【インタビュー】岩手大学 渡部あさみ教授 | 長時間労働が続く背景とは?就活生は「労働組合」を要確認

「就活の教科書」編集部チェスンウ

こんにちは!「就活の教科書」取材担当のチェです。

今回は、岩手大学の渡部あさみ教授にインタビューしました。

渡部先生、本日はよろしくお願いします!

よろしくお願いします。

渡部あさみ先生

Profile

渡部あさみ(わたなべ・あさみ)
岩手大学 人文社会科学部 教授

明治大学大学院にて博士(経営学)を取得。 専門は労使関係と人的資源管理。過労死防止学会などに所属し、長時間労働の是正や「働きやすい職場」の条件について研究している。 現在は岩手県労働委員会公益委員なども務め、地方企業の人材確保や定着、女性活躍推進など、現場の課題解決に注力している。

渡部あさみ教授にインタビュー①長時間労働の背景

労働時間と労使関係から見る現代の課題

「就活の教科書」編集部チェスンウ

さっそくですが、先生のご研究内容について教えてください。

私は、「なぜ日本で長時間労働や過労死に至るほどの働き方が存在するのか」という問題意識から、職場の管理体制に着目して研究を重ねています。

特に、労働組合(労使関係)が職場環境の改善にどのように関わっているのかを、経営側といかに議論を重ねながら、労使共同で取り組んでいるのかという視点から調査しています。

私の研究の軸は、日本にまっとうな働き方を展開していくことであり、近年は「地方」という視点を加え、適正な労働時間と職場環境を模索しています。

渡部あさみ先生

 

なぜ日本の職場は疲弊し、人間関係は悪化するのか

1990年代以降、日本の職場の人間関係は非常にギスギスしたものになっています。その大きな要因は、不況期に入り、競争が激化し、少ない資金で人を働かせなければならなくなったことだと考えています。

これは、「なぜ日本の労働時間が長くなるのか」という問題とも関連します。多くの日本企業には、少ない人員で通常業務を行い、忙しくなったら残業で対応するという姿勢があります。

その結果として、以下のような悪循環が生まれています。

渡部あさみ先生

日本の職場の人間関係の悪循環
  • 人員の削減や非正規化が進む
  • 職場で働く人々に焦りが生じる
  • 忙しさで会話が減り、攻撃的になりがちになる
  • 責任の押しつけ合いや、立場の弱い人への攻撃が発生する

「就活の教科書」編集部チェスンウ

人手不足→長時間労働は悪循環ですね。

この状況が、職場の人間関係の悩み、メンタルヘルスの問題、離職・休職者の増加として、2000年代以降も顕著に見られています。

長時間労働は「だらだら仕事をしているから」ではなく、「一生懸命仕事をしていても終わらないから」発生しているのです。

このように人を攻撃せざるを得ない状況や、競争し攻撃し合う組織で長時間働くような状況は、豊かな社会における幸せな働き方なのでしょうか。
私は、このような状況は極めて危険であり、改善の必要性を強く感じています。

渡部あさみ先生

 

地方の魅力と「働き方」・「働かせ方」の課題

「就活の教科書」編集部チェスンウ

豊かな社会ですか・・・

地方と都市の働き方の差も、その「豊かさ」に大きく関わってきそうですね。

都市部は人口密度が高く、毎日通勤が満員電車で大変ですよね。

私は東京での生活を終えて、青森、岩手に住んでおりますが、人混みで悩むことはあまりなく、自然の豊かさのなかでゆっくり呼吸をすることができています。東京とは異なる良さが地方にはあると感じております。

渡部あさみ先生

「就活の教科書」編集部チェスンウ

人混みが少なく、自然が豊かなのは魅力的ですね。

地方にも課題はありますか?

地方では、人口減少が進む中でいかに人材を確保し、育てていくかが大きな課題です。

現在、地方の支社・子会社で働く人々が、本社と同じレベルの働き方ができているのかという点についても聞き取り調査を行っています。

渡部あさみ先生

「就活の教科書」編集部チェスンウ

大手グループ会社は就活生に人気ですが、本社と働き方は違うのでしょうか。

同じ制度があっても、地方では人手不足が続いているため、制度を十分に活用できないケースがあります。

思うように休めなかったり、地方の拠点が持つ機能が本社の機能とは異なるため、テレワークが難しかったりといった状況が生じています。しかし、私が聞き取り調査をしている企業においては、労働組合と人事部が話し合いを重ねて、柔軟な働き方をいかに地方で展開するのかについて検討を重ねています。このように労使が現場の実態を踏まえた話し合いができることは、働きやすい職場づくりに不可欠だと思います。

渡部あさみ先生

 

渡部あさみ教授にインタビュー②「理想の労働時間」と生産性向上のカギ

企業が直面する二律背反:生産性向上と時短

「就活の教科書」編集部チェスンウ

最近はワーク・ライフ・バランスとよく耳にしますし、プライベートの時間を重視している就活生が多いです。

昔はどうだったのでしょうか。

企業は戦後、生産性が向上したら労働時間を短縮するという姿勢を維持してきました。
しかし2000年代以降、少子高齢化社会の到来により、ワーク・ライフ・バランス確立のため、労働時間短縮への社会的な圧力が強まっています。
政府も労働組合も、労働時間を健康的で豊かな社会につながるものに変える認識を強めました。

渡部あさみ先生

 

ブルシット・ジョブの取捨選択と業務効率の向上

「就活の教科書」編集部チェスンウ

OECD(経済協力開発機構)のデータでは日本の平均労働時間は年間2,100時間程度とありますよね。

先進国には1,800時間程度の国もあると思いますが、労働時間はどのあたりが望ましいのでしょうか。

労働組合の中央組織の一つである連合(日本労働組合総連合会)が1,800時間を目標として掲げているので、まずはここを目標とすることが重要だと感じています。

この目標を達成するためには、業務の取捨選択を合わせて考えなければなりません。

多くの組織には「ブルシット・ジョブ(無意味な仕事)」のように、本当に労力を費やす必要があるのか疑問が残る業務があるはずです。

年間1,800時間を目指すなら、業務効率を上げていくことが重要になります。

渡部あさみ先生

「就活の教科書」編集部チェスンウ

「生産性」とよく耳にしますが、業務効率を上げることが大事なのですね!

