【インタビュー】産業能率大学 荒井明教授「自分で選んだ道は、すべて正解」〜不安を自信に変えるキャリアデザイン〜

【インタビュー】産業能率大学 荒井明教授「自分で選んだ道は、すべて正解」〜不安を自信に変えるキャリアデザイン〜

「就活の教科書」編集部野口

「就活の教科書」取材担当の野口です。
今回は、産業能率大学の荒井明教授にインタビューを行いました。
日本キャリアデザイン学会の事務局長を長年務められ、日本のキャリア教育の普及に尽力されてきた荒井先生。
そんな荒井先生に、変化の激しい時代における「キャリアの描き方」について伺いました。
今のキャリアや就活に不安を感じている人は必見です!
Profile

【インタビュー】産業能率大学 荒井明教授「自分のキャリアは自分で創る」荒井 明(あらい あきら)
産業能率大学 経営学部 教授

1991年、株式会社伊勢丹(現:株式会社三越伊勢丹)入社。バイヤー、人事部教育担当などを歴任。キャリアコンサルティングや経営コンサルタントの資格を取得し、富山大学を経て現職。日本キャリアデザイン学会では約10年間事務局長を務めるなど、日本のキャリア教育の普及に尽力している。専門は経営学、キャリア研究、フォロワーシップ。

産業能率大学 荒井明教授にインタビュー①荒井先生の考えるキャリアとは

キャリア形成は電車型から自動車型へ

── 荒井ゼミのキーワードの1つである「自分のキャリアは自分で創る」という言葉が印象的です。どのような背景があるのでしょうか。

荒井教授:「自分のキャリアは自分で創る」は、かつて在籍していた伊勢丹が、キャリア開発に注力し始めた時に標榜していた言葉です。

昔のキャリア形成は、「電車」のように、ある程度敷かれたレールの上を歩いていくような形だったと思います。目的地(ゴール)を決めて切符を買えば、あとは電車に乗っているだけで自動的に運んでもらえたのです。

しかし現代のキャリア形成は「自動車」の運転に似ています。自動車型の場合、まずは「免許を取るか、取らないか」という選択から始まります。免許を取るとなれば、知識や技術の習得と練習が必要です。さらに、免許取得後も選択は続きます。「車を買うか、借りるか、シェアするか」。買うなら「色は赤か白か、小型車かスポーツカーか」。多くの選択肢の中から、自分でハンドルを握って道を選ばなければなりません。

つまり、これまでのように道筋が見えているキャリアではなく、多様な選択肢の中から自ら選んでいくことが、現代のキャリア形成なのです。

 

自分で悩み抜いて選んだ道は「正解」

── 選択肢が多く、悩んでしまう方が多いですよね。

荒井教授:悩み抜いて、自分なりの道を見つけて、選択していく。そして「自分で選んだ道なら、それが正解」なのです。自分が選んだ道が正解だと思えれるよう、自信をつけることも必要です。

時には会社が突然倒産したり、他社と合併や統合があるかもしれません。先のことは誰にも分からない、不確実な時代です。しかし、そうした変化に対応していくことが、これからの時代に求められる力だと考えています。

 

就社ではなく就業を見据える

荒井教授:現在の就職活動は、「どの企業に入るか」を選ぶ「就社」になってしまっていると感じます。私は、本来の「職に就く(就業)」という視点、つまり「職業そのもの」を考えることが非常に大切だと思っています。そのために必要なのが、次の3つの柱です。

キャリア教育の3つの柱
  1. 自己理解:自分自身のことを理解する。
  2. 職業理解:企業名ではなく、仕事そのものの内容を理解する。
  3. 社会理解:世の中で何が起きているか理解する。

荒井教授:特に「社会理解」は重要です。これから社会に何が起こるのかを予測し、それが「自分の選ぼうとする職業にどう影響し、自分の強みをどう活かせるか」を考えることが大切です。

 

海外では、職業を問われると「マーケターです」「コンサルタントです」と仕事を名乗ります。一方、日本人は「〇〇商事です」「〇〇社の部長です」と会社名や役職を名乗る傾向があります。組織という枠組みを超えて、「自分の職業は何なのか」を突き詰めて考えることが大事ではないでしょうか。

 

「弱い繋がり」が新たな視点をくれる

── キャリアに悩んだ時、どのように乗り越えれば良いでしょうか。

荒井教授:そんな時に意識してほしいのが、「ウィークタイズ(Weak Ties)」との繋がりです。ウィークタイズとは、家族や友人のような「強い結びつき」よりも、知り合い程度の「弱い結びつき」の方が、自分に有益な情報をもたらしてくれるという考え方で、社会学者のマーク・グラノヴェッターが提唱しました。

キャリアを歩む上で、家族や親友といった身近な関係だけでなく、「ウィークタイズ(弱い繋がり)」を大切にすることは非常に大きな意義があります。なぜなら、家族や同年代の友人(ストロングタイズ)への相談だけでは視点が偏りやすくなるからです。

例えば、年齢が大きく離れた方や、全く異なる分野で働く人と交流してみましょう。自分では見えていない「自分」を客観的に見てくれたり、アドバイスをもらえたりするでしょう。一年に一度会うか会わないかという距離感の人こそ、自分を客観的に見てくれるのです。多様な人々から得られる示唆は、皆さんのキャリアに新たな可能性をもたらすと考えています。

 

