「就活の教科書」編集部チェスンウ
こんにちは!「就活の教科書」取材チームのチェです。
本日は、金城学院大学の鶴田美保子准教授にインタビューしました。
鶴田先生、本日はよろしくお願いします!
よろしくお願いします。
鶴田美保子准教授

鶴田 美保子(つるた・みほこ)
金城学院大学 人間科学部 多元心理学科 准教授
1986年に大学卒業後、航空業界で22年間勤務。45歳で大学院へ進学し、キャリア心理学および組織心理学を学ぶ。2012年に大学院修了後、複数大学でキャリア教育・キャリアデザイン科目の非常勤講師を務める。リーマンショック世代の学生支援をきっかけにキャリア形成支援に注力し、2019年からは金城学院大学でキャリア心理学を専門に教育・研究を行う。企業経験を活かし、組織内の人材育成にも取り組む。
目次
金城学院大学 鶴田美保子准教授にインタビュー①:就活で結果が出る学生の共通点──成功のカギは「自己効力感」
就職活動を成功させるカギは”自己効力感”?「できそうという感覚が結果を変える」
「就活の教科書」編集部チェスンウ
さっそくですが、就職活動を成功させる要因について教えてください!
私は「自己効力感の高さ」だと思います。
自己効力感とは、心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念で「ある課題や行動をうまくやっていけそうだ」と思える感覚的な自信のことです。
実は、2022年3月に「大学生の就職活動を成功させる要因 ~コロナ禍における女子大学生の調査~」というタイトルで、新型コロナウイルスが感染拡大する中で企業の対応が急変した2020年前後の就活状況をを分析した論文を発表したのですが、そこで分かったのは自己効力感が高い学生の方が、就職活動を通じて自己の向上を感じられ、内定先にも満足している傾向があることでした。
他の要因もありますが、この“自信の感覚”が非常に大きな違いを生んでいたんです。
重要なのは、“実際にできるかどうか”ではなく、「なんかできそう」と思えるかどうか。
この「できそう」という感覚が、行動を起こすきっかけになるんです。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
できると思えることが、実際の結果にもつながるのですね。
だからこそ、この自己効力感をどうやって高めるかが大事なんです。
その糸口をつかんでもらうために、私は心理学者であるアルバート・バンデューラの「自己効力感を高めるための要素4つ」を紹介しています。
まず、1つ目は「成功体験を積み重ねること」です。
最初は大きな目標ではなく、小さなステップを一つずつ達成する経験をしてほしいです。
それによって「あ、できた」という感覚が自信につながり、次の挑戦に向かう力になります。
例えば、「1日1社調べてみる」「1回だけ面接練習をする」といった小さな行動でも大丈夫です。
それを繰り返すことで、少しずつ“できそう”という感覚が育っていきます。
そうすると、「あ、続けられている」「できてる」という感覚が生まれるのです。
鶴田美保子准教授
自己効力感を高める方法②:「他者の成功を見る力」──代理的体験が生む“自分もできそう”の感覚
2つ目は「他人の成功を見て自分もできそうと思うこと」です。
私たちは1日24時間という限られてる時間の中で生きています。しかも体は1つしかありません。
そのため、自分の経験だけでは自信をつけるのは難しいかもしれません。
一方、自分と似たような人が成功しているのを見たとき、「あの人ができるなら、私もできそう」と思いますよね?
こういった経験を代理的体験と言います。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
確かに、自分と似たタイプの人が活躍していると「自分もできるかも」と思いますね。
身近な例をあげると、同じ学年の学生がうまくやっているのを見ると、「同じ条件の自分にもできるかも」と感じられる。
これも立派な“成功体験”だと思います。
鶴田美保子准教授
自己効力感を高める方法③:「言葉の力」──人からの励ましが自信をつくる最後に、
3つ目は「言語的説得」と呼ばれる方法です。
他者からの「フィードバック」や「励まし」によって自信が高まる。
例えば、「あなたならできるよ」「今回はうまくいかなかったけど、次はきっとできるよ」と言われると、不思議と「そうかも」「やってみよう」と思えるようになりますよね?
