会人としての長いキャリアの出発点に過ぎません。
就活は「ゴール」ではなく、これからの人生をどう歩むかを考えるためのスタートラインです。
日本特有の新卒一括採用制度は、世界的にも珍しい仕組みです。
大学生は本来、学業に集中すべき大切な時期を削って就職活動をしていますが、この制度も徐々に変わりつつあります。とはいえ、まだ完全にはなくなっていません。
平林 正樹 特任教授
企業と社員は対等なパートナー
かつては「企業が上、社員が下」という意識が根強くありました。しかし現代では、企業も社員も共にお客様へ価値を届ける対等なパートナーです。
企業は成長環境を用意し、社員はその場で力を発揮する――そんな双方向の関係が求められています。
今は人手不足の時代で、学生の就職環境は恵まれています。
だからこそ、皆さんには「自分の価値観=内的キャリアを実現できる会社はどこか」という視点で企業を選んでほしい。
会社の規模や知名度、親や周囲の意見に左右される必要はありません。
就職活動は、自己理解に基づいて「自分に合う場所」を見つける作業です。これを意識して、自分らしいキャリアを切り拓いていってください。
平林 正樹 特任教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
素敵なメッセージをありがとうございます!
平林先生、本日は本当にありがとうございました!