咲ける場所に逃げてもいい

荒井教授:また、今の時代を生きる方たちには、「逃げる場所」も必要だと感じています。「置かれた場所で咲きなさい」という有名な言葉がありますが、私は「咲ける場所に逃げてもいい」と考えています。「何が何でもここで頑張る」と自分を追い詰めるのではなく、自分がキラキラと輝ける場所を求めて移動してもいいと思います。

あまりに自分をがんじがらめにしてしまうと、特に行き詰まってしまいやすいものです。頑張れる場所がある一方で、素の自分でいられる場所や、ほっと一息つける場所も大切です。「サードプレイス」と言われますが、会社や家庭以外の「もう一つの場所」を持ってみることがキャリアを歩む上で支えになります。

産業能率大学 経営学部 荒井明 教授

 

産業能率大学 荒井明教授にインタビュー②荒井ゼミでの実践

「持ち場」を見つける

── こうした職業観を養うために、ゼミではどのような取り組みをされているのでしょうか。

荒井教授:私のゼミでは「持ち場」という言葉を大切にしています。「持ち場」は、集団の中で自分が何をすべきか、何ができるかという役割のことで、東京大学の玄田有史先生が引用されていた言葉です。「持ち場」に立つと、自分にできることだけでなく、できないことも明確に見えてきます。例えば、「発表は得意だけれど、事務作業は苦手」「インタビューは得意だが、議事録作りは不得意」というように、得意・不得意が整理されていきます。

 

ゼミでは、グループでの共同作業を基本とし、プロジェクトごとの「リーダー」や「サブリーダー」は、クールごとに交代させることが特徴です。

  • リーダー経験者:次はフォロワーに回る
  • リーダー未経験者:積極的にリーダーを担う

荒井教授:あえて立場を入れ替えることで、リーダー経験者は「自分がリーダーの時、こう動いてほしかった」という視点を持てるようになります。フォロワーに戻った際、「これを先回りしてやっておけば助かるはずだ」と、相手の立場に立った自律的な行動ができるようになるのです。

 

── 役割を交代することで、立場の異なるメンバーの気持ちがわかるのですね。

荒井教授:これらのプロジェクト活動は、いわば「社会の縮図」です。働き始めれば、規模の大小はあれど、必ず誰かと共同で仕事を進めることになります。立場を変えながら自分の「持ち場」を探す経験を積めば、

「言われなくても、今これをやっておこう」

「指示はされたけれど、優先順位を考えてこちらを先に進めよう」

といった、自律的な思考ができるようになります。こうした「逆の立場を想像して動く力」を養うために、プロジェクトでのメンバーの立ち位置を変更しています。

 

速く歩きたければ、一人で歩け。遠くまで歩きたければ、誰かと一緒に歩け。

荒井教授:私のゼミで、学生たちに必ず伝えている言葉があります。アフリカのことわざで、「速く歩きたければ、一人で歩け。遠くまで歩きたければ、誰かと一緒に歩け。」というものです。

何かをする際、一人で進める方が気を使うこともなく、楽でいいと思うこともあるでしょう。しかし、より大きな目標を目指すのであれば、誰かと一緒に歩む必要があります。そして、それぞれの「持ち場」を活かしながら協力することが不可欠です。

 

今はAIと共存していく時代です。レイ・カーツワイル氏が提唱したように、2045年には「シンギュラリティ(技術的特異点)」が訪れ、人間とAIの立場が逆転するような未来が来るかもしれません。しかし、どのような時代になっても、「人間にしかできないこと」「人間がすべきこと」は存在すると考えています。その中で「自分は何ができるか」という役割を認識し、一生懸命に頑張っていく。そうした姿勢を、これからの時代はより大切にしてほしいと思っています。

 

産業能率大学 荒井明教授にインタビュー③「自分のキャリアは自分で創る」

場数を積み重ねる=キャリア

── 最後に、これから社会に出る学生や若手社会人へメッセージをお願いします。

荒井教授:「新明解国語辞典」という個性的な記述で知られる辞書には、「キャリア」は、単なる経歴より、場数に応じた経験年数というニュアンスで定義されています。例えば、焼き鳥屋さんなら一日に10本焼くのか、あるいは100本焼くのか。それを5年、10年と続けていく中で、踏んできた「場数」によって、築かれるキャリアは全く違ったものになります。場数を踏み、少しずつ積み重ねていくこと。それが私のキャリア観です。

これは、会社が変わったとしても同じです。自分の中に「この職業で生きていく」という意識があれば、勤め先が変わってもキャリアとして繋がっていきます。会社という枠組みよりも、その中でどれだけの「場数」や「経験」を積んできたかが重要だと思います。

 

「自分はどう生きていくのか」を問う

荒井教授:大学の4年間は、よく「人生の夏休み」などと言われますが、多くの学生さんは授業や課題、アルバイトなどに追われ、自由も時間も少ないのが現状だと思います。

しかし、これからの人生は非常に長いです。かつてのような60歳定年ではなく、65歳、70歳、あるいは75歳まで働くことが当たり前になるかもしれません。それほど長く「労働」というものが人生に付きまとうのであれば、一度立ち止まって「働くこと」について深く考える時期が必要ではないでしょうか。

就職活動を単なる「内定を得るための行事」として終わらせるのではなく大学生のうちに「自分はどう生きていくのか」という根源的な問いと向き合うべきだと感じています。

 

「就活の教科書」編集部野口

荒井先生の「咲ける場所に逃げてもいい」「場数を踏めば、それがキャリアになる」という言葉に、私自身も深く勇気づけられました。これからも、悩みながらも自分のキャリアは自分で創ろうと思います。

荒井先生、貴重なお話をありがとうございました!