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
たしかに、自分一人だと「なんでうまくいかなかったんだろう」で終わってしまうことが多いです、、、
「ここが足りなかったけど、この部分はとても良かった」といった具体的なフィードバックをもらうと、「次はもっとできるかもしれない」と思える。
そうした些細な言葉が、自己効力感を引き上げる強力な要素になるのです。
鶴田美保子准教授
自己効力感を高める方法④:「マインドセットを整える」──感情と考え方が行動を支える
4つ目は「自分のマインドセットをどうするか」です。
今できないことでもずっとできないわけではありません。
今は難しいかもしれませんが、「経験」や「努力」を積めば、いつかできるようになるのです。
そういう考え方を持つことが大事だと思います。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
確かに、「今できない=一生できない」ではないですよね。
それに、人は落ち込んでいる時には他のことが考えられなくなります。
でも、少しリラックスして気持ちを整えたり、「自分がうまくいっている姿」を想像することで、「できそう」という気持ちが自然と湧いてくることがあります。
つまり、感情のコントロールも自己効力感を支える重要な要素なんです。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
具体的に、学生が実践しやすい自己効力感を高める方法はありますか?
「アルバイト」「サークル活動」など、大学外の経験でも「小さな成功」「励まし」「良い体験」を積み重ねることで、自己効力感を高められます。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
確かに、学生もすぐ実践できそうですね。
変化の時代を生き抜く自己効力感──「できる自分」を育て続ける力がキャリアを変える
就活生が自己分析をする際、「自分の強みはこれ」「自分にできることはこれ」と分かったところで終わらせる場合もありますが、私はその段階で自己分析をやめるのはもったいないと思います。
自己分析は“今の自分を知る”ための出発点でもあり、“これからどう成長するか”を考えるための材料でもあります。
今は「人生100年時代」と言われています。
そのうえで、産業や仕事の形はどんどん変化しています。
その長い時間の中で、いつでも働こうと思えば働ける力を養っておくことが大切です。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
終了点ではなく、出発点ということですね。
特に、今は生成AIやDXの登場によって、これまで当たり前だった仕事の進め方や、求められるスキルが大きく変わっています。
昔は「このスキルがあれば大丈夫」と言われたものが、技術革新によって求められなくなることもあります。
実際、2020年前後のコロナ禍で自分が「やりたい」と思っていた仕事が突然なくなった経験をした人もいると思います。
今の大学生の皆さんは、まさに変化が激しい時代を生きている。
だからこそ、自分の強みを“固定化”するのではなく、“開発”し続ける意識が大切です。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
「自分の強みを開発し続けること」について詳しく教えていただけますか?
「強みを開発する」とは、新しいことを学び、挑戦する姿勢を持つことです。
学生には「今はできない」ではなく、「やればできる」「勉強すればできそう」と思える力を身につけてほしいです。
鶴田美保子准教授
金城学院大学 鶴田美保子准教授にインタビュー②:自己効力感の活用方法とは?「できそうと思うことが結果を変える科学的メカニズム」
現実的に難しい夢に挑戦する意味とは?「諦めるのではなく、やり方を工夫する」
「就活の教科書」編集部チェスンウ
世の中には、「トップのスポーツ選手」「アイドル」など、現実的に才能がないとスタートラインに立つことすらも難しい夢もあると思いますが、そういったものも自己効力感で叶えるのですか?
確かに、努力しても届かない限界というものはあります。
アイドルになりたいと思っても、憧れの人のように完全に同じようにはなれないかもしれません。
しかし、それでも「頑張りたい」と思える気持ちが大事だと思います。
「自分もやってみたいな」と思う気持ちから物語は始まるのです。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
その“始める気持ち”が大事なんですね。
やってみて「やっぱりこれは難しいな」と感じたときには、やり方を工夫することをおすすめします。
人生は長いですし、何が起こるかわかりません。
ただし、就職活動など現実的な局面になると、「お金を稼ぐ」「生活を維持する」ということも考える必要があります。
そのため、「アイドルを目指すけれど、同時にアルバイトもしながら挑戦する」みたいな形でその夢を支えるための資金を稼ぐことも意識してほしいです。
鶴田美保子准教授
キャリアに正解はない?「“全力で挑む”か“バランスを取る”かは自分次第」
「就活の教科書」編集部チェスンウ
一部では、やりたいことがあれば全力でそれだけやるべきといった意見もありますが、先生はどのように考えていますか?