業務効率を上げることを考える際、これまでの日本の「働き方」・「働かせ方」をいかに変えていく必要があるのかを考えなくてはなりません。この点について、太田肇先生の著書の中では、ある程度まとまった仕事を一人でこなす「自営型」という働き方を提唱しています。また、デンマークの働き方について書かれた針貝有佳さんの著書では、失敗に対する寛容な環境があるため、上司が部下の仕事を細かくチェックしないということが書かれています。
こうした「働き方」・「働かせ方」に関する新しい議論や、海外の事情等を踏まえながら、これからの「働き方」・「働かせ方」を考えてみることも必要です。

渡部あさみ先生

「就活の教科書」編集部チェスンウ

日本と海外では、仕事の進め方や管理のあり方が異なることがあるのですね。

「働き方」だけではなく、「働かせ方」について考えるきっかけになりました!

 

副業ブームと「稼がない時間」の重要性

「就活の教科書」編集部チェスンウ

近年は「副業OK」の企業を選びたい学生が多いですが、副業についてどうお考えですか。

副業は一つの選択肢として否定しませんが、労働時間管理が非常に重要になります。

副業によってトータルの労働時間が増えすぎると、本業のパフォーマンスが落ちたり、健康被害のリスクが高まります。

企業側も労働安全衛生の観点から、従業員の健康管理に向き合うことが求められます。

また、若い時は「たくさん働いて成長したい」と考える学生が多いですが、「仕事に8時間、休息に8時間、やりたいことに8時間」という労働運動の理念にもあるように、自分自身の人生を豊かにするための文化的な側面に目を向ける時間も大切にしてほしいのです。

渡部あさみ先生

「就活の教科書」編集部チェスンウ

「仕事に8時間、休息に8時間、やりたいことに8時間」とは初耳でした。

特に若い時期は体力があり集中力もあります。

将来、育児や介護、自身の病気療養などで思うように時間が取れなくなる可能性は誰にでもあります。自由に時間が取れるうちに、豊かな人生の基盤や人間としての厚みを作るための時間を大切にしてほしいというのが、私個人としての考え方です。

仕事以外に読書、スポーツ、地域活動などの活動でも多くのものが得られると思います。

渡部あさみ先生

「就活の教科書」編集部チェスンウ

「たくさん働いて周りと差をつけないと」と思っていました。

確かに、仕事以外でも成長できるものはありそうですね。

 

渡部あさみ教授にインタビュー③就活生へのメッセージ

就活生が見るべきポイント「労働組合」・労使コミュニケーション

「就活の教科書」編集部チェスンウ

就職先の企業選びでおすすめなポイントがあれば教えてください。

就職先を選ぶ際に、私個人としておすすめしているのは、労働組合がある企業や、労使コミュニケーションを重視している企業を選ぶことです。

労働組合があるということは、労使関係や対話の制度が整っていることを意味します。

現場の声に耳を傾け、トップダウン一辺倒ではない企業こそ、長期的に安心して働き続けることが可能です。

渡部あさみ先生

「就活の教科書」編集部チェスンウ

労働組合がある企業や、労使コミュニケーションを重視している企業がおすすめなのですね。

また、「会社は自分を見てくれている」という信頼関係を組織と結ぶことは、社員が主体的に組織に関わることにつながり、結果的に企業の生産性向上にも貢献します。

労使コミュニケーションを円滑にして信頼関係を築くことが、生産性向上につながるという先行研究の指摘もあります。これは人口減少が進む地方においても、非常に重要な知見なのではないでしょうか。

ぜひ、労使コミュニケーションがきちんと機能しているかどうかという特徴に目を向けて、企業を選んでほしいと思います。

渡部あさみ先生

 

就活生へのメッセージ「日本社会の背景と課題を知って就活をしてほしい」

「就活の教科書」編集部チェスンウ

渡部先生、ありがとうございました!

最後に就活生にメッセージをお願いします!

「何のために働くのだろうか」と考えながら、仕事探しをしていただきたいと思っています。

つまり、「働くことで人生を豊かにするためには、どういった条件が必要なのか」「労働時間はどれくらいが望ましいのか」と、自分自身で考えていただきたいのです。

そのためにも、これまで日本の社会においてどういった課題があったのか、なぜ今、ワーク・ライフ・バランスであったり、共働き・共育てということが求められているのかという、その社会的背景をきちんと踏まえて就職活動をしてほしいと感じております。

日本の社会が抱える課題や背景をきちんと理解し、自分の幸せの定義を踏まえた上で、あなた自身を守り育ててくれる企業を選んでください。

渡部あさみ先生

「就活の教科書」編集部チェスンウ

労働時間の大切さを深く実感しました。

渡部先生、本日は貴重なお話を本当にありがとうございました。

研究室探訪渡部 あさみ