それが本人にとって本当にやりたいことであれば、周りがとやかく言う必要はありません。
当然ながら、何か一つのことをストイックに突き詰めていくタイプの人もいます。
生きていくうえでのキャリアって、今はもう「仕事だけ」を指す言葉ではなく、人生全体を含む考え方です。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
結局、キャリアに正解はないのですね。
キャリアとは、自分ひとりで完結するものではなく、周囲との関係性の中で成り立つものでもあります。
例えば、家族との関係、親や子どもとの関係、地域や社会の中での役割など、人は仕事以外にも、いくつもの「役割」を持っています。
だから、どこにどれだけ力を注ぐのかを考える必要があるんです。
ストイックに突き詰めていくタイプの人もいれば、そこまでストイックにできない人もいる。
やりたいことに全力で突き進む人は、それに集中すればいい。そうではない人は、他の責任や環境とのバランスを取りながら生きていくといいと思います。
鶴田美保子准教授
金城学院大学 鶴田美保子准教授にインタビュー③:偶然のきっかけとは?「予想外の瞬間がキャリアにつながる」
仕事における価値観は10年で定まる?「10年で仕事の価値観が決まる」
就活生が社会人になった時のために「仕事における価値観」について紹介します。
実は、働き始めて10年ほど経つと、自身が仕事において大事にしたいと思う軸は、これ以降大きく変化しないようになるという研究があります。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
社会に出てから、軸がある程度固まっていくということですね。
これはキャリア心理学者のエドガー・シャインが提唱した「キャリア・アンカー」という概念です。
ここで、アンカーとは船のいかりのことです。
つまり、自分という船が広い海を航海しているとして、仕事や人生でいろんな出来事に出会う中で、「ここに立ち止まりたい」「これは譲れない」と思うポイントがありますよね?
それが「キャリア・アンカー=自分の仕事上のよりどころ」です。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
確かに、譲れないものは誰にでもありますよね。
いうまでもなく、人によってこの“よりどころ”は違います。
マネジメントに喜びを感じる人もいれば、クリエイティブな仕事にやりがいを感じる人もいる。
シャインの理論では、代表的な8つのキャリア・アンカー(専門・職能的、経営管理、自律・独立、保障・安定、起業家的創造性、奉仕・社会貢献、挑戦、ライフスタイル)に分類されます。
そして、仕事に就いて10年ほど経つと、その人のキャリア・アンカーは大きくは変わらないと言われています。
鶴田美保子准教授
偶然がキャリアを変える?──エドガー・シャインと「創造的機会主義」の考え方
「就活の教科書」編集部チェスンウ
エドガー・シャインが提唱した「創造的機会主義」についても教えてください!
シャインが提唱した創造的機会主義というのは、偶然をうまく活かして、自分のチャンスに変えていく考え方です。
実は、シャインのほかにも、ジョン・クランボルツという研究者も「偶然はキャリアに大きな影響を与える」と言っています。
彼らの主張には私も強く共感しています。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
先生ご自身も、偶然から道が開けた経験があったのですか?
私は会社を辞めて、翌年に大学院に進学したんですが、それも完全に偶然の出会いがきっかけでした。
当時、ある大学の先生のもとへ荷物を届けに行ったことがあったのです。
そのとき、先生が「社会人で勉強している人もいるのよ」と何気なく言っていました。
そして、「今なら願書を出せる時期よ」と言われて、それを機に大学院に進学を決めました。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
まさに偶然から大学院に進学されたのですね。
ただの偶然だけではなく、その瞬間に「やってみようかな」と思えたことが大事です。
これはシャインの「創造的機会主義」にも通じます。
例えば、会社で上司から「これをやってみて」と言われたとき、最初は「自分には難しかも」と思う時ありますよね?
でも、やってみると意外とできたりする場合もあります。
最初は「無理」と思っていたことでも、経験を積むうちに「次もやってみたい」と自然に言えるようになる。
つまり、「偶然の機会を拒まずに、まずはやってみる」ことが、その後のキャリアの幅を広げるんです。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
確かに、やってみないとわからないこともありますよね。
同じように経験をしても、興味を持つかどうかは本人次第です。
偶然の中に“新しいきっかけ”を見出せるかどうかが自分のキャリアを作っていく分かれ道なんだと思います。
偶然をただの出来事として流すのか。それとも、チャンスとして掴むのか。
それは日々の考え方と行動次第です。
つまり、キャリアは計画だけで作るものではなくて、偶然の積み重ねからも生まれるんです。
偶然を受け入れて、そこから少しずつ動くことで自分の道になるのです。
鶴田美保子准教授
金城学院大学 鶴田美保子准教授にインタビュー④:就活生へのメッセージ
「勉強」と「実践」をつなげるキャリア思考を持とう。
「就活の教科書」編集部チェスンウ
鶴田先生、ありがとうございました。
最後に、就活生へのメッセージをお願いします!
就職活動では「自己分析」がとても大切です。
時代が変わるほど、「やれるかもしれない」と信じて行動できる人が強くなるはずです。
その上で、自分が「やりたいこと」「できること」「大切にしたい価値観」を理解し、社会や企業がどんな価値観を持ち、何を求めているかを知る。
その両方の理解とマッチングが、納得のいくキャリア選択につながります。
今は「働く」ことを義務や固定観念で考えず、「自分はどう生きたいのか」をベースに選択できる時代です。
働かない選択も、誰かと協力して違う形で貢献する選択も尊重すべきです。
ただし、私はいつでも働ける力”を持っておくことが、自分らしい人生を支える基盤になると考えています。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
今の学生に「働き方だけではなく、生き方も考えるべき」と伝えているのですね。
もう1つ、就活生には「偶然の出来事をただ待っているだけではダメ」ということを伝えたいです。
何か目の前にあることを、“これは何の意味があるんだろう?”と思いながらも、ちゃんと取り組んでおくことが大切だと思います。
そうして続けていくうちに、あるとき偶然の出来事がふっと訪れて、それが以前の経験や行動と結びつく瞬間があります。
そのとき、初めて「あのときやっていたことにも意味があったんだ」と感じられるはずです。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
その偶然がつながる瞬間はどんなときに訪れるんでしょうか?
例えば、「面接」や「説明会」など、緊張する場面に行かなければいけなかったり「なんでこんなことをやってるんだろう」と思うこともあるかもしれません。
でも、そうやって積み重ねていることは、今すぐ結果に結びつかなくても、時間が経ってから“意味を持つ瞬間”がやってくるかもしれません。
ある日、思いがけないきっかけで成果につながったり、「あのときやっておいてよかった」と感じられることもきっとあると思います。
だから、目の前のことをやりながらも、少し先のことも考えるようにしてほしいんです。
そして、「今の自分がすべてではない」ということ。
これから先、自分の能力や強みは、努力や経験を重ねることでいくらでも伸ばしていけるんです。
学生の皆さんには、そういう気持ちで就活を頑張ってほしいです。
鶴田美保子准教授
今の学びが未来につながる──キャリアを広げる視点を持つことが大事
「就活の教科書」編集部チェスンウ
大学での学びって、社会に出ると本当に役に立つのか疑問を持っている学生もいます。そういった学生にメッセージお願いします!
「学びを自分の生活や行動に結びつける」ことを伝えたいです。
学びを広げられるせっかくのチャンスなので、積極的に大学で得た学びを活かしてほしいです。
そのほかに、自分の専門以外の知識でもいいと思います。
それを「自分の生活」や「これからの仕事」とどうつなげられるかを意識してほしいです。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
大学生の中では「単位を取るための勉強」になってしまうことも多いですよね。
たしかに「この単位を取らないと留年する」「卒業のために仕方なくやる」という学生も多いと思います。
でも、社会人になってからそういった知識が仕事の中で意外な形で役に立つこともあります。
もし、私が学生の頃に今のようなキャリア心理学を知っていたら、「自分だけが悩んでいるんじゃなくて、昔から多くの人が同じように悩んできたんだ」と気づけたかもしれません。
最初は、友達が学んでいる分野に少し興味を持ったり、違う学部の講義を覗いてみたりするだけでもいいんです。
その「学びの幅」が、将来のキャリアの選択肢を広げてくれるはずです。
ぜひ、そうした視点を就職活動でも持ってほしいですね。
鶴田美保子准教授
「就活の教科書」編集部チェスンウ
鶴田先生、本日は本当にありがとうございました!

